AL逆行itsbetween1and0/26 AL長編/it's between 1and0 2012年08月18日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第26話・六神将ルーク編03「アッシュの金だし。ぼったくられろ」です。 今回から六神将ルーク編です。 it's between 1 and 0 第26話 ※※※ シンクは、凄い。 『前』の時は敵だったから、こんな風に話した事なかったけど、すごく冷静に、色んな事を考えてる感じで、なんつーか、こいつほんとに頭良いんだなーって思った。言葉がキツいのは、相変わらずだけど、でも、シンクが言ってくれる内容は、なんか納得できちまう。 つーか、俺が口でシンクに敵う訳ねぇし。 フローリアンは、楽しい。 最初は、俺と目が合うと怯えてばっかだったけど、今は目が合うと、すっげぇ嬉しそうに笑ってくれる。たくさん喋ってくれるようになったし。何故か、すぐに抱きついて甘えてくるから、最初はちょっとウザくて、照れ臭かったけど、慣れると、フローリアンは可愛いなって感じに思えた。 ウザさで言ったら、ミュウほどじゃねぇし。 ダアト港に着いてすぐに食材屋に寄って、隠れ家に戻ってから、パスタを作った。『前』に料理した事あったから一応出来たけど、実は、ちょっと自信なかった。 シンクとフローリアンには、初パスタだったらしくて。人生初のパスタが俺の作ったヤツで、申し訳なかったけど、美味しいって言ってくれたから、すっげぇ嬉しかった。 その間、アッシュがチャネリングで何か言ってたけど、全力で無視した。耳鳴りするから止めてほしいって言いたかったけど、言ったら負けるような気がして、聞こえてないフリしてやった。 勝手にほざいてろっつの。 「うわぁ…こいつら、ほんと同じ顔なんだな……」 一緒に眠ってるシンクとフローリアンを見て、当たり前の事を呟いてしまった。 表情とか行動とか全然違うから、起きてる時は、そういう感じは全然しないんだけどな…。 「やっぱ、シンクも疲れてたんだなぁ…」 二人を先に風呂に入れた後、ベッドに入ってるように伝えてから、俺も風呂に入った。 もしかしたらシンクはまだ起きてるかもって思ったけど、意外と寝てて、びっくりした。 まぁ、こいつもまだ、12才だもんなぁ…。 「…本当なら、ここに『5番目』も……」 思い出して、拳を握り締める。もっと俺が上手く立ち回れば、助けられた筈だった。 今ここで、3人で同じ寝顔を並べてる筈だった。 ザレッホ火山の内部を歩いてた時、ずっと考えてた。『5番目』をどんな名前で呼ぼうか、って。 成り行きで、シンクもフローリアンも俺が名付けた事になっちまったから、俺は『5番目』も名付けようと考えてた。 「…名前、結局、呼んであげられなかったな……」 溢れそうになった涙を慌てて拭う。 落ち込んでる暇はない。気持ちを切り換えなくちゃいけない。 ここはまだダアトだ。研究所からは逃げ出せたけど、まだ安心しちゃいけない。 俺がしっかりしなくちゃいけない。 息を吐き出して。今考えるべき事を、考えるんだ。 「…でも、明日から、どうすっかなー…」 シンクとフローリアンがダアトにいるのはマズイよな…。つっても、どこに匿ったら良いんだろ? シンクはなんか大丈夫っぽいけど、フローリアンはなぁ…。アッシュなら、どうするかなぁ…。 …ほんと、俺って、無計画っつーか考えなしっつーか…。 濡れた髪をタオルでがしがし拭きながら、椅子に腰かける。 「はー…。何も良いアイディアが浮かばねぇ…」 ……あれ?耳鳴りが始まった。またかよ。めんどくせーなー…。 (おい、屑) 屑ってゆーな。 (…お前、二人をどこに匿うつもりだ?) 何これ。以心伝心?…きしょくわり。 (どうせ何も考えてはいないんだろう?) うるせー。ハゲ。 (明日、ダアト港の東地区にある酒場を訪ねろ。女の店主に、漆黒の翼のバッジを見せれば、ノワールと連絡が取れる) (漆黒の翼!?ノワールに!?) (…フン。ようやく応えたか。現金なヤツめ) うわぁあああ!すっげぇムカつくぅうぅううう!! って。ちょっと待て。 漆黒の翼って、義賊やってるサーカス団のヤツらだろ。 確か、ノワールっつークネクネした女がリーダーで、『前』にアッシュが金で雇ってた…。 (アッシュ、今も繋がりがあるのか?) (当たり前だ。ヤツらは有能だからな) ふーん…。『前』の仲間と一緒なのか…。いいなぁ…。 (シンクはともかく、フローリアンは保護が必要だ) 俺と同じこと考えてたか。 (直接ノワールに、イオンレプリカ計画の事を話せ。そうすれば、預言嫌いのノワールは協力してくれる) (…うん。そうする) (それが終わったら、バチカルに戻って来い) 俺は、その言葉に、答えたくなかった。 (…もぉ疲れた。眠る。お前に騙されたせいで、無駄足させられたし、すっげぇ焦らされたし…) (……悪かった、な) ……へ? 今、アッシュが……謝った?…明日は預言が外れて雨が降るかもなー…。 (もぉいいよ。おやすみ) (…あぁ、おやすみ) アッシュが、おやすみ、とか有り得ねぇ…。 回線が切れた事を確認して、俺は机に突っ伏した。 髪が濡れたままで、気持ち悪い。ガイがいたら、ルークは仕方ないなって言いながらも、拭いてくれるのに…。ずっとガイに甘えてたんだなぁ…。 「……バチカル、か…」 ずっと、考えてた事を、俺はもう一度よく考えた。 本当なら、アッシュが、バチカルにいるべきなんだ。 アッシュに、あの居場所を返したい。今が、そのチャンスなんじゃないか。って。 勢いで飛び出してきた時には思い付かなかったけど、途中でなんとなく気付いて。 それからずっと、その事を考えてた。 『前』にアッシュは、俺がアッシュの居場所を奪ったと言って、俺の事を恨んでた。 だから、ずっと、アッシュに返したいって思ってた。 あの居場所はすごく暖かい、陽だまりのような所。 でも、俺がいると、暖かいだけで、嘘しかない所。 アッシュが帰れば、本物の陽だまりになるのに…。 なんで、バチカルに帰って来いなんて、アッシュは俺に言うんだろう…? 「……ナタリアのケーキ、そんなにヤバかったのかな?」 ……まぁ、そんなワケねぇか…。 机に突っ伏して、色んな事を考えていたら、そのまま眠ってしまった。 ……朝、目が覚めたら、すっげぇダルかった…。 とにかく身体中の間接も痛ぇし喉も痛ぇし最悪。 『前』は野宿でも、けっこう回復できてた筈なんだけど…。 シンクからは「何やってんの」って呆れられた。……ごもっともデス。 でも、一つ良い事があった。 俺が髪の色を変える譜術に再チャレンジして、また失敗してヘコんでたら、それを見たシンクが、何故か、譜術を一発で成功させた。 「すっげぇな、シンク!」って言ったら、「アンタが不器用すぎ…」ってまた呆れられた。 はいはい、ゴメンナサイねー。俺は不器用デスよー。 それから、俺はシンクに、漆黒の翼の事を伝えた。シンクはすぐに賛成してくれた。フローリアンは、何の事か分からないって顔してて、ちょっと困ったけど。 シンクはダアト港の地理を把握しておきたいって言って、一人で出掛けていってしまった。 フローリアンを一人でおいていくのはマズイ気がして、一緒に出掛ける事にする。 行き先は酒場なんだけど、…まぁ、いいか。 ……あんま良くなかった。 アッシュが指定した酒場は、ダアト港の外れにあって、グランコクマにあるようなキレイな感じじゃなくて、だいたいの客に睨まれて、フローリアンが怯えてた。 ……ぶっちゃけ、俺もちょっとビビったけど。 薄暗い店内を見回してから、カウンターの向こうにいる店主のもとへ行こうとした時、 「あらん。アッシュ坊や、久しぶりじゃないかぁい?」 ノワールの声が聞こえてきて、驚いて振り返る。 「あんたに連れがいるとは、珍しい事だねぇ?どうしたんだぃ?あたしに用があって来たんだろぉ?」 そうそう、こういう喋り方だったよな、この女。ノワールの後ろには、小ネズミをつれたヨークと、ヒゲのウルシーがいる。こいつらも相変わらずって感じだ。 まぁ、いきなり会えてビックリしたけど、色々手間が省けたのは、本当に幸運かもしんねぇ。 「ノワール、話がある」 最近、俺って、アッシュの物真似が上手くなってねぇ? 「それは仕事の依頼かぃ?」 「ある意味、危険な依頼かもしれねぇな」 「報酬さえ弾んでくれりゃあ、文句は言わないさ」 ノワールはそう言うと、傍に寄ってきて、俺がつけてた仮面を指でなぞった。 ノワールって美人だしメロンなんだけど、この意味不明な動きと、香水臭さが苦手なんだよな…。 あっ!そういえば…!……いや、大丈夫。財布はスられてないっぽい。 「おや?ちょいと、アッシュ、あんた…」 「何だ?報酬なら好きなだけ請求して良いぞ?」 アッシュの金だし。ぼったくられろ。 しばらく俺の顔を窺った後、くす、とノワールが笑う。 …うーん、ノワールの行動って、よく分からねぇ…。 「じゃあ、まずは話を聞かせてもらおうかねぇ?」 そう言って、ノワールは、酒場の上階を視線で示した。 どうも俺だと説明するのが下手で、結局、アッシュにチャネリングで手伝ってもらいながら、ノワール達に、イオンレプリカ計画について話せた。ノワール達の驚きは、…まぁ、予想通りっつーか…。フローリアンが顔を見せると、こっちがビックリするくらい驚いていた。 「こいつは、確かに、危険な依頼だねぇ…」 ノワールがそう言いながらも、引き受けてくれた。 「じゃあ、フローリアンを頼む」 「あぁ。あたし達に任せておきな」 ようやく交渉がまとまった時、 「るーく、ぼくをおいて、どこかいっちゃうの?」 フローリアンが涙目で俺を見上げた。俺に抱きついてきて、法衣をぎゅっと掴む。 その様子を見たノワール達は驚いたようだ。 …つーか『ルーク』って呼ぶなって言ってたんだけど…。 まぁ、フローリアンには無理だったよな…。 「フローリアン、ここは危険なんだ。分かってくれ」 「やだよぉ!るーくとはなれるの、やだよぉ!!きょうのるーく、へんだよ!かおにへんなのつけてるもん!」 大声で泣かれて、困ってしまった。 しかも、仮面が変とか言われちまうし。まぁ、ぶっちゃけ、俺も変だとは思ってたけどさ。 あ。ノワール達も「ルークって?」とか言い始めやがった。 …なんかもぉいいや。フローリアン、最強すぎる。 俺は仮面を外すと、フローリアンに目線を合わせて、頭をくしゃくしゃ撫でた。 「ごめんな、フローリアン。ちょっとの間、お別れだ。でも、ずっと会えないって訳じゃねぇからさ」 「ほんと?またあえる?」 「フローリアンが良い子にしてたらな?」 「ほんとに?」 「あぁ、約束だ。指切りでもするか?」 フローリアンに指切りを教えると、楽しそうに、指切りをしてくれた。 それまで見守っていたノワールが、俺の顔を覗き込んで、片方の眉を上げる。 「アッシュ、あんた、やっぱり熱でもあるのかい?」 「…そうかもしれねぇな」 ……頼むから、ツッコミしないでくれ。 ※※※続きます※※※ PR