AL逆行itsbetween1and0/22 AL長編/it's between 1and0 2012年08月11日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第22話・シンク編02「ヒトの話を聞かないタイプか」です。 it's between 1 and 0 第22話 ※※※ 研究所の撤収作業が進む中、いきなり乱入してきたマントは、やたらと強かった。 マントのフードを被っているせいで、顔は見えない。けど、小柄だし、声も高いし…。 ……子供か? マントのヤツは、オラクル騎士達や科学者達を、次々と昏倒させていく。でも、血は流れない。ちゃんと観察してみると、刃を潰した剣で、急所を上手く外しながら、確実に昏倒させていってるのが分かった。 「…これで全部、かな?」 そう呟いたマントは、息は上がってたみたいだけど、傷一つない。 続けて、気絶したヤツらをロープで縛り、一ヶ所に集めていく。 あんなに器用な戦い方が出来るのに、ロープの結び目は滅茶苦茶だ。手際が良いのか悪いのか…。 ボクが呆れながら観察していると、急に、マントが振り返った。 目が合った気が、した。 「遅くなって悪ぃ!みんな、怪我はないよな!?」 マントはボクたちの檻に駆け寄ろうとしたけど、 「っああ!そっか!檻って鍵がかかってるよな?!うわぁ、どうしよう、鍵ってどこにあるんだろ…?」 本気で困り始めたらしく、きょろきょろし始める。 何なんだ、こいつ…? 「おい、マント」 ボクが声をかけると、マントは驚いてボクを見る。 「…マントって、もしかして俺?」 「そう、アンタ。鍵はメガネかけた白衣のヤツが持ってる。いつもベルトにつけてたハズだから、探してくれる?」 マントが反応しない。 ホント、一体何なんだよ、こいつ…! 「アンタ、今の話、ちゃんと聞いてた?」 「分かったー!お前、シンクだろっ!!」 誰だ、シンクって。 「そうだろ?!その喋り方!生意気そうな感じ!!お前、絶対、シンクだよな!?」 こいつ、ボクを誰かと勘違いしてるのか? ……『イオン』と間違われるのなら理解できるけど…。 「よく分かんないけど、ボク達を助ける気があるなら、さっさと鍵を見つけてきてくれる?リグレットが怪しむ前に、ここを脱出しないと」 「リグレット!そうだった!さっき会ったんだ!」 マントは慌てて、科学者たちの中から鍵を探し出した。 すぐにボクの檻の前に来て、鍵を開ける。ボクが続けて指示すると、マントはボクの枷も外した。 フードを目深に被っているせいで、口許以外は見えない。 でも、間違いなく、子供だ。 「アンタ、一体何者なんだ?」 「お前達を助けに来たんだ。一緒に逃げよう」 そんな事を言いながら、『3番目』の檻を開け、続けて、『5番目』の檻も開ける。 あの耳障りな『5番目』が檻から出て来た。初めて見る『5番目』は、やっぱり、ボクと同じ姿。 「…あ、あの、助けて下さって、ありがとうございます」 マントは『5番目』の言葉に僅かに驚いたようだけど、すぐに、口許が嬉しそうに綻んだ。 「た、大した事じゃねぇーよ。…でも、そっか、お前は、初めまして、だよな。…へへへ、よろしく」 初めまして?初対面って事?ボクもアンタとは初対面なんだけどね。 「あれ?お前、もしかして、目が…?」 マントが『5番目』の顔を覗き込んで首を傾げた。 目?何の事だ? 「…はい、申し訳ありません。僕は目が見えません」 ……何だって? 「…そっか。謝んなくて良いよ。悪ぃこと聞いたな」 「いいえ。…あの、今から逃げるのでしょう?僕は目が見えないので、足手まといになると思います。ですから、」 「分かった。俺が背負って行くから安心してろ」 ……このマント、ヒトの話を聞かないタイプか。 今『5番目』は『置いていってくれ』って言おうとしてた。それを分かってて、遮ったのか? マントは『5番目』の手を取って、自分の肩に導くと、その場にしゃがんだ。 「ほら、早く乗ってくれよ」 「え?あ、あの…」 目が見えてない『5番目』は、どうして良いのか分からないようだった。 ……全く、世話が焼けるったらありゃしない。 「あぁ、もう、仕方ないなぁ。ほら、早くしてよね」 ボクが『5番目』の背を押すと、マントは背負って立ち上がる。 「ありがとな、シンク」 「だから、シンクって誰?」 「へっ?」 マントは本気で驚いたようだった。ようやく自分の勘違いに気付いたみたいだな。 「…もしかして、まだ名前が…」とか呟いた後、マントはにっこりとボクに微笑みかける。 「お前、シンクな!今、俺が命名したから!決定!」 ……はぁ?! 「ちょ、ちょっと、アンタ、何言って…!」 命名って…!ボクはずっと『6番目』で…!レプリカのボクに名前なんて…! 「さぁ、さっさと逃げようぜ。シンクは、フローリアンの手を引いてやれよ」 フローリアンって言うのは『3番目』の事か? 一体何なんだ、こいつは…!! ボクが何かを言う前に、マントのヤツは、さっさと走り出してしまった。 状況が分かってない『3番目』は、目を瞬かせながら、ボクを見ている。 「あぁ、もうっ!後でちゃんと説明してよね!!」 ボクは『3番目』の手を引いて、マントを追いかけた。 研究所から出て、ボクは驚いた。 赤い溶岩が、眼下に見える。この研究所が、火山の中にあるとは知らなかった。 途中、オラクル騎士が倒れている姿を見つける。意識を失ってるだけで、死んでないようだ。 「ここは、ザレッホ火山の内部なんだ。ダアトの教会奥にある移動譜陣から来たんだけど、今は、そっちを使う訳にはいかないから、火山の山頂の出口に向かってる。魔物もいるし、山を下りなきゃいけないんだけど、頑張ってくれよな。俺、全力でお前ら守るから」 前を走りながら、マントは説明する。 走り方に迷いがない所を見ると、道に詳しいみたいだ。 「アンタさぁ、ホントに一体何者なワケ?なんで、ボク達を助けたのさ?」 「なんで…って、助けたいって、思って…」 「……それだけ?」 「っあ、あぁ、そーだよ、悪いか!」 ……開き直られた。 「…分かったよ。ボクだって、死にたいワケじゃない。アンタに従う事にするよ。で?アンタの名前は?」 「ルークだ。それと、俺に従う必要ないから」 『ルーク』? 変だな…。どこかで聞いた事があるような…。 「あっ。俺、今はルークじゃないかも」 「はぁ?」 「ルークは俺の被験者の名前なんだけどさ、あいつは今、アッシュって名乗ってるんだ。もういらないって言うから、『前』に貰ったんだけど、今はアッシュって事で教会に潜入してるから、アッシュって事になるのかな…?」 何言ってんだ、こいつ? 意味が分からない。けれど、被験者って…。 ボクが疑問に思ってると、 「あの、ルーク殿は、もしかして、レプリカなのですか?」 先に『5番目』が聞き難そうに聞いた。 「はは、呼び捨てで良いよ。そう、俺、レプリカなんだ」 そんな朗らかに言うような事じゃないだろ。 「俺の被験者のアッシュってヤツから、お前らのこと聞いてさ、それで、助けに来たんだ」 「アンタの被験者はどうしたんだよ?」 「俺の代わりに、バチカルに置いてきたんだ。アッシュの代わりの俺の代わりになってくれてる。ややこしいだろー?」 ははは、とルークが笑う。ワケが分からないヤツだ。 …いや、ちょっと待てよ。 『ルーク』?『レプリカ』?『バチカル』…? まさか。あの科学者が調べてた『劣化品のくせに貴重な代用品』? 「うげっ!魔物に見つかったっ!シンク、ちょっと頼む!」 ルークは慌てて『5番目』を背から下ろすと、ボクの手を取って、『5番目』の手を握らせる。 「ちょっと待っててくれよ」 ルークはすぐさま刃を潰した剣を抜いて、魔物に向かっていった。 右手には、いつのまにか譜陣が展開している。 相手は、ラーヴァゴレムって名前の大型の魔物。腕の立つオラクル騎士でも戦闘は避けたい強敵。 けど、 「アイシクルレイン!!」 ルークは譜術で氷の刃を降らせると、その間を縫って間合いを詰め、 「空破絶風撃っ!」 風を纏った一撃を与え、トドメにした。 …なんて言うか、歴戦の勇士って言いたいくらい、戦い方に隙がない。 しかも、被ってるフードが取れないように押さえる余裕もあるし。 「るーく、すごいねー!!」 ボクの隣で『3番目』が瞳をキラキラさせてはしゃぐ。 こいつがボクと同じ被験者から造られたなんて、……信じたくない。 「どうしたの、るーく?」 不思議そうに首を傾げた『3番目』を見て、ボクはルークの方に視線を向ける。 ルークはボク達の方に背を向けて、マントのフード…いや、頭を押さえていた。 「何でもねぇよ。さ、早く行こうぜ」 ボクは思い出す。 確か『劣化品のくせに貴重な代用品』は、『頭部に痛みを訴えていて』 そして、『近年になって、余計に酷くなっていってる』。 「もしかしてさぁ、アンタ、どっか悪いんじゃないの?」 ボクが聞くと、ルークがびくりと肩を震わせた。 …はー、やれやれ。ホント、世話が焼けるよ。 「ボクが『5番目』を背負ってく。体力には自信あるしね。アンタは、この『3番目』の手を引いてあげてくれる?ボクも少しは譜術を使えるし、戦闘時は後衛で援護するよ」 「え、でも、」 「でも、は受け付けない。役割分担、分かった?」 「う、うん……」 「じゃあ、行くよ。道はこっちで良いの?」 「あ、あぁ…」 ボクが『5番目』を背負って先に走り出すと、すぐ後ろから、ルークと『3番目』がついてくる。 「やっぱ、シンクはすげぇな…」 …なんてルークの呟きが聞こえてきたけど、無視。 ※※※続きます※※※ PR