AL逆行itsbetween1and0/23 AL長編/it's between 1and0 2012年08月12日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第23話・シンク編03「けれど、それはボクの勝手な心情」です。 it's between 1 and 0 第23話 ※※※ 「フィアブロンクが、なんで寝てるんだ?」 山頂の出口へ向かう途中、ボクが巨大な魔物に驚いて言葉を失っていると、 後ろから、ルークが奇妙な声を上げた。 「フィアブロンクって?コイツ一体何なの?」 炎を纏う魔物なんて、ボクの知識の中にはない。 「火山の中に住み着いてる魔物でさ、けっこー強い。今は戦うの勘弁して欲しかったからさぁ、1本だけホーリィボトル持ってきたんだけど…」 ホーリィボトル…、あぁ、対魔物用の忌避剤か。 て言うか、忌避剤が効くような魔物なの、こいつ? 「ま、寝てるなら、ラッキーだよな。さっさと行こうぜ」 フィアブロンクの横を通り過ぎ、見えなくなる所まで来た所で、 ルークがマントの下から、道具袋を取り出した。 「シンク、ホーリィボトルが残っちまったけど、今、使うか?山頂の出口まで、まだ距離あるしさ」 なんで、ボクに聞くのさ。ま、別にいいけど。 「今使うのは得策じゃないと、ボクは思うけどね。確かに、火口近くの戦闘は体力的にキツいけど、出口に着いても、今度は下山しなきゃなんでしょ?1本しかないなら、それは非常用にとっておきなよ」 「そっか。うん、そうしとく。じゃあ、グミ食べるか?」 …ふーん、準備いいんだ。 ルークに道具袋の中身を聞くと、最低限の物しか持って来れなかったという割りに、役に立ちそうなものばかりで驚いた。さすがに一人で乗り込んできただけはあると思いながら、感心を通り越して、ちょっと呆れる。 「…それにしても、フィアブロンクも寝る事あるのかー」 「魔物だって寝たい時くらいあるでしょ」 「洞窟の中も『前』より魔物が少ないし、変な感じだ…。まぁ、ラッキーだったけど…」 「…ふーん、ラッキーねぇ……」 その時、 「ねぇ、ねぇ、るーく!これから、そとにいくのっ?」 『3番目』が楽しみを待ちきれないと言うように、ルークの手を振り回しながら聞いた。 「あぁ、そうだぞ」 「ぼくねぇ、そとにでるの、はじめてー!」 「え…?」 ルークは驚いたようだった。けれど、すぐに『3番目』の頭をくしゃくしゃ撫で始める。 「楽しみにしてろよ。外に出たら、山頂から海が見えるぜ」 「うみ?うみって、みずがいっぱいあるところ?」 「いっぱいなんてモンじゃねぇーよ!すっっっげぇいっぱいだ!青くて、広くて、お前、すっげぇビックリするって!」 ……ルーク、ボキャブラリーなさすぎ。 「びっくり!?ほんとぉ!?」 「ほんと、ほんと!」 ……おい、ルーク、『3番目』と話が合うなんて、アンタは一体何才児だ…。 「あいつら、精神年齢同じなんじゃない?」 ボクが呆れて呟くと、くすくす笑う声が聞こえてくる。 「楽しそうで良いじゃないですか。僕も海が楽しみです」 「けど、アンタ、目が見えないだろ?どんなに楽しみにしたって、海は見えないじゃないか」 「…えぇ、それは、そうですけど……」 「海は見えなくても、潮風は感じるぞ!」 そのルークの声が聞こえてきて、ボク達は振り返る。 「潮風というのは、海から吹く風ですよね?」 『5番目』が聞き返すと、ルークは「あぁ」と頷いた。 「今、めちゃくちゃ暑いだろ?だから余計にさ、潮風は、めちゃくちゃ涼しくて気持ちいいと思う。山に入れば緑の匂いがするし、虫の鳴く声もする。だからさ、外に出るの、楽しみにしてろよ」 そう言うとルークは、「頭、撫でるぞ」と一応断りを入れてから、『5番目』の頭を優しく撫で始める。 「……ルークは、優しいんですね」 「っや、優しくなんかねぇっ!事実を言っただけだっ!」 「否定しなくても良いんですよ。僕には見えるんです。ヒトの放つ光が。ルークの持つ光は、赤くてとても温かい」 「赤…」 ルークは何故か『赤』という言葉に驚いたようだった。 「お前、もしかして、ちょっと目が見えるのか?」 「…いいえ、全く。ただ、暗闇の中に、光だけが見えるんです。実験で視力を失う前は、見えなかったのですが…」 ……実験、か。ルークは黙って、また『5番目』の頭をくしゃくしゃ撫でた。 それから暫くの間、ボク達は無言で歩き続けた。 火口近くの洞窟の中は、歩くだけでも体力を奪われる。殆ど魔物に遭遇しないのは、不幸中の幸い。途中、熱気に当てられて体力を消耗したボク達に、ルークは体力回復のグミを分けた。 歩くようになってからは、『5番目』を背負ったボクが先頭を進み、『3番目』にはボクの服の裾を掴んで離れないように言った。ルークは殿にいて、魔物を警戒している。 「あの、シンク…」 そう呼ばれて、ボクは一つ息を吐いた。 「あのさ、『5番目』まで、ボクをシンクと呼ばないでよ」 「え?シンクと呼ばれるのは嫌でしたか?」 「訂正するのが面倒だから、ルークは放置してるだけだよ。それより、ボクに何か言いたかったんじゃないの?」 「歩く速度を落として下さい」 声をひそめて『5番目』が言い、ボクは眉を寄せる。 「どうしたの?」 「ルークの足音の間隔が、不規則になりました」 驚いてボクが振り返った瞬間、 ルークがその場に崩れて、地面に膝をついた。 「るーくっ!だいじょうぶっ!?」 驚いた『3番目』が駆け寄り、ルークは顔を上げる。 「…ははは、悪ぃ。ちょっとふらついちまった」 ボクは一つ息を吐く。…強がってるのがバレバレだって。 「…あの、シンク、僕を下ろして下さい。フローリアンに手を引いてもらえれば一人でも歩けます。シンクには、ルークをお願いできますか」 「…ま、こうなってしまったら、それが良いだろうね。残り時間を考えたら、立ち止まってられないし」 リグレットの言ってた撤収作業の猶予は、5時間。 その時間が過ぎれば、確実に追手がかかる。 それまでに、身を隠す場所のない火山内部から、脱出しなければ。 「ねぇ、『3番目』、こいつの手を引いてやって」 「う、うん…」 「申し訳ありません。お願いしますね、フローリアン」 ボクは『5番目』を『3番目』に押し付けると、ルークの前にしゃがんで、視線を合わせる。 尤も、フードのせいで、目なんて見えないんだけど。 「ここからは、ボクがアンタを背負ってくからね」 「っな!…んなハズかしいことさせられるかっっ!」 「病人が、そんなこと言ってる場合?」 「もう治まってきたし、大丈夫だっ!」 「あのさぁ…」 ボクが言いかけた時、 「シンク!気を付けて!足音が近付いてきます!」 背後から『5番目』が叫んだ。 一瞬、ボクは何の事なのか、理解できなかった。 驚くボクを余所に、ルークが瞬時に反応して立ち上がると、剣を抜く。 ルークの背中の向こうに現れたのは、オラクル騎士達だった。 「見つけたぞ!脱走したレプリカどもだっ!」 「リグレット様に知られる前に処分するぞ!」 「あいつかっ!?研究所を襲ったヤツは!!」 「全員、殺せっ!!!」 次々に言葉が飛んでくる。 ルークが剣を構え、 「シンク、みんなを連れて走れ!出口はもうすぐだ!」 視線を向けずに叫んだ。 ボクは『3番目』たちの方に視線をずらし、一瞬で考えを巡らす。 『3番目』はオラクル騎士に恐怖し、腰を抜かしていた。 それを『5番目』が支えて立たせようとしている。 向かってきているオラクル騎士は、5人。 体調の悪いルークをおいていくのは心配だ。けれど、それはボクの勝手な心情。 冷静に状況を判断すれば、ボク達の安全確保が第一だ。 ルークの足手まといになるのは最悪。 「…くそっ!」 ボクはルークに背を向け、走り出した。 「レプリカどもを逃がすなっ!!」 「…させるかよっ!!岩斬滅砕陣っっ!!」 走りながら視線を少し後ろに向けて確認すると、 大地が抉られ、砕け散った石礫に騎士どもが怯んでいる。 ルークはその隙を逃さなかった。 「魔王地顎陣っっ!!!」 巻き起こった紅蓮の炎。 けれど、その炎は、一人の騎士も焼いてはいない。 攻撃が、外れた…!? 炎の前に立つルークが、肩で息をしている。 たった二度の攻撃で。いや、劣化による痛みのせいで。 「この野郎!驚かせやがってっ!」 騎士の一人がルークに斬りかかった。 ルークになら避けられる攻撃だと思った。でも、ルークは避けず、真正面から剣を受ける。 避けなかったんじゃない。避けられなかったんだ。 「烈破掌っっ!!」 ルークが掌底を撃ち込むと、騎士が吹き飛んだ。 「次、来いよっ!!」 その挑発を受けて、騎士達の視線が一気にルークに集まる。 ルークはボク達を逃がそうとしてくれている。 早くここを離れないと…! 剣と剣がぶつかり合う音を聞きながら、ボクは二人に駆け寄った。 恐怖で動けない『3番目』の手を引っ張る。 「早く立って、『3番目』っ!走るよっ!!」 「…あ、うぁ、ああ……」 ボクの反対側から、『5番目』が『3番目』の手を引く。 「さぁ、行きますよっ!このままここにいては、ルークに迷惑がかかります!!走りましょう!!」 ボク達が走り出そうとした時、 「……っぐ、…っ!!」 ルークの呻き声が聞こえてきた。 騎士の剣を弾き返した後、ルークは片手で頭を押さえる。 そのルークの隙をついて、一人の騎士が、ボク達を追おうと走り出した。 「…くそっ!行かせるかっ!!」 ルークがその騎士を追いかけようとした瞬間、 別の騎士の手が、ルークのマントの端に届く。 マントが剥がされ、赤い焔のような髪が、風に舞った。 「赤い髪だと…!?キムラスカ王族の…!?」 一人の騎士が驚きで声を上げる。 ボクは、向かってきた騎士の方へと駆け出し、 「双撞掌底破っ!!」 ありったけの力で、掌底を騎士に叩き込んだ。 騎士が吹き飛ばされる。 確認するまでもない。騎士の意識も吹き飛んだ筈だ。 「ルークッ!!」 その『5番目』の声を聞いて、ボクは声がした方向に顔を向ける。 「………っっ!!!」 信じられない光景が、目の前に広がった。 ※※※続きます※※※ PR