AL逆行itsbetween1and0/33 AL長編/it's between 1and0 2012年08月30日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第33話・六神将ルーク編05「夢オチ」です。 今回は六神将ルーク編です。 it's between 1 and 0 第33話 ※※※ 「これ、全部食わないとマズいかなー…?」 膝の上に乗せられたチキンサンドの皿を見る。シンクに「これくらいは食べて」って言われたけど、さっきから、胃のあたりが気持ち悪い。 今は『食べたくない時』なのか『食べられない時』なのか、どっちか考える。さっきは、喋りながら勢いで食べられるかもって思ったけど、喉に通らなくて、結局、ひと切れ食べただけだった。 チキンサンドって、自分で作れるくらい好きなんだけど…。 あれ? (……ルーク) 耳鳴りが始まったと思ったらアッシュだ。 (よぉ、アッシュ。何かあったか?) (…またナタリアが来ると聞いたんだが) ナタリアが?へぇ、良かったじゃん。…って、なんでそんな暗そうな声してんだ? (ナタリアと何かあったのか?) (お前、ナタリアがケーキを焼いてきた時、どうやって回避していた?) あ。そーゆー事か。『前』の時はこんな事ってなかったけど、何故か、ナタリアはケーキ作りが趣味だ。ハタ迷惑な趣味だよな。趣味なら上手くなりゃいいのに。 (えーと、普通に逃げてたけど?裏庭あたりに) (…逃げずにケーキだけ回避する方法を教えろ) あぁー、成程なー。ナタリアには会いてぇ訳かー。思考が6割ナタリアってヤツだったっけ。 (普通に、食べたくないって言えば?) (言えるか、この屑がっ!!) (なんでだよ?普通に『今は食べたくない時だ』って言えば、ナタリアは『では、後で食べて下さいまし』って言うって。前にも、そーゆー事があったし) あれ?沈黙? (……そんな簡単な事で良いのか?) こいつ、もしかして、すっげぇ悩んでたのか…? まぁ、ナタリアのケーキは秘奥義以上に強烈だもんな。 (みんな『普通の時』と『食べたくない時』ってあるだろ。『食べたくない時』に誰も無理に食わせたりしねぇーって) (…フン、お前はやはり『屑のお坊っちゃん』だな) (んだとぉ?) うっわー、それ久々に聞いた!まじムカつくんだけど!! (庶民はな『食える時』と『食えない時』のどっちかだ。しかも『食えない時』ってのは、気持ちの問題じゃねぇ。腹は減ってても、食い物にありつけねぇ時だ) あー、はいはい。そーゆー事ね。お前が国王になったら、良い国になりそうだわ。ほんと。つーか、ぶっちゃけ、俺は『食べたくない時』か『食べられない時』かで、さっきまで悩んでたってのに…。 …それはさておき。 (あのなぁ、それとこれとは別問題だっつーの。とりあえず『今は食べたくない』って言っとけって) (……それもそうだな) あ。折れた。 最近ちょっと思うけど、アッシュって、こんな簡単に折れてくれるヤツだったっけ?俺がダアトにいたいって言った時も、最初は帰れ帰れ帰れってうるさかったのに、結局、折れたし。こっちの任務でジェイドに会えるって分かってからは、ジェイドを仲間にしろって、協力してくれてるし。 (お前の方はどうだ?眼鏡に話したのか?) (とりあえず話だけ。答えは明日くれるって) (…そうか。まぁ、眼鏡は拒否しないだろう。マルクトを出されちゃ、あいつは引けはしねぇ。しかもイオンレプリカを前にすれば、ただの冗談だと笑って、無視する事も出来ねぇさ) ふーん。よく分かんねぇけど、そうなのか。 まぁ、ピオニー陛下が死にますって言われたらキツいよな。ジェイドの親友…?だったし? (任務の方は?怪我なんざしてねぇだろうな?) っう。 (してねぇーよっ。楽勝だ、ラクショー) (…なら、良い。『前』に俺の前任がくたばったのは、マルクトでの任務だったからな。問題がないなら…) 直前の特務師団長就任には、本当に驚かされた。アッシュも驚いてた。 引き継ぎ?ってヤツもなくて、いきなりだったもんな。 辞令書?ってのをヴァン師匠から渡されて、ロニール雪山に行けって言われて、 慌てて任務内容を確認したら、ジェイドの名前を見つけて。 従卒兼護衛に同行させろってリグレットから紹介されたのは、何故かシンクで。 何やってんだお前って言いたいのを抑えて。後でシンクに何があったのか聞こうとしたら、 「二重スパイって言葉、知らないの?」って言われて。意味不明だったけど、聞けなくて。 ……ほんと、バタバタだった…。 (こっちはバレずに上手くやれてるから、気にすんなよ) (…そうか) そうかって…それだけ?てっきり、調子に乗るなこの屑が!くらい言われるかと…。 (ん?食事中だったか?邪魔したな) ……また勝手に見やがって…。 (必要ない時に勝手に見んなっつっただろーが) (フン、ほざいてろ) 耳鳴りが止んだ。つーか何?それ捨て台詞? 一つ溜め息。 軽い頭痛がある時は、頭ん奥が痺れてるかどうかなんて、よく分からねぇ。 そのせいで、同調が深くなっても気付けねぇんだよ…。 …そういえば、シンクがまだ戻って来ない……。どこまでジェイドを見送りに行ったんだ…? ……まぁ、いっか。 少しぬるくなった紅茶に口をつける。でも、胃の底にある、気持ち悪い感じがなくならない。 アッシュが言った通り、ジェイドは本当に協力してくれるんだろうか? ジェイドって、簡単にヒトを信用しないタイプだろ? シンクのおかげで、レプリカとか消滅預言ってあたりは、信じてくれたっぽいけど…。 ……何、期待してたんだろ、俺。 『前』みたいに「ルーク」って呼んでくれた時、すっげぇ嬉しくて、勝手に舞い上がっちまったけど。 『前』と同じように、いつか、俺の事を友達って思ってくれるかも…なんて期待してさ。 ケテルブルクで会って握手を求められた時、 『前』の『あの時』ジェイドが、「生きて帰って下さい」って言ってくれた事を思い出しちまった。 そのせいで、うっかり左手を出しかけて、途中で気付いて右手に変えたから良かったけど、さ。ちゃんと練習した挨拶が上手く言えたか心配だった。 頑張ってアッシュになるって決めたのに、ほんと、情けねぇ…。 ジェイドにアッシュと話が出来るかって聞かれた時も、 『前』に『ルーク』がジェイドと出会った時を思い出して、ちょっと参ってしまった。 2年後に『ルーク』はティアと超振動で外に飛ばされて、エンゲーブ村でジェイドやイオンに出会って、チーグルの森でミュウに出会って、タルタロスに乗って…。 『前』の『ルーク』は、俺だった。 でも『今』の『ルーク』は、本物の方のアッシュだ。 今から2年後、あんな風にみんなと出会えるのは、アッシュの方なんだ。 「…ヤメだ、ヤメ!うじうじするのはダメだ!!」 俺は、アッシュとして頑張るって決めたんだ! とにかく、今は、食べて体力つける時だよな! 明日はもっと奥地に行くし!ちゃんと役に立たねぇと! ほんと、アッシュの言う通りだ。 食べ物を前にして『食べたくない』とか『食べられない』は、『屑のお坊っちゃん』の考え方だ。 チキンサンドを手に取って、かぶりつく。 瞬間、 「……っぐ…!?」 急激に吐き気がして、ヤバいと思って咄嗟に布巾を取って、 胃の中のもの全部、吐いてしまった。 しばらく喉とか胃とか痙攣してる感じが続いて、 もう吐くものなんか残ってねぇのに、何度か嘔吐いた。 「…うー……汚ねぇ…」 ようやく治まったけど、気分は最悪だ。吐くって疲れるし。 でも、とりあえず、シーツを汚さなくて良かった。 ……やっぱ、今は『食べられない時』だったか。 ゴミ入れ用の袋に全部投げ込んで、口直しに、紅茶を喉に流し込む。また胃の中が気持ち悪い感じがしたけど、今度は大丈夫。 ベッドに寝転んで考える。 神託の盾騎士団の特務師団長が、任務中に大怪我とか、担架で運ばれるとか、頭痛持ちとか、まともに食べられない日があるとか、…ほんと、ありえないっつーの。 『前』にも頭痛はあったけど、今ほど酷くなかったし、 こんなに不調だったのは、音素乖離が始まった時くらい…。 背筋に、ひやり、と冷たいものを感じる。 もしかして、俺、『前』より劣化が酷いのか…? アッシュが言ってた。 過去だけど『前』とは違うって。歪みが生じてるって。 その歪みって、『前』との違いって、 …そりゃ、良い事だけじゃないって事くらい理解してたつもりだったけど…。 「……俺、また死ぬのか…な……?」 思わず漏れた声が、異様に響いて聞こえた。 どうすればいいんだ?俺の身体どこか悪いのか?これって、アッシュに言うべきか? …いや、それは絶対にダメだ。知られたら、役立たずって言われちまう。 まだ何の役にも立ってねぇのに。知られるのは絶対ダメだ。 でも、怖い。嫌だ。……死ぬのは嫌だ。 「……あー…くそっ!冷静になれっつーの!!」 両頬を思いっきりひっぱたく。 音素乖離が始まってる訳じゃねぇーし!! 頭痛は酷いけど、今すぐ死ぬって訳じゃぬぇ!! つーか、頭痛で死ぬなら、とっくに死んでる!! 食欲がないのも疲れが溜まってるだけだっつーの!! ほら、俺って、何気に繊細な所あるし!! とにかく、そんな簡単に死んでたまるかっっ!! ……よしっ!解決っっ!! 解決したから、とにかく体力回復の為に、眠ろう。 明日からが大変なんだ。みんなの足を引っ張らねぇようにしねぇと。 もう担架は御免だ。かっこわりぃ。 翌朝。 出発前に、ジェイドが俺達に声をかけてくれた。 「昨夜の件ですが、協力させて頂く事にしました」 にっこり笑顔付きで、逆にちょっとビビったけど。 「早速、詳しい話をお聞きしたいのですが、今夜また天幕にお邪魔させて頂いても?」 って聞かれて、俺はもう嬉しくて何度も頷いてしまった。 ジェイドはまた自分の眼鏡を押し上げてる。別に、もともとそんなにズレてなかったっつーのに。 俺、何か変な事したか?その仕草ってほんと怖いから、止めてほしいんだけど。 俺の隣でシンクがクールに、 「へぇ、案外あっさり結論出しちゃったんだね。後悔しても知らないよ?」 とか意地悪そうに言ってたけど、俺はスルーした。 だって、嬉しくて仕方なかったから! やった!!ジェイドが仲間になったんだ!!凄ぇ!!! ※※※続きます※※※ PR