AL逆行itsbetween1and0/27 AL長編/it's between 1and0 2012年08月19日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第27話・六神将ルーク編04「これは、贅沢な事なんだ」です。 it's between 1 and 0 第27話 ※※※ 俺とシンクは、ダアト港にいて、シェリダン行きの連絡船が出ていく様子を見守った。 別れ際にフローリアンが泣いてたのを思い出して、俺もちょっと泣きそうになる。 「あーあっ。煩いのがいなくなって、せいせいした」 シンクはそんな事を言ってるけど、ちょっと涙声になってるのが分かった。 「シンクは一緒に行かなくて良かったのか?」 「一緒に行ったら、アンタを手伝えないでしょ」 「手伝うって言ってもさ…」 「ボクは、ボクのやり方で協力させてもらうよ。どうせアンタは、作戦も何もまだ考えてないんだろ?」 うぅ…。相変わらず痛い所を突いてくるヤツだな…。 「アンタはダアトに行くって言ってたっけ?」 「あぁ」 シンクには、俺がアッシュとしてダアトに行く事を話していた。 アッシュにはまだ話していない。つーか、いずれ話さなきゃだけど、あんま話したくない。 「バチカルのお屋敷で大人しくしてる方が良いと思うけどね。アンタじゃあ、バレるのも時間の問題だと思うよ?」 うわぁ…。シンクって、相変わらずキツい…。 そりゃあ、アッシュみたいには出来ないだろうけどさ…。 でも。 「俺、もう決めたんだ。バチカルには帰らない」 「バチカルなら安全だけど、ここは違う。分かってる?」 「それくらい分かってるっつーの。だいたい、今死んだらマズい事くらい、俺だって分かってるし、危険な真似はしねぇーよ」 シンクがすっげぇ睨んでくる。 俺、何かシンクを怒らせるような事言ったか? 俺が何も言わないでいると、シンクは溜め息をついた。 「…まぁ、いいさ。アンタの好きにすれば良いよ。これは、アンタと被験者の問題なんだろ?だったら、ボクが口を出すべきじゃないだろうしね」 それだけ言うと、シンクはくるりと背を向けて、さっさと歩いて行く。 「ルークは『今』死んだらマズいって言ったけどさ、死ぬべき『いつか』が必ず来るとでも思ってるワケ?」 「まぁ、そりゃあ、何があるか分かんねぇし…」 「…あっそ。分かったよ。じゃあ、またね」 シンクは背を向けたまま軽く手を上げて、人混みの中に消えていった。 よく分かんねぇな…シンクって……。 つーか、いきなり単独行動って大丈夫なのかよ。 ……まぁ、あいつ頭良いし。めちゃくちゃ強いし。シンクは心配ない、か。 …ダアトの教会へ行こう……。 昨日は走って通り過ぎたけど、 第四石碑の丘から見下ろしたダアトの町は、綺麗だった。 他の巡礼者達がしているように、近くの木陰に入り、木を背にして座る。『前』は知らなかったけど、涼しい風が吹いてて、すっげぇ気持ち良かった。 体力が回復してなかったせいで、身体中がダルい。じめじめ暑いせいか、余計に体力を奪われる感じだし。 「…グミでも食べとくか」 体力回復のグミを食べると、ちょっと身体が楽になった。 グミで頭痛も消えれば良いのに…。 「ダアトに行くのは良いけど、頭痛はアレだな…」 上手く誤魔化せれば良い。……楽観的かな? 屋敷でもガイ以外には誤魔化せてたし、大丈夫だよな? 「……まぁ、いっか。あんま考えても意味ねぇし」 丘を下りようと、立ち上がる。 ダアトの町が視界に広がる。 ダアトは、今のアッシュの居場所。 よく考えると、 俺がダアトに行くって事は、またアッシュの居場所を奪うって事になるのか…? ……ならねぇよな? だって、アッシュはバチカルを自分の居場所って言ってた。 俺がいるせいで、帰りたいと望んでも帰れなかった、本当の居場所だった。 俺がいなくなれば、アッシュは帰れる。 『前』にガイから卑屈って言われたけど、やっぱ、そういう事だと思う。 卑屈な考え方じゃない。 「ダアトに行って、今から全部やり直すんだ」 俺は、過去をやり直す事が出来る。 『前』は知らなかった事を知る事が出来て、 取り返しがつかないと言って悔やんだ事を、きっと、取り返せる。 これは、すっげぇ贅沢な事なんだ。 これがローレライがしてくれた事なら、感謝しなきゃだな。 ダアトの町に入ると、他の町とはちょっと違う特殊な雰囲気を感じた。 町の住人でありローレライ教信者でもあるヒトたちは、いつも穏やかな笑みを浮かべて、挨拶してくれる。時間がゆっくり流れている感じだ。 教会前に到着して、こっそり深呼吸。 大階段を上がり、神託の盾(オラクル)本部へ通じる扉の前に到着。 門番が姿勢を正し敬礼したので、応えようとすると、 「アッシュ様、今朝から、リグレット様がお探ししてましたよ」 あんまり聞きたくねぇ名前を言われた。 …あー、リグレットかー…。あんま会いたくねぇな…。 なんか報告義務がどーとか言ってたっけ。 つーか、ザレッホ火山の研究所の事とか、どういう事になってるんだろ? シンク達が脱走した事になってるから、捜索中とか? 考えすぎたら、頭がくらくらしてきた……。 「そのリグレットは今どこにいる?」 「リグレット様なら、首席総長様の執務室かと…」 それって、どこ?…なーんて聞ける訳ねぇか。 「…分かった。ご苦労」 とりあえず、本部のある地下に行くか。 『前』に2回くらい侵入した事あるし、 アニスから話を聞いたりしてて、内部の事は知ってる。 地下に入ると、少しひんやりしてて、気持ち良い。 奥に行こうとすると、ちょうどリグレットが階段を下りてくる所だった。 しかも、目が合った。 すっげぇ逃げたいけど逃げる訳にもいかねぇし!もぉどうにでもなれっ! 「アッシュ!…あぁ、閣下もお戻りでしたか」 え? 閣下って…。………ヴァン師匠!? 驚いて振り返ると、ヴァン師匠が、廊下から出てきた所だった。 「あぁ、今、バチカルから戻った。変わりはないか?」 リグレットに言いながら、師匠は歩を進める。 バチカルと言った時に視線が向けられた気がしたけど、俺は目を合わせなかった。 「閣下、ご報告があります」 「執務室で聞こう。アッシュ、ケセドニアはどうだった?」 ヴァン師匠の声が優しくて、俺は顔を上げそうになる。 でも、寸での所で抑えて、背を向けた。 「別に。どうという事もない」 早くリグレットとどこかへ行ってくれよ。 「…アッシュ」 ヴァン師匠の声が聞こえてきた瞬間、 ふっと身体が傾いたかと思ったら、妙な浮遊感がした。 「ぅわっ!」 声が出てしまった瞬間に、ヴァン師匠と目が合う。 俺はヴァン師匠に抱き上げられてしまっていた。 ……なんで捕獲されてんだ、俺? あっ。もしかして、アッシュじゃない事がもうバレた?! 「…何するんだよっ!」 とにかく下りようと思ってもがいたら、 「アッシュ、無理をするなと前に言った筈だが?」 ヴァン師匠の優しく落ち着いた声が聞こえてきて、力が抜けてしまった。 アッシュって言われたから、バレてはないみたいだったし。 リグレットが傍に寄ってきて、俺の首筋に手を当てる。 「昨日も少し様子が変だと思ったら、熱があるではないか」 ……へ?熱? 「熱なんかねぇ。ちっと暑いだけだっ」 「ふむ。これ以上、無理をされては悪化してしまう。自覚がないなら、このまま部屋まで送っていこう」 「ちょ、ちょっと待っ…」 さすがに相手がヴァン師匠でも、これじゃあ子供みたいでハズかしいっつーの!! つーか、ヴァン師匠の力が強すぎて、振りほどけねぇし! 「大人しくしていろ。子供の頃を思い出して懐かしいだろう」 子供の頃…。 アッシュの子供の頃って、どんなだったんだろ…。 結局、アッシュの部屋のベッドに到着するまで、ヴァン師匠に捕獲されたままだった。 ベッドに腰掛けると、急激に、疲労感が増した気がした。 思ってた以上に体調が悪かったみたいだ。 「寝ていなさい。後で、薬と食事を届けさせよう」 ヴァン師匠はアッシュに優しい。それも、俺とは違って、嘘の優しさじゃない。 顔につけていた仮面を外されて、目を覗き込まれる。 「何度も言っただろう。無理はするな、と。私にはお前が必要なのだ。世界で唯一人のお前がな」 世界で唯一人の……アッシュ、が。 「私の理想の実現の為に、力を貸してくれるのだろう?その為にも今は休め。お前には期待しているのだよ」 ヴァン師匠は微笑んで、それから部屋を出ていった。 アッシュは凄いと思う。 こんな、すがりたくなるような言葉を囁かれて、それでも、途中でヴァン師匠の行動に疑問を感じて、世界を救う為に、師匠に反発した。自分で考えて行動して、何が正しいのか見極めた。きっと、馬鹿な俺には、そんな事なんて出来ない。 『前』にヴァン師匠は『私にはお前が必要』だと俺に言った。 それは、俺を騙して利用する為の嘘だった。 でも、アッシュに対する言葉は、嘘じゃない。 本当に必要で、本当に大切にしてくれているんだ。 「誰かに必要とされるって、どんな気持ちだろ…」 急に身体が辛くなって、ベッドに寝転ぶ。 辛いのは、多分、風邪のせいだ。 『前』に、エルドラントで仲間のみんなと別れる時、 みんなは俺に、帰ってこいって、言ってくれた。 あの時、みんなは、俺を必要としてくれた。 馬鹿で臆病でどうしようもない、こんな俺なんか、を。 ……でも、今から過去をやり直すんだ。 みんなが俺を必要としてくれた『あの時』は、なくなるんだ。 たくさんの犠牲の上に成り立っていた『あの時』なんて、 あんな未来なんて、絶対に迎えちゃいけない。 ……でも、もう二度と、俺を必要としてくれた『あの時』のみんなには、会えなくなる。 そんな事を考えるだけで、俺は、過去をやり直す事に、躊躇いを感じてしまう。 でも、過去をやり直すなんて、贅沢な事なんだ。誰にでも、やり直したい過去があって、でもやり直せないから、後悔して、苦しむ事しか出来ないのに。 ……だから、これは、贅沢な事なんだ! それなのに、俺は馬鹿で臆病で傲慢で欲張りで惨めで、情けなくて淋しくて悲しくて辛くて、 この贅沢を放棄して、『あの時』のみんなに会いたくなる。 「……俺って、最低だな…」 こんなに辛く感じるのは、多分、風邪のせいだ。 熱が下がれば、きっと、頑張れる。頑張るんだ。 ※※※続きます※※※ PR