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AL逆行itsbetween1and0/40



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”


第40話・六神将ルーク編06「それって、どんなに幸せだろう」です。





it's between 1 and 0 第40話


※※※



「おう、おやすみ、ジェイド」

「はい、おやすみなさい」

って言って、ジェイドはにっこり笑顔。

うわー…やっぱジェイドの笑顔って、なんっか怖ぇ…。
つーか、さっき思わずジェイドに楯突いちまったけど、…ちょっと早まったかも……。

「そこまで送るよ」

あ。シンクも出て行っちまった。

…シンクって、ジェイドと妙に仲良いよな……。
頭良い同士、話が合うっつーか、言葉がキッツい同士、波長?が合うっつーか…?


『前』には、こんな事ってなかったけど、なんか、こういうのって、すごく、良い。


『前』とは違う『今』の方が良い。

それをちょっとずつ積み重ねていって、『前』とは違う『未来』を作っていけたら良いよな。


まぁ、あの2人に挟まれてる俺は、生きた心地しねぇーけど。…ストレスでハゲるかも。


「ん…?」

…あれ?何だ?なーんか忘れてるよーな…。

「あっ!サイン!書類にサイン!!」

うわー!肝心じゃねーけど、…いや、こっちも一応肝心か、とにかく、夜にジェイドが来るっつってたから、じゃー夜でも良いかーって思ってた書類のサイン!!

「ジェイドに貰っとかねーと!」

多分まだその辺にいるよな!

書類を掴んで慌てて天幕から出て、周囲を見回す。
外は、いつのまにか、雪が降り始めていた。
バチカルの雪とは違う、大きなふわふわの雪だ。

少し離れた天幕の向こう側に、ジェイドとシンクが歩いているのを発見。

「ジェ…」

名前を呼びかけて、慌てて口を覆う。


そういえば、顔を隠す仮面をつけてきてなかった。
他のヤツに顔を見られるのは、マズい、よな?
…あっ!つーか、髪の色が赤いままだった!!

誰にも見つからねぇように、追いかけるしかねぇか。…うー…寒いってのに、めんどくせー…。
でも天幕に戻ってる間に見失っちまいそうだし。
しかも、2人が歩いていった方向って、マルクト側じゃねぇし?

……何処に行ってんだ、あいつら?


ジェイド達を追いかけて行ったけど、途中で見失っちまった。

「どっかの天幕に入ったのか…?」

…あー……しまったなー…。明日早起きして朝一番にサイン貰えば良いか…。

そんな風に考えかけた時、ふと、足元の踏み荒らされた地面が目に映る。
まだ雪を被っていない新しい足跡が二組。

足跡が向かう先は、フツーの譜業兵器を仕舞ってある天幕。

見張りの兵が一人いるだけ…だよな?
ジェイド達が入ったって確証があれば、入っていけるんだけどなー…。
つーか、ジェイド達以外がいたら、俺はマズいだろ。顔を隠してないし、髪も赤いし。

………。

ちょっと中を確認して、ジェイド達がいたら、……あー、入っていけそうな感じなら入ろう。
待つ感じなら諦める。待つのはちょっとしんどいぞ、この寒さは。

よし、決まり!これは覗きじゃねぇ!確認だからな!!


気配を殺して、天幕に近付く。
少しだけ、そっと垂れ幕を開くと、中から声が聞こえてきた。

「お初にお目にかかります、カーティス師団長様。私の名は、ガイ・セシル。ファブレ家の使用人です」


へっ???ガイ!!???なんで!!!???


「ファブレ家の…。では、やはり、先程の…。いや、失礼。私はジェイド・カーティス大佐です」

「ガイ・セシルは、昨夜、バチカルから到着したんだ。昨夜アンタと別れた後に合流してね」


なんで!?え!?シンクとガイって知り合いなのか!?
ジェイドとは初対面って感じだったけど…?

はぁ!?何だよ、これ!?どーなってんだ!?


「さっきのジュース、アンタは気付いたんだろ?」


シンクの言葉を聞いて、あのジュースを思い出す。

ガイがいるって事は……、ガイが持って来たのか…?


「ジュースというより、シロップでしょう…。…あれは、レプリカ用のものです」


……え…?


「ファブレ公爵は、ルークがレプリカである事を、既に知っている…という事なのですね?」


……今、何て…?


「アッシュは、間違いないだろう、と」

「では、公爵は、ルークをレプリカと知っていながら、いずれ息子の代わりに殺す為、屋敷に置いていると…?」


まだ3人の話は続いていたけれど、意味が分からなくなって、俺は天幕から離れた。


『公爵は、ルークがレプリカである事を、既に知っている』

父上は俺が『レプリカ』って知ってるんだ…。……そっか。そうだったんだ…。
『前』はそうじゃなかったけど『今』はそうなんだ…。


『前』に俺がレプリカだって事が知られた後、母上は俺を息子としてすぐに受け入れてくれた。

あの時、父上とは、殆ど何も話さなかった。『少しは公爵家の人間として相応しい生活を送りなさい』とか言われてただけで、本当は俺の事をどう思ってるのか、分からなかった。俺も怖くて聞く事なんて出来なかった。

それでも『前』は、新生ローレライ教団の使者としてやって来たラルゴを前に、『我が息子は2人とも生きている』と言ってくれた。
その時、俺もうそんなに長く生きられないって知ってたけど、父上に『息子』って思われてる事が、すごく嬉しかったんだ。


でも『今』は違うんだ。

父上にとって、最初から、俺はただのレプリカで、アッシュの身代わりなんだ。

息子じゃないんだ…。


『いずれ息子の代わりに殺す為、屋敷に置いている』

アッシュの身代わりかぁ…。

うん、まぁ、間違いじゃねぇんだけど。俺はその目的で造られた訳だし…。


空を見上げると、真っ暗な空間から、真っ白な無数の雪が、落ちてくるのが見える。

なんとなくアッシュの声が聞きたくなった。


(……アッシュ…、聞こえるか…?)

耳鳴りが始まって、頭の奥の方が痺れてきた。

(……何の用だ?何かあったのか?)

用、用…、えぇと、声が聞きたかっただけって言ったら、……やっぱ、怒るよなー。
…えぇと、何か言わねぇと…。ガイの事を聞くのは、ちょっとマズい気がするし、えぇと…、

(そっちは、寒くないか?)

俺が黙ってたのに、アッシュは怒ってないようだった。
その証拠に、俺より少し低くて落ち着いた声が、優しかった。

(うん、すっげぇ寒い!雪、降ってるぜ!お前にも見えるだろ?すっげぇキレーだぜ……)

見上げると、真っ暗な夜の空は、真っ白な無数の雪で埋め尽くされそうになっていた。

(…外にいるのか。早く天幕に入れ。馬鹿でも風邪はひく)

アッシュの言葉は『前』と同じように乱暴だけど、…でも『今』は、すっげぇ優しい響きをしてる。


やっぱり『前』より『今』の方が良い。


(うるせー、俺は馬鹿じゃねぇー)

(じゃあ、屑だ、屑)

(俺が屑ならお前はハゲだ、ハゲ)

(誰がハゲだ。俺はハゲてねぇ)

(あんな風に前髪上げてたら、すぐにハゲるっつーの)

(俺の髪型に文句つけんじゃねぇ)

(仮面で顔隠してんのに前髪上げるって、意味分かんねぇ)

(うるせぇ、黙れ、この屑が)


もう一つ『前』より『今』の方が良い事を見つけた。

『前』には、こんな風に笑って、馬鹿な事を言い合ったり出来なかった。


(だいたい、俺がハゲるなら、お前もハゲる)

(はぁ?なんでそうなるんだよ?)

(お前、父上の若い頃の肖像画を見たことあるだろ?)

…父上、か……。
俺が黙っていると(見た事ないのか?)と聞かれた。

(…えぇと、あの図書室に飾ってるヤツだっけ?)

(あの肖像画の父上、今より額が狭いだろ)

俺は思わず笑ってしまった。
さっきまで悩んでたのが嘘なんじゃねーかってくらい、笑ってしまった。

そうそう、アッシュの言う通りなんだよな!
あの肖像画を見て、俺もちょっと心配してたんだよ!!

(やっぱ、アッシュも気付いた!?)

(ハゲるのがファブレの遺伝なら、お前もハゲるって事だ)

(俺はさ、お前と違ってストレス溜めないタイプだし。お前や父上ほどハゲねぇよ、きっと)


…うん。やっぱ、こういうの良いな。

よく分かんねぇけど、こういうのって、兄弟っぽくねぇ?
兄弟2人で、父親をネタに馬鹿な掛け合いしたりして、さ。


馬鹿な想像だけど、

俺がレプリカじゃなくて、本当の子供で家族だったら、どんなに良いだろう。

父上と母上がいて、例えばアッシュが俺の兄だったりして…。


……それって、どんなに幸せだろう。


(どうした、ルーク?何かあったのか?)


俺がまた黙ってしまったから、また声をかけてくれた。

それだけで『前』より『今』の方が良いって思える。


アッシュが俺の被験者で良かったって『今』は思う。

優しいアッシュの身代わりなら、俺が死ぬ事で、アッシュが死なないって言うなら、

俺も、そっちの方が良いって、思える。

そりゃもちろん俺だって生きたいし足掻くつもりだけど、でも、いざとなったら、レプリカよりも被験者っていう卑屈な理由じゃなくて、アッシュの為にっていう理由で、俺は死ねると思う。

そう思える『今』の俺の方が、『前』の俺よりずっと良い。


……ずっと、ずっと…、すごく、良い。


(何でもねぇよ。寒いからもう天幕に入る。おやすみ)

(…あぁ、おやすみ)


チャネリングが終わったけど、俺はそこから動けなかった。

寒かったけど、なんとなくダルくて、ちょっと座っていこうかな、なんて思ってしまったら、自然と足から力が抜けて、地面に両膝をついてしまった。雪が冷たくて、気持ちが良かった。顔が熱くなって、なんとなく泣きたくなった。胸のあたりも熱くて苦しくて、息が詰まって、咳が出た。

「え…?」

変な咳だなって思いながら、手の平があったかいと思って見たら、赤いジュースを吐いてた。

…あ。これ、ジュースじゃなくて、血だ……。

そう思ったら、また咳が出た。咳が止まらなくて息が出来ないし身体もキツいし苦しい。
そんな事を考えてたら、

「ルーク!」

その声が聞こえてきて、誰かが背中を擦ってくれた。

ようやく咳が治まって見上げると、ジェイドやシンク、それにガイもいた。


やばい。見つかった。


咄嗟にそう思った瞬間、ジェイドに見つかって掴まれ、手の平を見られる。

「ルーク、あなたは…!」

ジェイドの表情がどんどん険しくなって、怖くなった。

……俺、なんか悪い事したっけ…?

ジェイドの表情がどんどん険しくなっていく。

やばい。俺、ほんとに、なんか悪い事したんだ。
……そりゃそうだよな。
ガイがここに来てるのは俺に秘密っぽかったのに、見てしまったし。
やっぱ見ちゃいけなかったよな。

「あ、あの、ごめん…」

謝ったのに、今度はシンクが怒り始める。

「何がごめんだよ!アンタ、何か分かって言ってる!?」

ガイを見ると、ガイも怒ってる。

どうしよう。本当に、俺、悪い事をしてしまったんだ。

「…ご、ごめん、俺、あの、そんなつもりじゃあ……」


やっぱり、俺は、ここにいちゃダメだったんだ。


「俺、ここ、いたら、ダメだ、よな、ほんと、ごめん、俺、」

あぁ、くそ!息が上がって言葉が続かねぇ!ちゃんと謝らなきゃなんねぇのに……!!

「ルーク、落ち着きなさい!」

ジェイドにいきなり肩を掴まれて、心臓が止まりそうになる。


………怖い。

どうしよう。みんな怒ってる。俺が悪い事をしたせいだ。ここにいるせいだ。

俺はここにいちゃダメなんだ。


「…ぁ、ご…め…なさ……」

ちゃんと謝りたかったのに、呼吸が苦しくて、上手く声を出せなかった。





※※※続きます※※※



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