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AL逆行itsbetween1and0/33



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第33話・六神将ルーク編05「夢オチ」です。


今回は六神将ルーク編です。






it's between 1 and 0 第33話


※※※



「これ、全部食わないとマズいかなー…?」

膝の上に乗せられたチキンサンドの皿を見る。シンクに「これくらいは食べて」って言われたけど、さっきから、胃のあたりが気持ち悪い。

今は『食べたくない時』なのか『食べられない時』なのか、どっちか考える。さっきは、喋りながら勢いで食べられるかもって思ったけど、喉に通らなくて、結局、ひと切れ食べただけだった。

チキンサンドって、自分で作れるくらい好きなんだけど…。

あれ?

(……ルーク)

耳鳴りが始まったと思ったらアッシュだ。

(よぉ、アッシュ。何かあったか?)

(…またナタリアが来ると聞いたんだが)

ナタリアが?へぇ、良かったじゃん。…って、なんでそんな暗そうな声してんだ?

(ナタリアと何かあったのか?)

(お前、ナタリアがケーキを焼いてきた時、どうやって回避していた?)

あ。そーゆー事か。『前』の時はこんな事ってなかったけど、何故か、ナタリアはケーキ作りが趣味だ。ハタ迷惑な趣味だよな。趣味なら上手くなりゃいいのに。

(えーと、普通に逃げてたけど?裏庭あたりに)

(…逃げずにケーキだけ回避する方法を教えろ)

あぁー、成程なー。ナタリアには会いてぇ訳かー。思考が6割ナタリアってヤツだったっけ。

(普通に、食べたくないって言えば?)

(言えるか、この屑がっ!!)

(なんでだよ?普通に『今は食べたくない時だ』って言えば、ナタリアは『では、後で食べて下さいまし』って言うって。前にも、そーゆー事があったし)

あれ?沈黙?

(……そんな簡単な事で良いのか?)

こいつ、もしかして、すっげぇ悩んでたのか…?
まぁ、ナタリアのケーキは秘奥義以上に強烈だもんな。

(みんな『普通の時』と『食べたくない時』ってあるだろ。『食べたくない時』に誰も無理に食わせたりしねぇーって)

(…フン、お前はやはり『屑のお坊っちゃん』だな)

(んだとぉ?)

うっわー、それ久々に聞いた!まじムカつくんだけど!!

(庶民はな『食える時』と『食えない時』のどっちかだ。しかも『食えない時』ってのは、気持ちの問題じゃねぇ。腹は減ってても、食い物にありつけねぇ時だ)

あー、はいはい。そーゆー事ね。お前が国王になったら、良い国になりそうだわ。ほんと。つーか、ぶっちゃけ、俺は『食べたくない時』か『食べられない時』かで、さっきまで悩んでたってのに…。

…それはさておき。

(あのなぁ、それとこれとは別問題だっつーの。とりあえず『今は食べたくない』って言っとけって)

(……それもそうだな)

あ。折れた。

最近ちょっと思うけど、アッシュって、こんな簡単に折れてくれるヤツだったっけ?俺がダアトにいたいって言った時も、最初は帰れ帰れ帰れってうるさかったのに、結局、折れたし。こっちの任務でジェイドに会えるって分かってからは、ジェイドを仲間にしろって、協力してくれてるし。

(お前の方はどうだ?眼鏡に話したのか?)

(とりあえず話だけ。答えは明日くれるって)

(…そうか。まぁ、眼鏡は拒否しないだろう。マルクトを出されちゃ、あいつは引けはしねぇ。しかもイオンレプリカを前にすれば、ただの冗談だと笑って、無視する事も出来ねぇさ)

ふーん。よく分かんねぇけど、そうなのか。
まぁ、ピオニー陛下が死にますって言われたらキツいよな。ジェイドの親友…?だったし?

(任務の方は?怪我なんざしてねぇだろうな?)

っう。

(してねぇーよっ。楽勝だ、ラクショー)

(…なら、良い。『前』に俺の前任がくたばったのは、マルクトでの任務だったからな。問題がないなら…)

直前の特務師団長就任には、本当に驚かされた。アッシュも驚いてた。

引き継ぎ?ってヤツもなくて、いきなりだったもんな。
辞令書?ってのをヴァン師匠から渡されて、ロニール雪山に行けって言われて、
慌てて任務内容を確認したら、ジェイドの名前を見つけて。
従卒兼護衛に同行させろってリグレットから紹介されたのは、何故かシンクで。
何やってんだお前って言いたいのを抑えて。後でシンクに何があったのか聞こうとしたら、
「二重スパイって言葉、知らないの?」って言われて。意味不明だったけど、聞けなくて。

……ほんと、バタバタだった…。

(こっちはバレずに上手くやれてるから、気にすんなよ)

(…そうか)

そうかって…それだけ?てっきり、調子に乗るなこの屑が!くらい言われるかと…。

(ん?食事中だったか?邪魔したな)

……また勝手に見やがって…。

(必要ない時に勝手に見んなっつっただろーが)

(フン、ほざいてろ)

耳鳴りが止んだ。つーか何?それ捨て台詞?

一つ溜め息。

軽い頭痛がある時は、頭ん奥が痺れてるかどうかなんて、よく分からねぇ。
そのせいで、同調が深くなっても気付けねぇんだよ…。

…そういえば、シンクがまだ戻って来ない……。どこまでジェイドを見送りに行ったんだ…?
……まぁ、いっか。

少しぬるくなった紅茶に口をつける。でも、胃の底にある、気持ち悪い感じがなくならない。

アッシュが言った通り、ジェイドは本当に協力してくれるんだろうか?
ジェイドって、簡単にヒトを信用しないタイプだろ?
シンクのおかげで、レプリカとか消滅預言ってあたりは、信じてくれたっぽいけど…。


……何、期待してたんだろ、俺。

『前』みたいに「ルーク」って呼んでくれた時、すっげぇ嬉しくて、勝手に舞い上がっちまったけど。
『前』と同じように、いつか、俺の事を友達って思ってくれるかも…なんて期待してさ。

ケテルブルクで会って握手を求められた時、
『前』の『あの時』ジェイドが、「生きて帰って下さい」って言ってくれた事を思い出しちまった。

そのせいで、うっかり左手を出しかけて、途中で気付いて右手に変えたから良かったけど、さ。ちゃんと練習した挨拶が上手く言えたか心配だった。

頑張ってアッシュになるって決めたのに、ほんと、情けねぇ…。

ジェイドにアッシュと話が出来るかって聞かれた時も、
『前』に『ルーク』がジェイドと出会った時を思い出して、ちょっと参ってしまった。

2年後に『ルーク』はティアと超振動で外に飛ばされて、エンゲーブ村でジェイドやイオンに出会って、チーグルの森でミュウに出会って、タルタロスに乗って…。

『前』の『ルーク』は、俺だった。

でも『今』の『ルーク』は、本物の方のアッシュだ。


今から2年後、あんな風にみんなと出会えるのは、アッシュの方なんだ。


「…ヤメだ、ヤメ!うじうじするのはダメだ!!」

俺は、アッシュとして頑張るって決めたんだ!
とにかく、今は、食べて体力つける時だよな!
明日はもっと奥地に行くし!ちゃんと役に立たねぇと!

ほんと、アッシュの言う通りだ。
食べ物を前にして『食べたくない』とか『食べられない』は、『屑のお坊っちゃん』の考え方だ。

チキンサンドを手に取って、かぶりつく。

瞬間、

「……っぐ…!?」

急激に吐き気がして、ヤバいと思って咄嗟に布巾を取って、
胃の中のもの全部、吐いてしまった。
しばらく喉とか胃とか痙攣してる感じが続いて、
もう吐くものなんか残ってねぇのに、何度か嘔吐いた。

「…うー……汚ねぇ…」

ようやく治まったけど、気分は最悪だ。吐くって疲れるし。
でも、とりあえず、シーツを汚さなくて良かった。

……やっぱ、今は『食べられない時』だったか。

ゴミ入れ用の袋に全部投げ込んで、口直しに、紅茶を喉に流し込む。また胃の中が気持ち悪い感じがしたけど、今度は大丈夫。

ベッドに寝転んで考える。

神託の盾騎士団の特務師団長が、任務中に大怪我とか、担架で運ばれるとか、頭痛持ちとか、まともに食べられない日があるとか、…ほんと、ありえないっつーの。

『前』にも頭痛はあったけど、今ほど酷くなかったし、
こんなに不調だったのは、音素乖離が始まった時くらい…。


背筋に、ひやり、と冷たいものを感じる。


もしかして、俺、『前』より劣化が酷いのか…?


アッシュが言ってた。
過去だけど『前』とは違うって。歪みが生じてるって。

その歪みって、『前』との違いって、
…そりゃ、良い事だけじゃないって事くらい理解してたつもりだったけど…。


「……俺、また死ぬのか…な……?」


思わず漏れた声が、異様に響いて聞こえた。


どうすればいいんだ?俺の身体どこか悪いのか?これって、アッシュに言うべきか?
…いや、それは絶対にダメだ。知られたら、役立たずって言われちまう。
まだ何の役にも立ってねぇのに。知られるのは絶対ダメだ。


でも、怖い。嫌だ。……死ぬのは嫌だ。


「……あー…くそっ!冷静になれっつーの!!」

両頬を思いっきりひっぱたく。

音素乖離が始まってる訳じゃねぇーし!!
頭痛は酷いけど、今すぐ死ぬって訳じゃぬぇ!!
つーか、頭痛で死ぬなら、とっくに死んでる!!
食欲がないのも疲れが溜まってるだけだっつーの!!
ほら、俺って、何気に繊細な所あるし!!

とにかく、そんな簡単に死んでたまるかっっ!!


……よしっ!解決っっ!!


解決したから、とにかく体力回復の為に、眠ろう。
明日からが大変なんだ。みんなの足を引っ張らねぇようにしねぇと。

もう担架は御免だ。かっこわりぃ。



翌朝。

出発前に、ジェイドが俺達に声をかけてくれた。

「昨夜の件ですが、協力させて頂く事にしました」

にっこり笑顔付きで、逆にちょっとビビったけど。

「早速、詳しい話をお聞きしたいのですが、今夜また天幕にお邪魔させて頂いても?」

って聞かれて、俺はもう嬉しくて何度も頷いてしまった。

ジェイドはまた自分の眼鏡を押し上げてる。別に、もともとそんなにズレてなかったっつーのに。
俺、何か変な事したか?その仕草ってほんと怖いから、止めてほしいんだけど。

俺の隣でシンクがクールに、

「へぇ、案外あっさり結論出しちゃったんだね。後悔しても知らないよ?」

とか意地悪そうに言ってたけど、俺はスルーした。


だって、嬉しくて仕方なかったから!


やった!!ジェイドが仲間になったんだ!!凄ぇ!!!





※※※続きます※※※



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