AL逆行itsbetween1and0/40 AL長編/it's between 1and0 2012年09月15日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第40話・六神将ルーク編06「それって、どんなに幸せだろう」です。 it's between 1 and 0 第40話 ※※※ 「おう、おやすみ、ジェイド」 「はい、おやすみなさい」 って言って、ジェイドはにっこり笑顔。 うわー…やっぱジェイドの笑顔って、なんっか怖ぇ…。 つーか、さっき思わずジェイドに楯突いちまったけど、…ちょっと早まったかも……。 「そこまで送るよ」 あ。シンクも出て行っちまった。 …シンクって、ジェイドと妙に仲良いよな……。 頭良い同士、話が合うっつーか、言葉がキッツい同士、波長?が合うっつーか…? 『前』には、こんな事ってなかったけど、なんか、こういうのって、すごく、良い。 『前』とは違う『今』の方が良い。 それをちょっとずつ積み重ねていって、『前』とは違う『未来』を作っていけたら良いよな。 まぁ、あの2人に挟まれてる俺は、生きた心地しねぇーけど。…ストレスでハゲるかも。 「ん…?」 …あれ?何だ?なーんか忘れてるよーな…。 「あっ!サイン!書類にサイン!!」 うわー!肝心じゃねーけど、…いや、こっちも一応肝心か、とにかく、夜にジェイドが来るっつってたから、じゃー夜でも良いかーって思ってた書類のサイン!! 「ジェイドに貰っとかねーと!」 多分まだその辺にいるよな! 書類を掴んで慌てて天幕から出て、周囲を見回す。 外は、いつのまにか、雪が降り始めていた。 バチカルの雪とは違う、大きなふわふわの雪だ。 少し離れた天幕の向こう側に、ジェイドとシンクが歩いているのを発見。 「ジェ…」 名前を呼びかけて、慌てて口を覆う。 そういえば、顔を隠す仮面をつけてきてなかった。 他のヤツに顔を見られるのは、マズい、よな? …あっ!つーか、髪の色が赤いままだった!! 誰にも見つからねぇように、追いかけるしかねぇか。…うー…寒いってのに、めんどくせー…。 でも天幕に戻ってる間に見失っちまいそうだし。 しかも、2人が歩いていった方向って、マルクト側じゃねぇし? ……何処に行ってんだ、あいつら? ジェイド達を追いかけて行ったけど、途中で見失っちまった。 「どっかの天幕に入ったのか…?」 …あー……しまったなー…。明日早起きして朝一番にサイン貰えば良いか…。 そんな風に考えかけた時、ふと、足元の踏み荒らされた地面が目に映る。 まだ雪を被っていない新しい足跡が二組。 足跡が向かう先は、フツーの譜業兵器を仕舞ってある天幕。 見張りの兵が一人いるだけ…だよな? ジェイド達が入ったって確証があれば、入っていけるんだけどなー…。 つーか、ジェイド達以外がいたら、俺はマズいだろ。顔を隠してないし、髪も赤いし。 ………。 ちょっと中を確認して、ジェイド達がいたら、……あー、入っていけそうな感じなら入ろう。 待つ感じなら諦める。待つのはちょっとしんどいぞ、この寒さは。 よし、決まり!これは覗きじゃねぇ!確認だからな!! 気配を殺して、天幕に近付く。 少しだけ、そっと垂れ幕を開くと、中から声が聞こえてきた。 「お初にお目にかかります、カーティス師団長様。私の名は、ガイ・セシル。ファブレ家の使用人です」 へっ???ガイ!!???なんで!!!??? 「ファブレ家の…。では、やはり、先程の…。いや、失礼。私はジェイド・カーティス大佐です」 「ガイ・セシルは、昨夜、バチカルから到着したんだ。昨夜アンタと別れた後に合流してね」 なんで!?え!?シンクとガイって知り合いなのか!? ジェイドとは初対面って感じだったけど…? はぁ!?何だよ、これ!?どーなってんだ!? 「さっきのジュース、アンタは気付いたんだろ?」 シンクの言葉を聞いて、あのジュースを思い出す。 ガイがいるって事は……、ガイが持って来たのか…? 「ジュースというより、シロップでしょう…。…あれは、レプリカ用のものです」 ……え…? 「ファブレ公爵は、ルークがレプリカである事を、既に知っている…という事なのですね?」 ……今、何て…? 「アッシュは、間違いないだろう、と」 「では、公爵は、ルークをレプリカと知っていながら、いずれ息子の代わりに殺す為、屋敷に置いていると…?」 まだ3人の話は続いていたけれど、意味が分からなくなって、俺は天幕から離れた。 『公爵は、ルークがレプリカである事を、既に知っている』 父上は俺が『レプリカ』って知ってるんだ…。……そっか。そうだったんだ…。 『前』はそうじゃなかったけど『今』はそうなんだ…。 『前』に俺がレプリカだって事が知られた後、母上は俺を息子としてすぐに受け入れてくれた。 あの時、父上とは、殆ど何も話さなかった。『少しは公爵家の人間として相応しい生活を送りなさい』とか言われてただけで、本当は俺の事をどう思ってるのか、分からなかった。俺も怖くて聞く事なんて出来なかった。 それでも『前』は、新生ローレライ教団の使者としてやって来たラルゴを前に、『我が息子は2人とも生きている』と言ってくれた。 その時、俺もうそんなに長く生きられないって知ってたけど、父上に『息子』って思われてる事が、すごく嬉しかったんだ。 でも『今』は違うんだ。 父上にとって、最初から、俺はただのレプリカで、アッシュの身代わりなんだ。 息子じゃないんだ…。 『いずれ息子の代わりに殺す為、屋敷に置いている』 アッシュの身代わりかぁ…。 うん、まぁ、間違いじゃねぇんだけど。俺はその目的で造られた訳だし…。 空を見上げると、真っ暗な空間から、真っ白な無数の雪が、落ちてくるのが見える。 なんとなくアッシュの声が聞きたくなった。 (……アッシュ…、聞こえるか…?) 耳鳴りが始まって、頭の奥の方が痺れてきた。 (……何の用だ?何かあったのか?) 用、用…、えぇと、声が聞きたかっただけって言ったら、……やっぱ、怒るよなー。 …えぇと、何か言わねぇと…。ガイの事を聞くのは、ちょっとマズい気がするし、えぇと…、 (そっちは、寒くないか?) 俺が黙ってたのに、アッシュは怒ってないようだった。 その証拠に、俺より少し低くて落ち着いた声が、優しかった。 (うん、すっげぇ寒い!雪、降ってるぜ!お前にも見えるだろ?すっげぇキレーだぜ……) 見上げると、真っ暗な夜の空は、真っ白な無数の雪で埋め尽くされそうになっていた。 (…外にいるのか。早く天幕に入れ。馬鹿でも風邪はひく) アッシュの言葉は『前』と同じように乱暴だけど、…でも『今』は、すっげぇ優しい響きをしてる。 やっぱり『前』より『今』の方が良い。 (うるせー、俺は馬鹿じゃねぇー) (じゃあ、屑だ、屑) (俺が屑ならお前はハゲだ、ハゲ) (誰がハゲだ。俺はハゲてねぇ) (あんな風に前髪上げてたら、すぐにハゲるっつーの) (俺の髪型に文句つけんじゃねぇ) (仮面で顔隠してんのに前髪上げるって、意味分かんねぇ) (うるせぇ、黙れ、この屑が) もう一つ『前』より『今』の方が良い事を見つけた。 『前』には、こんな風に笑って、馬鹿な事を言い合ったり出来なかった。 (だいたい、俺がハゲるなら、お前もハゲる) (はぁ?なんでそうなるんだよ?) (お前、父上の若い頃の肖像画を見たことあるだろ?) …父上、か……。 俺が黙っていると(見た事ないのか?)と聞かれた。 (…えぇと、あの図書室に飾ってるヤツだっけ?) (あの肖像画の父上、今より額が狭いだろ) 俺は思わず笑ってしまった。 さっきまで悩んでたのが嘘なんじゃねーかってくらい、笑ってしまった。 そうそう、アッシュの言う通りなんだよな! あの肖像画を見て、俺もちょっと心配してたんだよ!! (やっぱ、アッシュも気付いた!?) (ハゲるのがファブレの遺伝なら、お前もハゲるって事だ) (俺はさ、お前と違ってストレス溜めないタイプだし。お前や父上ほどハゲねぇよ、きっと) …うん。やっぱ、こういうの良いな。 よく分かんねぇけど、こういうのって、兄弟っぽくねぇ? 兄弟2人で、父親をネタに馬鹿な掛け合いしたりして、さ。 馬鹿な想像だけど、 俺がレプリカじゃなくて、本当の子供で家族だったら、どんなに良いだろう。 父上と母上がいて、例えばアッシュが俺の兄だったりして…。 ……それって、どんなに幸せだろう。 (どうした、ルーク?何かあったのか?) 俺がまた黙ってしまったから、また声をかけてくれた。 それだけで『前』より『今』の方が良いって思える。 アッシュが俺の被験者で良かったって『今』は思う。 優しいアッシュの身代わりなら、俺が死ぬ事で、アッシュが死なないって言うなら、 俺も、そっちの方が良いって、思える。 そりゃもちろん俺だって生きたいし足掻くつもりだけど、でも、いざとなったら、レプリカよりも被験者っていう卑屈な理由じゃなくて、アッシュの為にっていう理由で、俺は死ねると思う。 そう思える『今』の俺の方が、『前』の俺よりずっと良い。 ……ずっと、ずっと…、すごく、良い。 (何でもねぇよ。寒いからもう天幕に入る。おやすみ) (…あぁ、おやすみ) チャネリングが終わったけど、俺はそこから動けなかった。 寒かったけど、なんとなくダルくて、ちょっと座っていこうかな、なんて思ってしまったら、自然と足から力が抜けて、地面に両膝をついてしまった。雪が冷たくて、気持ちが良かった。顔が熱くなって、なんとなく泣きたくなった。胸のあたりも熱くて苦しくて、息が詰まって、咳が出た。 「え…?」 変な咳だなって思いながら、手の平があったかいと思って見たら、赤いジュースを吐いてた。 …あ。これ、ジュースじゃなくて、血だ……。 そう思ったら、また咳が出た。咳が止まらなくて息が出来ないし身体もキツいし苦しい。 そんな事を考えてたら、 「ルーク!」 その声が聞こえてきて、誰かが背中を擦ってくれた。 ようやく咳が治まって見上げると、ジェイドやシンク、それにガイもいた。 やばい。見つかった。 咄嗟にそう思った瞬間、ジェイドに見つかって掴まれ、手の平を見られる。 「ルーク、あなたは…!」 ジェイドの表情がどんどん険しくなって、怖くなった。 ……俺、なんか悪い事したっけ…? ジェイドの表情がどんどん険しくなっていく。 やばい。俺、ほんとに、なんか悪い事したんだ。 ……そりゃそうだよな。 ガイがここに来てるのは俺に秘密っぽかったのに、見てしまったし。 やっぱ見ちゃいけなかったよな。 「あ、あの、ごめん…」 謝ったのに、今度はシンクが怒り始める。 「何がごめんだよ!アンタ、何か分かって言ってる!?」 ガイを見ると、ガイも怒ってる。 どうしよう。本当に、俺、悪い事をしてしまったんだ。 「…ご、ごめん、俺、あの、そんなつもりじゃあ……」 やっぱり、俺は、ここにいちゃダメだったんだ。 「俺、ここ、いたら、ダメだ、よな、ほんと、ごめん、俺、」 あぁ、くそ!息が上がって言葉が続かねぇ!ちゃんと謝らなきゃなんねぇのに……!! 「ルーク、落ち着きなさい!」 ジェイドにいきなり肩を掴まれて、心臓が止まりそうになる。 ………怖い。 どうしよう。みんな怒ってる。俺が悪い事をしたせいだ。ここにいるせいだ。 俺はここにいちゃダメなんだ。 「…ぁ、ご…め…なさ……」 ちゃんと謝りたかったのに、呼吸が苦しくて、上手く声を出せなかった。 ※※※続きます※※※ PR