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AL逆行itsbetween1and0/22




アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第22話・シンク編02「ヒトの話を聞かないタイプか」です。





it's between 1 and 0 第22話

※※※



研究所の撤収作業が進む中、いきなり乱入してきたマントは、やたらと強かった。

マントのフードを被っているせいで、顔は見えない。けど、小柄だし、声も高いし…。

……子供か?

マントのヤツは、オラクル騎士達や科学者達を、次々と昏倒させていく。でも、血は流れない。ちゃんと観察してみると、刃を潰した剣で、急所を上手く外しながら、確実に昏倒させていってるのが分かった。

「…これで全部、かな?」

そう呟いたマントは、息は上がってたみたいだけど、傷一つない。

続けて、気絶したヤツらをロープで縛り、一ヶ所に集めていく。
あんなに器用な戦い方が出来るのに、ロープの結び目は滅茶苦茶だ。手際が良いのか悪いのか…。

ボクが呆れながら観察していると、急に、マントが振り返った。


目が合った気が、した。


「遅くなって悪ぃ!みんな、怪我はないよな!?」

マントはボクたちの檻に駆け寄ろうとしたけど、

「っああ!そっか!檻って鍵がかかってるよな?!うわぁ、どうしよう、鍵ってどこにあるんだろ…?」

本気で困り始めたらしく、きょろきょろし始める。

何なんだ、こいつ…?

「おい、マント」

ボクが声をかけると、マントは驚いてボクを見る。

「…マントって、もしかして俺?」

「そう、アンタ。鍵はメガネかけた白衣のヤツが持ってる。いつもベルトにつけてたハズだから、探してくれる?」

マントが反応しない。

ホント、一体何なんだよ、こいつ…!

「アンタ、今の話、ちゃんと聞いてた?」

「分かったー!お前、シンクだろっ!!」

誰だ、シンクって。

「そうだろ?!その喋り方!生意気そうな感じ!!お前、絶対、シンクだよな!?」

こいつ、ボクを誰かと勘違いしてるのか?
……『イオン』と間違われるのなら理解できるけど…。

「よく分かんないけど、ボク達を助ける気があるなら、さっさと鍵を見つけてきてくれる?リグレットが怪しむ前に、ここを脱出しないと」

「リグレット!そうだった!さっき会ったんだ!」

マントは慌てて、科学者たちの中から鍵を探し出した。
すぐにボクの檻の前に来て、鍵を開ける。ボクが続けて指示すると、マントはボクの枷も外した。

フードを目深に被っているせいで、口許以外は見えない。
でも、間違いなく、子供だ。

「アンタ、一体何者なんだ?」

「お前達を助けに来たんだ。一緒に逃げよう」

そんな事を言いながら、『3番目』の檻を開け、続けて、『5番目』の檻も開ける。

あの耳障りな『5番目』が檻から出て来た。初めて見る『5番目』は、やっぱり、ボクと同じ姿。

「…あ、あの、助けて下さって、ありがとうございます」

マントは『5番目』の言葉に僅かに驚いたようだけど、すぐに、口許が嬉しそうに綻んだ。

「た、大した事じゃねぇーよ。…でも、そっか、お前は、初めまして、だよな。…へへへ、よろしく」

初めまして?初対面って事?ボクもアンタとは初対面なんだけどね。

「あれ?お前、もしかして、目が…?」

マントが『5番目』の顔を覗き込んで首を傾げた。

目?何の事だ?

「…はい、申し訳ありません。僕は目が見えません」


……何だって?


「…そっか。謝んなくて良いよ。悪ぃこと聞いたな」

「いいえ。…あの、今から逃げるのでしょう?僕は目が見えないので、足手まといになると思います。ですから、」

「分かった。俺が背負って行くから安心してろ」

……このマント、ヒトの話を聞かないタイプか。
今『5番目』は『置いていってくれ』って言おうとしてた。それを分かってて、遮ったのか?

マントは『5番目』の手を取って、自分の肩に導くと、その場にしゃがんだ。

「ほら、早く乗ってくれよ」

「え?あ、あの…」

目が見えてない『5番目』は、どうして良いのか分からないようだった。

……全く、世話が焼けるったらありゃしない。

「あぁ、もう、仕方ないなぁ。ほら、早くしてよね」

ボクが『5番目』の背を押すと、マントは背負って立ち上がる。

「ありがとな、シンク」

「だから、シンクって誰?」

「へっ?」

マントは本気で驚いたようだった。ようやく自分の勘違いに気付いたみたいだな。

「…もしかして、まだ名前が…」とか呟いた後、マントはにっこりとボクに微笑みかける。

「お前、シンクな!今、俺が命名したから!決定!」

……はぁ?!

「ちょ、ちょっと、アンタ、何言って…!」

命名って…!ボクはずっと『6番目』で…!レプリカのボクに名前なんて…!

「さぁ、さっさと逃げようぜ。シンクは、フローリアンの手を引いてやれよ」

フローリアンって言うのは『3番目』の事か?
一体何なんだ、こいつは…!!

ボクが何かを言う前に、マントのヤツは、さっさと走り出してしまった。

状況が分かってない『3番目』は、目を瞬かせながら、ボクを見ている。

「あぁ、もうっ!後でちゃんと説明してよね!!」

ボクは『3番目』の手を引いて、マントを追いかけた。


研究所から出て、ボクは驚いた。
赤い溶岩が、眼下に見える。この研究所が、火山の中にあるとは知らなかった。

途中、オラクル騎士が倒れている姿を見つける。意識を失ってるだけで、死んでないようだ。

「ここは、ザレッホ火山の内部なんだ。ダアトの教会奥にある移動譜陣から来たんだけど、今は、そっちを使う訳にはいかないから、火山の山頂の出口に向かってる。魔物もいるし、山を下りなきゃいけないんだけど、頑張ってくれよな。俺、全力でお前ら守るから」

前を走りながら、マントは説明する。
走り方に迷いがない所を見ると、道に詳しいみたいだ。

「アンタさぁ、ホントに一体何者なワケ?なんで、ボク達を助けたのさ?」

「なんで…って、助けたいって、思って…」

「……それだけ?」

「っあ、あぁ、そーだよ、悪いか!」

……開き直られた。

「…分かったよ。ボクだって、死にたいワケじゃない。アンタに従う事にするよ。で?アンタの名前は?」

「ルークだ。それと、俺に従う必要ないから」

『ルーク』?
変だな…。どこかで聞いた事があるような…。

「あっ。俺、今はルークじゃないかも」

「はぁ?」

「ルークは俺の被験者の名前なんだけどさ、あいつは今、アッシュって名乗ってるんだ。もういらないって言うから、『前』に貰ったんだけど、今はアッシュって事で教会に潜入してるから、アッシュって事になるのかな…?」

何言ってんだ、こいつ?
意味が分からない。けれど、被験者って…。

ボクが疑問に思ってると、

「あの、ルーク殿は、もしかして、レプリカなのですか?」

先に『5番目』が聞き難そうに聞いた。

「はは、呼び捨てで良いよ。そう、俺、レプリカなんだ」

そんな朗らかに言うような事じゃないだろ。

「俺の被験者のアッシュってヤツから、お前らのこと聞いてさ、それで、助けに来たんだ」

「アンタの被験者はどうしたんだよ?」

「俺の代わりに、バチカルに置いてきたんだ。アッシュの代わりの俺の代わりになってくれてる。ややこしいだろー?」

ははは、とルークが笑う。ワケが分からないヤツだ。

…いや、ちょっと待てよ。

『ルーク』?『レプリカ』?『バチカル』…?


まさか。あの科学者が調べてた『劣化品のくせに貴重な代用品』?


「うげっ!魔物に見つかったっ!シンク、ちょっと頼む!」

ルークは慌てて『5番目』を背から下ろすと、ボクの手を取って、『5番目』の手を握らせる。

「ちょっと待っててくれよ」

ルークはすぐさま刃を潰した剣を抜いて、魔物に向かっていった。
右手には、いつのまにか譜陣が展開している。

相手は、ラーヴァゴレムって名前の大型の魔物。腕の立つオラクル騎士でも戦闘は避けたい強敵。
けど、

「アイシクルレイン!!」

ルークは譜術で氷の刃を降らせると、その間を縫って間合いを詰め、

「空破絶風撃っ!」

風を纏った一撃を与え、トドメにした。

…なんて言うか、歴戦の勇士って言いたいくらい、戦い方に隙がない。
しかも、被ってるフードが取れないように押さえる余裕もあるし。

「るーく、すごいねー!!」

ボクの隣で『3番目』が瞳をキラキラさせてはしゃぐ。
こいつがボクと同じ被験者から造られたなんて、……信じたくない。

「どうしたの、るーく?」

不思議そうに首を傾げた『3番目』を見て、ボクはルークの方に視線を向ける。
ルークはボク達の方に背を向けて、マントのフード…いや、頭を押さえていた。

「何でもねぇよ。さ、早く行こうぜ」

ボクは思い出す。

確か『劣化品のくせに貴重な代用品』は、『頭部に痛みを訴えていて』
そして、『近年になって、余計に酷くなっていってる』。

「もしかしてさぁ、アンタ、どっか悪いんじゃないの?」

ボクが聞くと、ルークがびくりと肩を震わせた。

…はー、やれやれ。ホント、世話が焼けるよ。

「ボクが『5番目』を背負ってく。体力には自信あるしね。アンタは、この『3番目』の手を引いてあげてくれる?ボクも少しは譜術を使えるし、戦闘時は後衛で援護するよ」

「え、でも、」

「でも、は受け付けない。役割分担、分かった?」

「う、うん……」

「じゃあ、行くよ。道はこっちで良いの?」

「あ、あぁ…」

ボクが『5番目』を背負って先に走り出すと、すぐ後ろから、ルークと『3番目』がついてくる。

「やっぱ、シンクはすげぇな…」

…なんてルークの呟きが聞こえてきたけど、無視。




※※※続きます※※※




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