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AL逆行itsbetween1and0/26



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第26話・六神将ルーク編03「アッシュの金だし。ぼったくられろ」です。


今回から六神将ルーク編です。




it's between 1 and 0 第26話


※※※



シンクは、凄い。

『前』の時は敵だったから、こんな風に話した事なかったけど、すごく冷静に、色んな事を考えてる感じで、なんつーか、こいつほんとに頭良いんだなーって思った。言葉がキツいのは、相変わらずだけど、でも、シンクが言ってくれる内容は、なんか納得できちまう。

つーか、俺が口でシンクに敵う訳ねぇし。

フローリアンは、楽しい。

最初は、俺と目が合うと怯えてばっかだったけど、今は目が合うと、すっげぇ嬉しそうに笑ってくれる。たくさん喋ってくれるようになったし。何故か、すぐに抱きついて甘えてくるから、最初はちょっとウザくて、照れ臭かったけど、慣れると、フローリアンは可愛いなって感じに思えた。

ウザさで言ったら、ミュウほどじゃねぇし。


ダアト港に着いてすぐに食材屋に寄って、隠れ家に戻ってから、パスタを作った。『前』に料理した事あったから一応出来たけど、実は、ちょっと自信なかった。

シンクとフローリアンには、初パスタだったらしくて。人生初のパスタが俺の作ったヤツで、申し訳なかったけど、美味しいって言ってくれたから、すっげぇ嬉しかった。


その間、アッシュがチャネリングで何か言ってたけど、全力で無視した。耳鳴りするから止めてほしいって言いたかったけど、言ったら負けるような気がして、聞こえてないフリしてやった。


勝手にほざいてろっつの。


「うわぁ…こいつら、ほんと同じ顔なんだな……」

一緒に眠ってるシンクとフローリアンを見て、当たり前の事を呟いてしまった。
表情とか行動とか全然違うから、起きてる時は、そういう感じは全然しないんだけどな…。

「やっぱ、シンクも疲れてたんだなぁ…」

二人を先に風呂に入れた後、ベッドに入ってるように伝えてから、俺も風呂に入った。
もしかしたらシンクはまだ起きてるかもって思ったけど、意外と寝てて、びっくりした。
まぁ、こいつもまだ、12才だもんなぁ…。

「…本当なら、ここに『5番目』も……」

思い出して、拳を握り締める。もっと俺が上手く立ち回れば、助けられた筈だった。
今ここで、3人で同じ寝顔を並べてる筈だった。

ザレッホ火山の内部を歩いてた時、ずっと考えてた。『5番目』をどんな名前で呼ぼうか、って。

成り行きで、シンクもフローリアンも俺が名付けた事になっちまったから、俺は『5番目』も名付けようと考えてた。

「…名前、結局、呼んであげられなかったな……」

溢れそうになった涙を慌てて拭う。

落ち込んでる暇はない。気持ちを切り換えなくちゃいけない。
ここはまだダアトだ。研究所からは逃げ出せたけど、まだ安心しちゃいけない。
俺がしっかりしなくちゃいけない。

息を吐き出して。今考えるべき事を、考えるんだ。

「…でも、明日から、どうすっかなー…」

シンクとフローリアンがダアトにいるのはマズイよな…。つっても、どこに匿ったら良いんだろ?
シンクはなんか大丈夫っぽいけど、フローリアンはなぁ…。アッシュなら、どうするかなぁ…。
…ほんと、俺って、無計画っつーか考えなしっつーか…。

濡れた髪をタオルでがしがし拭きながら、椅子に腰かける。

「はー…。何も良いアイディアが浮かばねぇ…」

……あれ?耳鳴りが始まった。またかよ。めんどくせーなー…。

(おい、屑)

屑ってゆーな。

(…お前、二人をどこに匿うつもりだ?)

何これ。以心伝心?…きしょくわり。

(どうせ何も考えてはいないんだろう?)

うるせー。ハゲ。

(明日、ダアト港の東地区にある酒場を訪ねろ。女の店主に、漆黒の翼のバッジを見せれば、ノワールと連絡が取れる)

(漆黒の翼!?ノワールに!?)

(…フン。ようやく応えたか。現金なヤツめ)

うわぁあああ!すっげぇムカつくぅうぅううう!!

って。ちょっと待て。

漆黒の翼って、義賊やってるサーカス団のヤツらだろ。
確か、ノワールっつークネクネした女がリーダーで、『前』にアッシュが金で雇ってた…。

(アッシュ、今も繋がりがあるのか?)

(当たり前だ。ヤツらは有能だからな)

ふーん…。『前』の仲間と一緒なのか…。いいなぁ…。

(シンクはともかく、フローリアンは保護が必要だ)

俺と同じこと考えてたか。

(直接ノワールに、イオンレプリカ計画の事を話せ。そうすれば、預言嫌いのノワールは協力してくれる)

(…うん。そうする)

(それが終わったら、バチカルに戻って来い)

俺は、その言葉に、答えたくなかった。

(…もぉ疲れた。眠る。お前に騙されたせいで、無駄足させられたし、すっげぇ焦らされたし…)

(……悪かった、な)

……へ?

今、アッシュが……謝った?…明日は預言が外れて雨が降るかもなー…。

(もぉいいよ。おやすみ)

(…あぁ、おやすみ)

アッシュが、おやすみ、とか有り得ねぇ…。

回線が切れた事を確認して、俺は机に突っ伏した。
髪が濡れたままで、気持ち悪い。ガイがいたら、ルークは仕方ないなって言いながらも、拭いてくれるのに…。ずっとガイに甘えてたんだなぁ…。

「……バチカル、か…」

ずっと、考えてた事を、俺はもう一度よく考えた。

本当なら、アッシュが、バチカルにいるべきなんだ。
アッシュに、あの居場所を返したい。今が、そのチャンスなんじゃないか。って。

勢いで飛び出してきた時には思い付かなかったけど、途中でなんとなく気付いて。
それからずっと、その事を考えてた。


『前』にアッシュは、俺がアッシュの居場所を奪ったと言って、俺の事を恨んでた。
だから、ずっと、アッシュに返したいって思ってた。


あの居場所はすごく暖かい、陽だまりのような所。
でも、俺がいると、暖かいだけで、嘘しかない所。

アッシュが帰れば、本物の陽だまりになるのに…。


なんで、バチカルに帰って来いなんて、アッシュは俺に言うんだろう…?


「……ナタリアのケーキ、そんなにヤバかったのかな?」

……まぁ、そんなワケねぇか…。


机に突っ伏して、色んな事を考えていたら、そのまま眠ってしまった。



……朝、目が覚めたら、すっげぇダルかった…。
とにかく身体中の間接も痛ぇし喉も痛ぇし最悪。
『前』は野宿でも、けっこう回復できてた筈なんだけど…。
シンクからは「何やってんの」って呆れられた。……ごもっともデス。

でも、一つ良い事があった。

俺が髪の色を変える譜術に再チャレンジして、また失敗してヘコんでたら、それを見たシンクが、何故か、譜術を一発で成功させた。

「すっげぇな、シンク!」って言ったら、「アンタが不器用すぎ…」ってまた呆れられた。
はいはい、ゴメンナサイねー。俺は不器用デスよー。

それから、俺はシンクに、漆黒の翼の事を伝えた。シンクはすぐに賛成してくれた。フローリアンは、何の事か分からないって顔してて、ちょっと困ったけど。

シンクはダアト港の地理を把握しておきたいって言って、一人で出掛けていってしまった。
フローリアンを一人でおいていくのはマズイ気がして、一緒に出掛ける事にする。


行き先は酒場なんだけど、…まぁ、いいか。



……あんま良くなかった。

アッシュが指定した酒場は、ダアト港の外れにあって、グランコクマにあるようなキレイな感じじゃなくて、だいたいの客に睨まれて、フローリアンが怯えてた。
……ぶっちゃけ、俺もちょっとビビったけど。

薄暗い店内を見回してから、カウンターの向こうにいる店主のもとへ行こうとした時、

「あらん。アッシュ坊や、久しぶりじゃないかぁい?」

ノワールの声が聞こえてきて、驚いて振り返る。

「あんたに連れがいるとは、珍しい事だねぇ?どうしたんだぃ?あたしに用があって来たんだろぉ?」

そうそう、こういう喋り方だったよな、この女。ノワールの後ろには、小ネズミをつれたヨークと、ヒゲのウルシーがいる。こいつらも相変わらずって感じだ。
まぁ、いきなり会えてビックリしたけど、色々手間が省けたのは、本当に幸運かもしんねぇ。

「ノワール、話がある」

最近、俺って、アッシュの物真似が上手くなってねぇ?

「それは仕事の依頼かぃ?」

「ある意味、危険な依頼かもしれねぇな」

「報酬さえ弾んでくれりゃあ、文句は言わないさ」

ノワールはそう言うと、傍に寄ってきて、俺がつけてた仮面を指でなぞった。
ノワールって美人だしメロンなんだけど、この意味不明な動きと、香水臭さが苦手なんだよな…。
あっ!そういえば…!……いや、大丈夫。財布はスられてないっぽい。

「おや?ちょいと、アッシュ、あんた…」

「何だ?報酬なら好きなだけ請求して良いぞ?」

アッシュの金だし。ぼったくられろ。

しばらく俺の顔を窺った後、くす、とノワールが笑う。
…うーん、ノワールの行動って、よく分からねぇ…。

「じゃあ、まずは話を聞かせてもらおうかねぇ?」

そう言って、ノワールは、酒場の上階を視線で示した。


どうも俺だと説明するのが下手で、結局、アッシュにチャネリングで手伝ってもらいながら、ノワール達に、イオンレプリカ計画について話せた。ノワール達の驚きは、…まぁ、予想通りっつーか…。フローリアンが顔を見せると、こっちがビックリするくらい驚いていた。

「こいつは、確かに、危険な依頼だねぇ…」

ノワールがそう言いながらも、引き受けてくれた。

「じゃあ、フローリアンを頼む」

「あぁ。あたし達に任せておきな」

ようやく交渉がまとまった時、

「るーく、ぼくをおいて、どこかいっちゃうの?」

フローリアンが涙目で俺を見上げた。俺に抱きついてきて、法衣をぎゅっと掴む。
その様子を見たノワール達は驚いたようだ。

…つーか『ルーク』って呼ぶなって言ってたんだけど…。
まぁ、フローリアンには無理だったよな…。

「フローリアン、ここは危険なんだ。分かってくれ」

「やだよぉ!るーくとはなれるの、やだよぉ!!きょうのるーく、へんだよ!かおにへんなのつけてるもん!」

大声で泣かれて、困ってしまった。
しかも、仮面が変とか言われちまうし。まぁ、ぶっちゃけ、俺も変だとは思ってたけどさ。

あ。ノワール達も「ルークって?」とか言い始めやがった。

…なんかもぉいいや。フローリアン、最強すぎる。

俺は仮面を外すと、フローリアンに目線を合わせて、頭をくしゃくしゃ撫でた。

「ごめんな、フローリアン。ちょっとの間、お別れだ。でも、ずっと会えないって訳じゃねぇからさ」

「ほんと?またあえる?」

「フローリアンが良い子にしてたらな?」

「ほんとに?」

「あぁ、約束だ。指切りでもするか?」

フローリアンに指切りを教えると、楽しそうに、指切りをしてくれた。

それまで見守っていたノワールが、俺の顔を覗き込んで、片方の眉を上げる。

「アッシュ、あんた、やっぱり熱でもあるのかい?」

「…そうかもしれねぇな」


……頼むから、ツッコミしないでくれ。






※※※続きます※※※

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