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AL逆行itsbetween1and0/27



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第27話・六神将ルーク編04「これは、贅沢な事なんだ」です。






it's between 1 and 0 第27話

※※※



俺とシンクは、ダアト港にいて、シェリダン行きの連絡船が出ていく様子を見守った。
別れ際にフローリアンが泣いてたのを思い出して、俺もちょっと泣きそうになる。

「あーあっ。煩いのがいなくなって、せいせいした」

シンクはそんな事を言ってるけど、ちょっと涙声になってるのが分かった。

「シンクは一緒に行かなくて良かったのか?」

「一緒に行ったら、アンタを手伝えないでしょ」

「手伝うって言ってもさ…」

「ボクは、ボクのやり方で協力させてもらうよ。どうせアンタは、作戦も何もまだ考えてないんだろ?」

うぅ…。相変わらず痛い所を突いてくるヤツだな…。

「アンタはダアトに行くって言ってたっけ?」

「あぁ」

シンクには、俺がアッシュとしてダアトに行く事を話していた。
アッシュにはまだ話していない。つーか、いずれ話さなきゃだけど、あんま話したくない。

「バチカルのお屋敷で大人しくしてる方が良いと思うけどね。アンタじゃあ、バレるのも時間の問題だと思うよ?」

うわぁ…。シンクって、相変わらずキツい…。
そりゃあ、アッシュみたいには出来ないだろうけどさ…。

でも。

「俺、もう決めたんだ。バチカルには帰らない」

「バチカルなら安全だけど、ここは違う。分かってる?」

「それくらい分かってるっつーの。だいたい、今死んだらマズい事くらい、俺だって分かってるし、危険な真似はしねぇーよ」

シンクがすっげぇ睨んでくる。
俺、何かシンクを怒らせるような事言ったか?
俺が何も言わないでいると、シンクは溜め息をついた。

「…まぁ、いいさ。アンタの好きにすれば良いよ。これは、アンタと被験者の問題なんだろ?だったら、ボクが口を出すべきじゃないだろうしね」

それだけ言うと、シンクはくるりと背を向けて、さっさと歩いて行く。

「ルークは『今』死んだらマズいって言ったけどさ、死ぬべき『いつか』が必ず来るとでも思ってるワケ?」

「まぁ、そりゃあ、何があるか分かんねぇし…」

「…あっそ。分かったよ。じゃあ、またね」

シンクは背を向けたまま軽く手を上げて、人混みの中に消えていった。

よく分かんねぇな…シンクって……。
つーか、いきなり単独行動って大丈夫なのかよ。
……まぁ、あいつ頭良いし。めちゃくちゃ強いし。シンクは心配ない、か。


…ダアトの教会へ行こう……。


昨日は走って通り過ぎたけど、
第四石碑の丘から見下ろしたダアトの町は、綺麗だった。

他の巡礼者達がしているように、近くの木陰に入り、木を背にして座る。『前』は知らなかったけど、涼しい風が吹いてて、すっげぇ気持ち良かった。
体力が回復してなかったせいで、身体中がダルい。じめじめ暑いせいか、余計に体力を奪われる感じだし。

「…グミでも食べとくか」

体力回復のグミを食べると、ちょっと身体が楽になった。
グミで頭痛も消えれば良いのに…。

「ダアトに行くのは良いけど、頭痛はアレだな…」

上手く誤魔化せれば良い。……楽観的かな?
屋敷でもガイ以外には誤魔化せてたし、大丈夫だよな?

「……まぁ、いっか。あんま考えても意味ねぇし」

丘を下りようと、立ち上がる。


ダアトの町が視界に広がる。


ダアトは、今のアッシュの居場所。

よく考えると、
俺がダアトに行くって事は、またアッシュの居場所を奪うって事になるのか…?
……ならねぇよな?

だって、アッシュはバチカルを自分の居場所って言ってた。
俺がいるせいで、帰りたいと望んでも帰れなかった、本当の居場所だった。

俺がいなくなれば、アッシュは帰れる。

『前』にガイから卑屈って言われたけど、やっぱ、そういう事だと思う。
卑屈な考え方じゃない。

「ダアトに行って、今から全部やり直すんだ」

俺は、過去をやり直す事が出来る。
『前』は知らなかった事を知る事が出来て、
取り返しがつかないと言って悔やんだ事を、きっと、取り返せる。


これは、すっげぇ贅沢な事なんだ。
これがローレライがしてくれた事なら、感謝しなきゃだな。


ダアトの町に入ると、他の町とはちょっと違う特殊な雰囲気を感じた。
町の住人でありローレライ教信者でもあるヒトたちは、いつも穏やかな笑みを浮かべて、挨拶してくれる。時間がゆっくり流れている感じだ。

教会前に到着して、こっそり深呼吸。

大階段を上がり、神託の盾(オラクル)本部へ通じる扉の前に到着。

門番が姿勢を正し敬礼したので、応えようとすると、

「アッシュ様、今朝から、リグレット様がお探ししてましたよ」

あんまり聞きたくねぇ名前を言われた。

…あー、リグレットかー…。あんま会いたくねぇな…。
なんか報告義務がどーとか言ってたっけ。
つーか、ザレッホ火山の研究所の事とか、どういう事になってるんだろ?
シンク達が脱走した事になってるから、捜索中とか?

考えすぎたら、頭がくらくらしてきた……。

「そのリグレットは今どこにいる?」

「リグレット様なら、首席総長様の執務室かと…」

それって、どこ?…なーんて聞ける訳ねぇか。

「…分かった。ご苦労」

とりあえず、本部のある地下に行くか。

『前』に2回くらい侵入した事あるし、
アニスから話を聞いたりしてて、内部の事は知ってる。


地下に入ると、少しひんやりしてて、気持ち良い。
奥に行こうとすると、ちょうどリグレットが階段を下りてくる所だった。

しかも、目が合った。

すっげぇ逃げたいけど逃げる訳にもいかねぇし!もぉどうにでもなれっ!

「アッシュ!…あぁ、閣下もお戻りでしたか」


え?


閣下って…。………ヴァン師匠!?


驚いて振り返ると、ヴァン師匠が、廊下から出てきた所だった。

「あぁ、今、バチカルから戻った。変わりはないか?」

リグレットに言いながら、師匠は歩を進める。
バチカルと言った時に視線が向けられた気がしたけど、俺は目を合わせなかった。

「閣下、ご報告があります」

「執務室で聞こう。アッシュ、ケセドニアはどうだった?」

ヴァン師匠の声が優しくて、俺は顔を上げそうになる。
でも、寸での所で抑えて、背を向けた。

「別に。どうという事もない」

早くリグレットとどこかへ行ってくれよ。

「…アッシュ」

ヴァン師匠の声が聞こえてきた瞬間、
ふっと身体が傾いたかと思ったら、妙な浮遊感がした。

「ぅわっ!」

声が出てしまった瞬間に、ヴァン師匠と目が合う。
俺はヴァン師匠に抱き上げられてしまっていた。

……なんで捕獲されてんだ、俺?
あっ。もしかして、アッシュじゃない事がもうバレた?!

「…何するんだよっ!」

とにかく下りようと思ってもがいたら、

「アッシュ、無理をするなと前に言った筈だが?」

ヴァン師匠の優しく落ち着いた声が聞こえてきて、力が抜けてしまった。
アッシュって言われたから、バレてはないみたいだったし。
リグレットが傍に寄ってきて、俺の首筋に手を当てる。

「昨日も少し様子が変だと思ったら、熱があるではないか」

……へ?熱?

「熱なんかねぇ。ちっと暑いだけだっ」

「ふむ。これ以上、無理をされては悪化してしまう。自覚がないなら、このまま部屋まで送っていこう」

「ちょ、ちょっと待っ…」

さすがに相手がヴァン師匠でも、これじゃあ子供みたいでハズかしいっつーの!!
つーか、ヴァン師匠の力が強すぎて、振りほどけねぇし!

「大人しくしていろ。子供の頃を思い出して懐かしいだろう」

子供の頃…。
アッシュの子供の頃って、どんなだったんだろ…。



結局、アッシュの部屋のベッドに到着するまで、ヴァン師匠に捕獲されたままだった。

ベッドに腰掛けると、急激に、疲労感が増した気がした。
思ってた以上に体調が悪かったみたいだ。

「寝ていなさい。後で、薬と食事を届けさせよう」


ヴァン師匠はアッシュに優しい。それも、俺とは違って、嘘の優しさじゃない。


顔につけていた仮面を外されて、目を覗き込まれる。

「何度も言っただろう。無理はするな、と。私にはお前が必要なのだ。世界で唯一人のお前がな」

世界で唯一人の……アッシュ、が。

「私の理想の実現の為に、力を貸してくれるのだろう?その為にも今は休め。お前には期待しているのだよ」

ヴァン師匠は微笑んで、それから部屋を出ていった。


アッシュは凄いと思う。

こんな、すがりたくなるような言葉を囁かれて、それでも、途中でヴァン師匠の行動に疑問を感じて、世界を救う為に、師匠に反発した。自分で考えて行動して、何が正しいのか見極めた。きっと、馬鹿な俺には、そんな事なんて出来ない。

『前』にヴァン師匠は『私にはお前が必要』だと俺に言った。
それは、俺を騙して利用する為の嘘だった。


でも、アッシュに対する言葉は、嘘じゃない。
本当に必要で、本当に大切にしてくれているんだ。


「誰かに必要とされるって、どんな気持ちだろ…」

急に身体が辛くなって、ベッドに寝転ぶ。

辛いのは、多分、風邪のせいだ。


『前』に、エルドラントで仲間のみんなと別れる時、
みんなは俺に、帰ってこいって、言ってくれた。

あの時、みんなは、俺を必要としてくれた。

馬鹿で臆病でどうしようもない、こんな俺なんか、を。

……でも、今から過去をやり直すんだ。

みんなが俺を必要としてくれた『あの時』は、なくなるんだ。

たくさんの犠牲の上に成り立っていた『あの時』なんて、
あんな未来なんて、絶対に迎えちゃいけない。


……でも、もう二度と、俺を必要としてくれた『あの時』のみんなには、会えなくなる。


そんな事を考えるだけで、俺は、過去をやり直す事に、躊躇いを感じてしまう。
でも、過去をやり直すなんて、贅沢な事なんだ。誰にでも、やり直したい過去があって、でもやり直せないから、後悔して、苦しむ事しか出来ないのに。


……だから、これは、贅沢な事なんだ!


それなのに、俺は馬鹿で臆病で傲慢で欲張りで惨めで、情けなくて淋しくて悲しくて辛くて、

この贅沢を放棄して、『あの時』のみんなに会いたくなる。


「……俺って、最低だな…」

こんなに辛く感じるのは、多分、風邪のせいだ。
熱が下がれば、きっと、頑張れる。頑張るんだ。





※※※続きます※※※





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