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AL逆行itsbetween1and0/23



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第23話・シンク編03「けれど、それはボクの勝手な心情」です。





it's between 1 and 0 第23話

※※※

「フィアブロンクが、なんで寝てるんだ?」

山頂の出口へ向かう途中、ボクが巨大な魔物に驚いて言葉を失っていると、
後ろから、ルークが奇妙な声を上げた。

「フィアブロンクって?コイツ一体何なの?」

炎を纏う魔物なんて、ボクの知識の中にはない。

「火山の中に住み着いてる魔物でさ、けっこー強い。今は戦うの勘弁して欲しかったからさぁ、1本だけホーリィボトル持ってきたんだけど…」

ホーリィボトル…、あぁ、対魔物用の忌避剤か。
て言うか、忌避剤が効くような魔物なの、こいつ?

「ま、寝てるなら、ラッキーだよな。さっさと行こうぜ」

フィアブロンクの横を通り過ぎ、見えなくなる所まで来た所で、
ルークがマントの下から、道具袋を取り出した。

「シンク、ホーリィボトルが残っちまったけど、今、使うか?山頂の出口まで、まだ距離あるしさ」

なんで、ボクに聞くのさ。ま、別にいいけど。

「今使うのは得策じゃないと、ボクは思うけどね。確かに、火口近くの戦闘は体力的にキツいけど、出口に着いても、今度は下山しなきゃなんでしょ?1本しかないなら、それは非常用にとっておきなよ」

「そっか。うん、そうしとく。じゃあ、グミ食べるか?」

…ふーん、準備いいんだ。

ルークに道具袋の中身を聞くと、最低限の物しか持って来れなかったという割りに、役に立ちそうなものばかりで驚いた。さすがに一人で乗り込んできただけはあると思いながら、感心を通り越して、ちょっと呆れる。

「…それにしても、フィアブロンクも寝る事あるのかー」

「魔物だって寝たい時くらいあるでしょ」

「洞窟の中も『前』より魔物が少ないし、変な感じだ…。まぁ、ラッキーだったけど…」

「…ふーん、ラッキーねぇ……」

その時、

「ねぇ、ねぇ、るーく!これから、そとにいくのっ?」

『3番目』が楽しみを待ちきれないと言うように、ルークの手を振り回しながら聞いた。

「あぁ、そうだぞ」

「ぼくねぇ、そとにでるの、はじめてー!」

「え…?」

ルークは驚いたようだった。けれど、すぐに『3番目』の頭をくしゃくしゃ撫で始める。

「楽しみにしてろよ。外に出たら、山頂から海が見えるぜ」

「うみ?うみって、みずがいっぱいあるところ?」

「いっぱいなんてモンじゃねぇーよ!すっっっげぇいっぱいだ!青くて、広くて、お前、すっげぇビックリするって!」

……ルーク、ボキャブラリーなさすぎ。

「びっくり!?ほんとぉ!?」

「ほんと、ほんと!」

……おい、ルーク、『3番目』と話が合うなんて、アンタは一体何才児だ…。

「あいつら、精神年齢同じなんじゃない?」

ボクが呆れて呟くと、くすくす笑う声が聞こえてくる。

「楽しそうで良いじゃないですか。僕も海が楽しみです」

「けど、アンタ、目が見えないだろ?どんなに楽しみにしたって、海は見えないじゃないか」

「…えぇ、それは、そうですけど……」

「海は見えなくても、潮風は感じるぞ!」

そのルークの声が聞こえてきて、ボク達は振り返る。

「潮風というのは、海から吹く風ですよね?」

『5番目』が聞き返すと、ルークは「あぁ」と頷いた。

「今、めちゃくちゃ暑いだろ?だから余計にさ、潮風は、めちゃくちゃ涼しくて気持ちいいと思う。山に入れば緑の匂いがするし、虫の鳴く声もする。だからさ、外に出るの、楽しみにしてろよ」

そう言うとルークは、「頭、撫でるぞ」と一応断りを入れてから、『5番目』の頭を優しく撫で始める。

「……ルークは、優しいんですね」

「っや、優しくなんかねぇっ!事実を言っただけだっ!」

「否定しなくても良いんですよ。僕には見えるんです。ヒトの放つ光が。ルークの持つ光は、赤くてとても温かい」

「赤…」

ルークは何故か『赤』という言葉に驚いたようだった。

「お前、もしかして、ちょっと目が見えるのか?」

「…いいえ、全く。ただ、暗闇の中に、光だけが見えるんです。実験で視力を失う前は、見えなかったのですが…」

……実験、か。ルークは黙って、また『5番目』の頭をくしゃくしゃ撫でた。


それから暫くの間、ボク達は無言で歩き続けた。


火口近くの洞窟の中は、歩くだけでも体力を奪われる。殆ど魔物に遭遇しないのは、不幸中の幸い。途中、熱気に当てられて体力を消耗したボク達に、ルークは体力回復のグミを分けた。

歩くようになってからは、『5番目』を背負ったボクが先頭を進み、『3番目』にはボクの服の裾を掴んで離れないように言った。ルークは殿にいて、魔物を警戒している。

「あの、シンク…」

そう呼ばれて、ボクは一つ息を吐いた。

「あのさ、『5番目』まで、ボクをシンクと呼ばないでよ」

「え?シンクと呼ばれるのは嫌でしたか?」

「訂正するのが面倒だから、ルークは放置してるだけだよ。それより、ボクに何か言いたかったんじゃないの?」

「歩く速度を落として下さい」

声をひそめて『5番目』が言い、ボクは眉を寄せる。

「どうしたの?」

「ルークの足音の間隔が、不規則になりました」

驚いてボクが振り返った瞬間、

ルークがその場に崩れて、地面に膝をついた。

「るーくっ!だいじょうぶっ!?」

驚いた『3番目』が駆け寄り、ルークは顔を上げる。

「…ははは、悪ぃ。ちょっとふらついちまった」

ボクは一つ息を吐く。…強がってるのがバレバレだって。

「…あの、シンク、僕を下ろして下さい。フローリアンに手を引いてもらえれば一人でも歩けます。シンクには、ルークをお願いできますか」

「…ま、こうなってしまったら、それが良いだろうね。残り時間を考えたら、立ち止まってられないし」

リグレットの言ってた撤収作業の猶予は、5時間。
その時間が過ぎれば、確実に追手がかかる。
それまでに、身を隠す場所のない火山内部から、脱出しなければ。

「ねぇ、『3番目』、こいつの手を引いてやって」

「う、うん…」

「申し訳ありません。お願いしますね、フローリアン」

ボクは『5番目』を『3番目』に押し付けると、ルークの前にしゃがんで、視線を合わせる。
尤も、フードのせいで、目なんて見えないんだけど。

「ここからは、ボクがアンタを背負ってくからね」

「っな!…んなハズかしいことさせられるかっっ!」

「病人が、そんなこと言ってる場合?」

「もう治まってきたし、大丈夫だっ!」

「あのさぁ…」

ボクが言いかけた時、

「シンク!気を付けて!足音が近付いてきます!」

背後から『5番目』が叫んだ。

一瞬、ボクは何の事なのか、理解できなかった。
驚くボクを余所に、ルークが瞬時に反応して立ち上がると、剣を抜く。


ルークの背中の向こうに現れたのは、オラクル騎士達だった。


「見つけたぞ!脱走したレプリカどもだっ!」

「リグレット様に知られる前に処分するぞ!」

「あいつかっ!?研究所を襲ったヤツは!!」

「全員、殺せっ!!!」

次々に言葉が飛んでくる。


ルークが剣を構え、

「シンク、みんなを連れて走れ!出口はもうすぐだ!」

視線を向けずに叫んだ。

ボクは『3番目』たちの方に視線をずらし、一瞬で考えを巡らす。

『3番目』はオラクル騎士に恐怖し、腰を抜かしていた。
それを『5番目』が支えて立たせようとしている。
向かってきているオラクル騎士は、5人。
体調の悪いルークをおいていくのは心配だ。けれど、それはボクの勝手な心情。
冷静に状況を判断すれば、ボク達の安全確保が第一だ。

ルークの足手まといになるのは最悪。

「…くそっ!」

ボクはルークに背を向け、走り出した。

「レプリカどもを逃がすなっ!!」

「…させるかよっ!!岩斬滅砕陣っっ!!」

走りながら視線を少し後ろに向けて確認すると、
大地が抉られ、砕け散った石礫に騎士どもが怯んでいる。

ルークはその隙を逃さなかった。

「魔王地顎陣っっ!!!」

巻き起こった紅蓮の炎。

けれど、その炎は、一人の騎士も焼いてはいない。


攻撃が、外れた…!?


炎の前に立つルークが、肩で息をしている。
たった二度の攻撃で。いや、劣化による痛みのせいで。

「この野郎!驚かせやがってっ!」

騎士の一人がルークに斬りかかった。

ルークになら避けられる攻撃だと思った。でも、ルークは避けず、真正面から剣を受ける。
避けなかったんじゃない。避けられなかったんだ。

「烈破掌っっ!!」

ルークが掌底を撃ち込むと、騎士が吹き飛んだ。

「次、来いよっ!!」

その挑発を受けて、騎士達の視線が一気にルークに集まる。

ルークはボク達を逃がそうとしてくれている。
早くここを離れないと…!

剣と剣がぶつかり合う音を聞きながら、ボクは二人に駆け寄った。
恐怖で動けない『3番目』の手を引っ張る。

「早く立って、『3番目』っ!走るよっ!!」

「…あ、うぁ、ああ……」

ボクの反対側から、『5番目』が『3番目』の手を引く。

「さぁ、行きますよっ!このままここにいては、ルークに迷惑がかかります!!走りましょう!!」

ボク達が走り出そうとした時、

「……っぐ、…っ!!」

ルークの呻き声が聞こえてきた。
騎士の剣を弾き返した後、ルークは片手で頭を押さえる。

そのルークの隙をついて、一人の騎士が、ボク達を追おうと走り出した。

「…くそっ!行かせるかっ!!」

ルークがその騎士を追いかけようとした瞬間、

別の騎士の手が、ルークのマントの端に届く。


マントが剥がされ、赤い焔のような髪が、風に舞った。


「赤い髪だと…!?キムラスカ王族の…!?」

一人の騎士が驚きで声を上げる。

ボクは、向かってきた騎士の方へと駆け出し、

「双撞掌底破っ!!」

ありったけの力で、掌底を騎士に叩き込んだ。
騎士が吹き飛ばされる。
確認するまでもない。騎士の意識も吹き飛んだ筈だ。


「ルークッ!!」


その『5番目』の声を聞いて、ボクは声がした方向に顔を向ける。


「………っっ!!!」


信じられない光景が、目の前に広がった。





※※※続きます※※※



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