AL逆行itsbetween1and0/50 AL長編/it's between 1and0 2012年10月13日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第50話・公爵子息ルーク編02「俺にはないモノいっぱい持ってるくせに」です。 it's between 1 and 0 第50話 ※※※ 呼吸が楽になった。ガイが背中を擦ってくれてて、気持ちが良い。 このまま目を閉じていると、眠っちまいそうだ…。 「アッシュ、剣を取り出して、何を…?」 「もう逃げるのは止めた。そう決めただけだ」 二人の話し声が聞こえて、カシャン、と金属の擦れる音がした。 アッシュの剣の音って、澄んでてキレーだ…。 「今から、父上と話をつけてくる。…ガイ、俺が戻るまで、ルークを部屋から出すなよ」 歩幅の大きい、自信に満ちた足音。 ばたん、とドアの閉まる音。 さっき、自分の剣を持ってた。アッシュ、もうダアトに行っちまうのかな…。 でも、父上と話すって言ってなかったか…? ダアトに行ってきますって挨拶でもしに行ったのか…? ……んなワケねぇか。 「ルーク、薬を飲むか?楽になるぞ?」 目を開けると、青い液体の入ったボトルが見えた。 いつもの錠剤じゃなく、咳が酷い時に飲むヤツだ。 「…それ、やだ。不味ぃ…、眠くなる…」 アッシュが無事に屋敷を出るまでは、眠りたくない。 …つーか、アッシュはなんで父上の所に行ったんだ? さっき、父上がすっげぇ怒ってた所、チャネリングで、見てたんじゃなかったのかよ…? アッシュの考えてる事って、マジで分かんねぇ…。 だいたい、俺の剣ならまだしも、自分の剣なんて持って…。 ……話をするのに、剣を持って行った…? ちょっと待てよ。それって…!! 俺は慌てて飛び起きた。 眠ってる場合じゃねぇ!!! 「おい、ガイッ、アッシュが父上と話すって…!」 ガイの方に振り向こうとした途端、頭を包むように捕まれて、口を塞がれた。押し退けようと思って腕を突っ張ったけど、ガイの方が腕力あって、上手くいかない。もがいてる内に、口移しで薬が口ん中に入ってきて、驚いてる内に飲んじまった。 さっき、俺は飲みたくねぇって言ったのに…! 息が上手く出来なくて、力が抜けてベッドに崩れた時、ようやく解放されたと理解した。 俺の口から溢れた薬を拭ってくれてるガイを、睨み上げる。 「…っ、何すんだよっ!眠くなっちまうじゃねぇーか…!」 「今は、眠っていてほしいんだよ」 はぁ!?意味分かんねぇーよ!! どう考えても、眠ってる場合じゃねぇだろ、今は!! 「アッシュが剣を持って、父上の所に行ったんだぞ!!アッシュが何考えてるか知らねぇけど、とにかく止めねぇと!!」 ベッドから起き上がった時、ガイが、部屋のドアの前まで後退った。 ……俺を行かせねぇ気だ。 「…そこを退けよ。いくらガイでも、マジで怒るからな…!」 「アッシュの頼みでもあるんだ。頼むから、ここを出るな」 アッシュの頼み!? あいつ、ほんと何考えてんだ!? 俺を行かせないように頼んだっつー事は、本気で、父上に剣を向ける気なんだ!! 父上はアッシュに何もしてねぇだろ!? なんで、親子で戦わなきゃいけねぇんだよ!! 「ふざけんな!!あいつは剣を持って行ったんだぞ!!意味分かんねぇけど、あいつが剣を持って行ったなら、ただで済むワケねぇだろ!!止めねぇとどうなるか…」 言いかけて、俺は、ガイの表情に気付く。 ガイは、復讐する為に、ファブレ家に潜入した。 もし、アッシュと父上が戦ったら、どっちか、もしかしたら、どっちも、ただじゃ済まない。 ファブレ家の人間が、傷付く。 ……それって、ガイの宿願…って事になるのか……? 「…ガイ、まさか、アッシュが父上に剣を向けて…、どっちかが死んだら良い…なんて、思ってねぇ…よな?」 俺が聞くと、ガイは困ったと言いたそうな顔で笑う。 俺は、その笑い方の意味を、知ってる。 ガイが図星を指されて誤魔化そうとしてる時の笑い方だ。 「……悪いな、ルーク」 …そうだよな。ずっと、ずっと、嫌いな人間の住む屋敷で耐えてきたんだ。そんな簡単に、捨てられる思いじゃねぇよな。 ガイの願いなら、俺だって、叶えてやりたい。でも、こんなのは、ダメだ。 本当の父親と息子が傷付けあって、殺しあう姿を見るなんて、それを笑って見るなんて、ガイにしてほしくない。こんな卑怯な事、ガイにさせたくない。 「…なぁ、ガイ、復讐を止めろなんて、俺には言えねぇよ。でも…、……でも、こんなのは、ダメだ…」 ガイが俺から目を反らす。 「……何がダメなんだ。お前に俺の気持ちは分からないだろ」 「分かんねぇよ!!でも、卑怯なガイは、嫌なんだ!!」 ガイの胸倉を掴んで、反らした視線を俺の方へ戻す。 「俺は、レプリカだけど、一応ファブレ家の人間だ!!…っどうしても、ガイが、復讐したいって言うなら、俺を殺せば良い!!」 「…ルーク、何言って…」 「俺は、しなくちゃいけねぇ事、あるから、今はダメだけど、でも、いつか、お前に殺されてやるから、だから、…っ!」 今は、ここを通してくれ。 そう言いたかったけど、呼吸が切れて、息が詰まって、声にならない。 苦しくて、泣きたくなって、俺はガイの胸元に顔を埋めた。 ガイが俺の背中に手を回して、擦ってくれる。このまま眠れたら、どんなに気持ち良いだろう。 でも、それはダメだ。 「なぁ、ルーク、お前の命、俺にくれるって言うのか?アッシュと公爵を殺させない為に?」 「…俺じゃあダメか?」 「ダメとかじゃないだろ…!!」 ガイはそう言うと、俺の背に回した腕に力を込めた。 …苦しい、っつーか痛ぇ…!! 「…ルーク、誓わせてくれ」 ……あ?何を? 「ルーク・フォン・ファブレに、永遠の忠誠を」 俺は驚いて顔を上げた。 今、何つった?永遠の忠誠?なんかソレ、聞き覚えあるぞ。 「……忠誠は、いらねぇよ。今のまま、友達でいいじゃん」 「永遠の友情…、いや、友情は止めとこう」 え?なんで?友達じゃダメなのか? まぁ、わざわざ誓ってくれなくても良いけどさ。 ガイが腕を解いて、俺を放してくれる。それから、部屋のドアを開けて、道を開けてくれた。 「…ガイ、ありがとな」 俺が言うと、ガイは仕方ないだろって言いたそうな顔で笑う。 この笑顔の意味も知ってる。俺の我儘を聞いてくれる、優しい時の顔だ。 俺は部屋から飛び出すと、アッシュがどこに向かったのか考えながら、屋敷の方へ向かった。 見張りの白光騎士が「えっ?ルーク様っ?」って驚く。 ここをアッシュが通ったんだ。 「俺、さっき、ここを通っただろっ?」 「えっ、あ、は、はい…、で、ですが…」 「どこ行ったか知ってるかっ!?」 「えぇっ!?先程、ルーク様は書斎に行かれたのでは…」 「父上の書斎か!ありがとっ!!」 俺は扉を開いて、屋敷の中に入る。廊下を走って、階段を駆け上がる。息が切れて、咳は出るし、薬のせいでクラクラするし、とにかく気分は最悪だけど、今は、そんなの構ってる場合じゃねぇ! 早く!早く!!早く!!! 書斎へと続く廊下を一気に走り抜け、その勢いのまま、書斎の扉を開けた。 目の前には、剣を抜いたアッシュと、椅子から立ち上がった父上。 「アッシュ!!お前、何やってんだ!?止めろよ!!」 2人の間に割って入り、アッシュを睨み付ける。 「おい、てめぇ、ガイはどうした?」 「ガイは俺を通してくれた」 「…ちっ、役に立たねぇ野郎だな」 「アッシュ、理由は分かんねぇけど、とにかく剣を収めろ」 「んだと?俺に指図すんじゃねぇ!」 今にも斬りかかってきそうな気迫だ。 …あ。やべ。来るのに必死で、剣を持って来てなかった。 ほんとに斬りかかってきたらどうすんだ俺。 「っだ、だいたい、なんで父上に剣を向けてんだよ!!」 「ぶっ潰してやりてぇからに決まってんだろうが!!!」 「それが意味分かんねぇんだよ!お前、実の父親だぞ!?」 「はっ、関係ねぇな!!」 うーわー!!その笑い方、久々に見た!ムカつくー!!! やっぱ、アッシュはムカつく野郎だ!!忘れてたけど!! 「てめぇには分からねぇだろうがな、血の繋がりなんざ、」 「確かに、レプリカの俺には、分かんねぇよ!!」 こいつは、やっぱ、俺の知ってるムカつくアッシュだ!! 俺にはないモノいっぱい持ってるくせに、 関係ねぇなんて贅沢が言える、大馬鹿野郎のアッシュだ!! 「分かんねぇよ!自分を生んでくれた本当の両親がいるのに、預言から逃げられたお前を探さないでくれた父親がいるのに、そんなに大切にされてるのに、剣を向ける気持ちなんて…っ!」 「…っな!?」 アッシュが驚いて剣先を下げた。 こいつは、今まで、考えもしなかったんだ。 俺がレプリカだと知っても屋敷に置いてる父上の気持ちなんて。 レプリカの俺を身代わりにして、本当の息子を守りたいっていう父上の気持ちなんて。 「…おい、屑。じゃあ、てめぇは、このままで良いのか?」 は?何が? 「こんな扱いを父親から受けて、それで良いのか!?身代わりにする為に生かされてるだけで、一人の人間として、扱われないままで良いのか!?」 …え? え、っえ? …ちょ、ちょっと、待ってくれ。ちょっと、状況を、整理させてくれ。 …もしかして、アッシュ、俺の為に、怒ってくれてんの? 「…あの、アッシュ?」 「さっさと答えやがれ!!」 …うー…。なんか色々考えてたら、恥ずかしくなってきたぞ。 アッシュが俺の為に、とか。 ちょっと嬉しいとか思っちまって、余計に恥ずかしくなる…。 いや、嬉しいとか思ってる場合じゃねぇよ俺!!とにかく、ここは止めさせねぇと!! 「…お、俺は、別にいいんだよっ」 「いい訳あるか、この屑がっ!!」 このヤロー!!何回屑って言えば気が済むんだ!? 「じゃあ、どうしろっつーんだよ!仕方ねぇだろ!!俺がレプリカっつー事実は変わんねぇんだし!!」 「てめぇのその卑屈根性、叩き直してやるっ!!」 別に卑屈じゃねぇー!!つーか、丸腰の俺に、剣先を向けんじゃねぇ!! どうすれば、こいつ、剣を引っ込めるんだよ!? アッシュの馬鹿アホ分からず屋ー!!!! 「……剣を収めなさい、ルーク」 か細くて穏やかな声が聞こえてきて、俺は、扉の方に顔を向けた。 「「……母上…!」」 アッシュと声が重なって、思わず、顔を見合わせる。 扉の近くにいた母上が苦笑していた。その後ろで、ガイも苦笑している。 …もしかして、ガイが母上を連れてきてくれたのか? 「…シュザンヌ、そなた……」 父上の声が聞こえてきて、俺は振り返った。 「あなた、私達家族は、よく話し合う必要がありますわね。ルーク…いえ、新しい名は、アッシュだったかしら?あなたも、ここは剣を収めなさい。……良いですね?」 「…はい」 カシャン、と剣が鞘に収まる。 それを見て、良かった、と思ったら、目の前が揺れた。 みんなが「ルーク!」って叫んでたから、大丈夫って応えたかったけど、 ……もぉ、無理。 ※※※続きます※※※ PR