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AL逆行itsbetween1and0/50



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”


第50話・公爵子息ルーク編02「俺にはないモノいっぱい持ってるくせに」です。





it's between 1 and 0 第50話


※※※


呼吸が楽になった。ガイが背中を擦ってくれてて、気持ちが良い。

このまま目を閉じていると、眠っちまいそうだ…。


「アッシュ、剣を取り出して、何を…?」

「もう逃げるのは止めた。そう決めただけだ」

二人の話し声が聞こえて、カシャン、と金属の擦れる音がした。


アッシュの剣の音って、澄んでてキレーだ…。


「今から、父上と話をつけてくる。…ガイ、俺が戻るまで、ルークを部屋から出すなよ」

歩幅の大きい、自信に満ちた足音。
ばたん、とドアの閉まる音。


さっき、自分の剣を持ってた。アッシュ、もうダアトに行っちまうのかな…。
でも、父上と話すって言ってなかったか…?

ダアトに行ってきますって挨拶でもしに行ったのか…?

……んなワケねぇか。


「ルーク、薬を飲むか?楽になるぞ?」

目を開けると、青い液体の入ったボトルが見えた。
いつもの錠剤じゃなく、咳が酷い時に飲むヤツだ。

「…それ、やだ。不味ぃ…、眠くなる…」

アッシュが無事に屋敷を出るまでは、眠りたくない。

…つーか、アッシュはなんで父上の所に行ったんだ?
さっき、父上がすっげぇ怒ってた所、チャネリングで、見てたんじゃなかったのかよ…?

アッシュの考えてる事って、マジで分かんねぇ…。

だいたい、俺の剣ならまだしも、自分の剣なんて持って…。


……話をするのに、剣を持って行った…?

ちょっと待てよ。それって…!!


俺は慌てて飛び起きた。

眠ってる場合じゃねぇ!!!

「おい、ガイッ、アッシュが父上と話すって…!」

ガイの方に振り向こうとした途端、頭を包むように捕まれて、口を塞がれた。押し退けようと思って腕を突っ張ったけど、ガイの方が腕力あって、上手くいかない。もがいてる内に、口移しで薬が口ん中に入ってきて、驚いてる内に飲んじまった。

さっき、俺は飲みたくねぇって言ったのに…!

息が上手く出来なくて、力が抜けてベッドに崩れた時、ようやく解放されたと理解した。
俺の口から溢れた薬を拭ってくれてるガイを、睨み上げる。

「…っ、何すんだよっ!眠くなっちまうじゃねぇーか…!」

「今は、眠っていてほしいんだよ」

はぁ!?意味分かんねぇーよ!!
どう考えても、眠ってる場合じゃねぇだろ、今は!!

「アッシュが剣を持って、父上の所に行ったんだぞ!!アッシュが何考えてるか知らねぇけど、とにかく止めねぇと!!」

ベッドから起き上がった時、ガイが、部屋のドアの前まで後退った。

……俺を行かせねぇ気だ。

「…そこを退けよ。いくらガイでも、マジで怒るからな…!」

「アッシュの頼みでもあるんだ。頼むから、ここを出るな」

アッシュの頼み!?
あいつ、ほんと何考えてんだ!?

俺を行かせないように頼んだっつー事は、本気で、父上に剣を向ける気なんだ!!
父上はアッシュに何もしてねぇだろ!?
なんで、親子で戦わなきゃいけねぇんだよ!!

「ふざけんな!!あいつは剣を持って行ったんだぞ!!意味分かんねぇけど、あいつが剣を持って行ったなら、ただで済むワケねぇだろ!!止めねぇとどうなるか…」

言いかけて、俺は、ガイの表情に気付く。

ガイは、復讐する為に、ファブレ家に潜入した。
もし、アッシュと父上が戦ったら、どっちか、もしかしたら、どっちも、ただじゃ済まない。
ファブレ家の人間が、傷付く。
……それって、ガイの宿願…って事になるのか……?

「…ガイ、まさか、アッシュが父上に剣を向けて…、どっちかが死んだら良い…なんて、思ってねぇ…よな?」

俺が聞くと、ガイは困ったと言いたそうな顔で笑う。


俺は、その笑い方の意味を、知ってる。

ガイが図星を指されて誤魔化そうとしてる時の笑い方だ。


「……悪いな、ルーク」


…そうだよな。ずっと、ずっと、嫌いな人間の住む屋敷で耐えてきたんだ。そんな簡単に、捨てられる思いじゃねぇよな。

ガイの願いなら、俺だって、叶えてやりたい。でも、こんなのは、ダメだ。

本当の父親と息子が傷付けあって、殺しあう姿を見るなんて、それを笑って見るなんて、ガイにしてほしくない。こんな卑怯な事、ガイにさせたくない。


「…なぁ、ガイ、復讐を止めろなんて、俺には言えねぇよ。でも…、……でも、こんなのは、ダメだ…」

ガイが俺から目を反らす。

「……何がダメなんだ。お前に俺の気持ちは分からないだろ」

「分かんねぇよ!!でも、卑怯なガイは、嫌なんだ!!」

ガイの胸倉を掴んで、反らした視線を俺の方へ戻す。

「俺は、レプリカだけど、一応ファブレ家の人間だ!!…っどうしても、ガイが、復讐したいって言うなら、俺を殺せば良い!!」

「…ルーク、何言って…」

「俺は、しなくちゃいけねぇ事、あるから、今はダメだけど、でも、いつか、お前に殺されてやるから、だから、…っ!」

今は、ここを通してくれ。

そう言いたかったけど、呼吸が切れて、息が詰まって、声にならない。
苦しくて、泣きたくなって、俺はガイの胸元に顔を埋めた。
ガイが俺の背中に手を回して、擦ってくれる。このまま眠れたら、どんなに気持ち良いだろう。
でも、それはダメだ。

「なぁ、ルーク、お前の命、俺にくれるって言うのか?アッシュと公爵を殺させない為に?」

「…俺じゃあダメか?」

「ダメとかじゃないだろ…!!」

ガイはそう言うと、俺の背に回した腕に力を込めた。

…苦しい、っつーか痛ぇ…!!

「…ルーク、誓わせてくれ」

……あ?何を?

「ルーク・フォン・ファブレに、永遠の忠誠を」

俺は驚いて顔を上げた。

今、何つった?永遠の忠誠?なんかソレ、聞き覚えあるぞ。

「……忠誠は、いらねぇよ。今のまま、友達でいいじゃん」

「永遠の友情…、いや、友情は止めとこう」

え?なんで?友達じゃダメなのか?
まぁ、わざわざ誓ってくれなくても良いけどさ。

ガイが腕を解いて、俺を放してくれる。それから、部屋のドアを開けて、道を開けてくれた。

「…ガイ、ありがとな」

俺が言うと、ガイは仕方ないだろって言いたそうな顔で笑う。


この笑顔の意味も知ってる。俺の我儘を聞いてくれる、優しい時の顔だ。


俺は部屋から飛び出すと、アッシュがどこに向かったのか考えながら、屋敷の方へ向かった。

見張りの白光騎士が「えっ?ルーク様っ?」って驚く。
ここをアッシュが通ったんだ。

「俺、さっき、ここを通っただろっ?」

「えっ、あ、は、はい…、で、ですが…」

「どこ行ったか知ってるかっ!?」

「えぇっ!?先程、ルーク様は書斎に行かれたのでは…」

「父上の書斎か!ありがとっ!!」

俺は扉を開いて、屋敷の中に入る。廊下を走って、階段を駆け上がる。息が切れて、咳は出るし、薬のせいでクラクラするし、とにかく気分は最悪だけど、今は、そんなの構ってる場合じゃねぇ!


早く!早く!!早く!!!



書斎へと続く廊下を一気に走り抜け、その勢いのまま、書斎の扉を開けた。


目の前には、剣を抜いたアッシュと、椅子から立ち上がった父上。


「アッシュ!!お前、何やってんだ!?止めろよ!!」

2人の間に割って入り、アッシュを睨み付ける。

「おい、てめぇ、ガイはどうした?」

「ガイは俺を通してくれた」

「…ちっ、役に立たねぇ野郎だな」

「アッシュ、理由は分かんねぇけど、とにかく剣を収めろ」

「んだと?俺に指図すんじゃねぇ!」

今にも斬りかかってきそうな気迫だ。

…あ。やべ。来るのに必死で、剣を持って来てなかった。
ほんとに斬りかかってきたらどうすんだ俺。

「っだ、だいたい、なんで父上に剣を向けてんだよ!!」

「ぶっ潰してやりてぇからに決まってんだろうが!!!」

「それが意味分かんねぇんだよ!お前、実の父親だぞ!?」

「はっ、関係ねぇな!!」


うーわー!!その笑い方、久々に見た!ムカつくー!!!
やっぱ、アッシュはムカつく野郎だ!!忘れてたけど!!


「てめぇには分からねぇだろうがな、血の繋がりなんざ、」

「確かに、レプリカの俺には、分かんねぇよ!!」


こいつは、やっぱ、俺の知ってるムカつくアッシュだ!!

俺にはないモノいっぱい持ってるくせに、
関係ねぇなんて贅沢が言える、大馬鹿野郎のアッシュだ!!


「分かんねぇよ!自分を生んでくれた本当の両親がいるのに、預言から逃げられたお前を探さないでくれた父親がいるのに、そんなに大切にされてるのに、剣を向ける気持ちなんて…っ!」

「…っな!?」

アッシュが驚いて剣先を下げた。


こいつは、今まで、考えもしなかったんだ。

俺がレプリカだと知っても屋敷に置いてる父上の気持ちなんて。
レプリカの俺を身代わりにして、本当の息子を守りたいっていう父上の気持ちなんて。


「…おい、屑。じゃあ、てめぇは、このままで良いのか?」

は?何が?

「こんな扱いを父親から受けて、それで良いのか!?身代わりにする為に生かされてるだけで、一人の人間として、扱われないままで良いのか!?」


…え?


え、っえ?

…ちょ、ちょっと、待ってくれ。ちょっと、状況を、整理させてくれ。


…もしかして、アッシュ、俺の為に、怒ってくれてんの?


「…あの、アッシュ?」

「さっさと答えやがれ!!」


…うー…。なんか色々考えてたら、恥ずかしくなってきたぞ。
アッシュが俺の為に、とか。
ちょっと嬉しいとか思っちまって、余計に恥ずかしくなる…。


いや、嬉しいとか思ってる場合じゃねぇよ俺!!とにかく、ここは止めさせねぇと!!

「…お、俺は、別にいいんだよっ」

「いい訳あるか、この屑がっ!!」

このヤロー!!何回屑って言えば気が済むんだ!?

「じゃあ、どうしろっつーんだよ!仕方ねぇだろ!!俺がレプリカっつー事実は変わんねぇんだし!!」

「てめぇのその卑屈根性、叩き直してやるっ!!」

別に卑屈じゃねぇー!!つーか、丸腰の俺に、剣先を向けんじゃねぇ!!


どうすれば、こいつ、剣を引っ込めるんだよ!?

アッシュの馬鹿アホ分からず屋ー!!!!


「……剣を収めなさい、ルーク」


か細くて穏やかな声が聞こえてきて、俺は、扉の方に顔を向けた。


「「……母上…!」」


アッシュと声が重なって、思わず、顔を見合わせる。

扉の近くにいた母上が苦笑していた。その後ろで、ガイも苦笑している。

…もしかして、ガイが母上を連れてきてくれたのか?

「…シュザンヌ、そなた……」

父上の声が聞こえてきて、俺は振り返った。

「あなた、私達家族は、よく話し合う必要がありますわね。ルーク…いえ、新しい名は、アッシュだったかしら?あなたも、ここは剣を収めなさい。……良いですね?」

「…はい」

カシャン、と剣が鞘に収まる。

それを見て、良かった、と思ったら、目の前が揺れた。


みんなが「ルーク!」って叫んでたから、大丈夫って応えたかったけど、


……もぉ、無理。





※※※続きます※※※



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