忍者ブログ

AL逆行itsbetween1and0/21




アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第21話・シンク編01「廃棄処分される日」です。


今回からシンク編です。





it's between 1 and 0 第21話

※※※



ボクは、このくだらない世界で、それ以上にくだらない自我なんてものに目覚めてしまった。


ボクは、導師イオンの代用品の候補の一つとして造られた、複製人間(レプリカ)というバカバカしい存在だ。ボクらを造った科学者達は、ボクの事を『6番目』と呼んだ。つまり、ボクは『6番目』の『ゴミ』という事だ。

ボクはくだらないと思いつつも、科学者達が無遠慮に喋る会話の内容を、いつも聞いていた。

導師イオンは12才で死ぬという預言を受け、その代用品を造る為、レプリカ作製を始めたらしい。

その指揮を執ったのは、大詠師モースと、グランツ謡将。
大詠師モースは、ローレライ教団最大保守派閥の筆頭。グランツ謡将は、神託の盾(オラクル)騎士団の首席総長。どうやら、導師イオンは、自分のレプリカ作製の為に、グランツ謡将に、首席総長の座を与えたらしい。

一度だけ、大詠師モースとグランツ謡将を見た事がある。
どっちが食わせ者か、一目で分かった。

ヴァン・グランツ。
あいつの目は、他の誰よりも、冷めていた。

世界なんてくだらないと思ってるボクと同じ目だと思った。


導師イオンのレプリカは、7体造られた。

『1番目』は、すぐに音素解離を起こして消滅したらしい。
レプリカ作製時の無理が祟った、と聞いた。導師イオンの代用品には、様々な条件を求められた。譜術の才能だけでなく、知能や知識も求めたらしい。だけど、レプリカは被験者の記憶を持たない。それを補う為、作製時に、知識などの刷り込みを行った。
で、失敗。
科学者達の話では『1番目』の作製は実験だったって話。どのくらい脳をいじっても大丈夫かどうか、まずは試してみたって言ってたっけ。それを笑いながら話すんだから、あいつら良い神経してるよ。

次の『2番目』は、ちょっと自信作だったらしい。でも、本物の導師イオンは、お気に召さなかった。
で、導師自ら譜術で吹き飛ばして、木っ端微塵に。
あーあー怖い怖い。

『3番目』は、今、ボクの目の前にある檻に入ってるバカ。
譜術強化の実験台として作製されたけど、結局、能力が劣化。知能は高いらしいけど、知識を刷り込まれなかったから、何も分かっちゃいない無知なガキだ。

『4番目』は、今までの失敗を踏まえて作製されたらしいけど、譜術能力の強化と知識の刷り込みを行って造られた結果、息をしてるだけの肉の塊になった。
で、暫く色んなデータを取られてたけど、科学者達が、火口に捨てると言いながら連れて行った。
ゴミはゴミらしく、焼却処分って訳だ。芸がないにも程があるね。

『5番目』については、あまり話したくない。ボクの隣の檻に入ってるって事以外は、認識したくない。

『6番目』がボク。
今までの失敗作と何一つ変わらない『ゴミ』だ。取り立てて説明する程の事は何もない。

最後は『7番目』…いや、アイツは『導師イオン』様か。
ちょっと前に、檻から出されて、連れて行かれた。
アイツは、ボクと同じ、自我が目覚めたクチだ。最初はそうだと分からなかったけど、『4番目』が火口に捨てられると聞いて、怯えていた。それからは大人しくなったけど、一度目覚めた自我は、なくなる訳じゃない。多分、怯えるとか悲しむとかを止めてしまっただけだろうね。


被験者イオンとレプリカイオンの入れ替えは、ダアト港にある別荘で行われるって言ってたっけ。

導師としての知識はあるけど、被験者としての記憶はないから、入れ代わった事がバレないように、被験者イオンの親衛隊だった導師守護役は、全員解任。前代未聞だって聞いた。ちょっとした騒ぎもあったらしい。
やっぱ、全員解任は、ちょっと強引だったんじゃない?
ま、ボクには関係ない事だけどさ。


『7番目』が選ばれたのに、ボクたちは生かされていて、まだ幾つかの実験が続けられていた。

作製後に劣化した能力を強化できるかとか、科学者達が話しているのを聞いて、ホントうんざりした。
『7番目』を生かす為に、ボクたちは生かされている訳だ。


そういえば、『7番目』が造られる少し前に、ちょっと面白い事を聞いた。

作製直後に認められなかった劣化が、時間の経過と共に、どの程度、人体に影響を及ぼすのか。
ある一人の科学者が、そんな事を熱心に調べていた時期があった。

知識の刷り込みを行わなかった『あるレプリカ』が、頭部に痛みを訴えていたらしいけど、それが近年になって、余計に酷くなっていってるらしい。貴重なレプリカらしくて、原因究明の為に、ボク達を使って幾つか実験もしていた。結局、原因は分からなかったみたいだけど。
その後、それを調べていた科学者は姿を消した。消える前日に、グランツ謡将に報告に行くとか言ってたっけ。ま、あの科学者がどうなったのか、興味ないけどさ。

でも『あるレプリカ』ってのには興味引かれたかな。
劣化品のくせに貴重な代用品だなんて、妙だったしね。

レプリカは、劣化が酷くて『代用品』になれなければ、ただの『ゴミ』。良くて『実験動物』だ。

あの科学者が言ってた『あるレプリカ』ってのは、一体誰の『代用品』になっているんだろう。
ローレライ教団の導師くらい重要人物なんだろうけど。


コンコン、と金属を叩く音がする。

「うるさいんだけど。いい加減、静かにしてくれない?」

ボクの隣の檻に入ってる『5番目』は、耳障りなヤツだ。
目の前の檻に入ってる『3番目』はバカで目障りだけど、『5番目』ほどイライラさせられない。
こいつは、ボクを話し相手だと思ってるフシがある。
ホントうんざりだ。『ゴミ』には、話し相手なんて必要ないってのに。

『5番目』が隣の檻に入ってるのは、不幸中の幸い。おかげで、耳障りなヤツの姿を見なくて済む。ま、姿なんて、どうせボクと同じなんだけど。

「今日の彼ら、ちょっと様子が変ですよね?」

こいつの言う『彼ら』というのは、科学者達の事だ。

「だから、どうしたって言うのさ。興味ないね」

興味はないけど、原因は知っている。
最近、科学者たちが話しているのを聞いたからだ。

この研究所に撤収命令が出るかもしれない。そんな事をひそひそと話していたっけ。
ボクには興味ない。この研究所を撤収するという事は、あの日が来るって事だ。


ボクら『ゴミ』が、廃棄処分される日。


一人の科学者が外から戻って来ると、科学者達が騒ぎ始めた。

「撤収命令が出た。データ回収後に移動する」

「そう。機材はどうするの?」

「ここに封印するんだよ。あっちにも同じモノがあるしね」

「あの『7番目』は?」

「アレは問題なく執務をこなしているらしいですよ」

「体力の劣化が心配されたが…」

「データはある。壊れたらまた造れば良い」

「残りのレプリカは?」

「閣下の命令で、廃棄処分だ」

「実験動物としては勿体ない気もするが…」

「実験にマウスじゃなくてバケモノを使いたいならご自由に」

「冗談はやめてちょうだい。あんなバケモノ、手に余るわ」


バケモノ、ね。確かに、能力が劣化してるとは言え、導師イオンのレプリカ。その辺の被験者様より、手に余るだろうさ。

研究所内が、一気に騒がしくなった。
科学者たちは自分の研究資料をまとめるだけで大忙しだ。


そこへ、一人の女がやってきた。

強い意志を宿した藍色の瞳。長い栗色の髪は、高い位置に結い上げている。その歩く姿を見れば、彼女の進路を妨げてはならないような迫力を感じる。神託の盾騎士団の首席総長付副官であり、第四師団の師団長、グランツ謡将の右腕と名高い、魔弾のリグレットだ。

「5時間以内に撤収作業を終了せよ。研究所を封印する」

リグレットは研究所を見回す。だけど、ボクとは目すら合わなかった。

「ここは任せる。撤収作業終了次第、報告せよ」

部下のオラクル騎士に言うと、リグレットは出ていった。他のオラクル騎士たちがやって来て、科学者たちを手伝いながら、荷物を運び出していく。

コンコン、とまた隣から音がする。

「僕たちはどうなると思いますか?」

「廃棄処分だろ。分かりきった事、聞かないでくれる?」

その分かりきった事をわざわざ言うボクも、どうかしてるのかもしれない。

「せめて、あなた達だけでも、生き残れないでしょうか?」

「何バカなこと言ってんの」

ボクは呆れて一つ息を吐く。

「あのさぁ、仮にボクがここを脱出する気があっても、ここを脱出して生き残るなんて、不可能だ。檻の中にいる上、譜術制御の手枷に、逃走防止の足枷。脱出する隙なんて1ミリもないんだよ」

「…今日は、たくさん喋ってくれるんですね」

はぁ!?
何言ってんの。こいつの頭、おかしいじゃない?

「アンタさぁ、ついに頭が壊れちゃったんじゃない?」

「…ふふふ、そうかもしれませんね。こんな時ですし」

「自分が廃棄処分されるってのに、笑う余裕あるんだ。ボクは、こんなくだらない世界になんて興味ないけど、アンタはいっつも言ってたじゃないか。外の世界がどんなものなのか、自分の目で見てみたいって」

「…えぇ、僕は、ずっと憧れていました。外の世界に」

なんで過去形なの?…あぁ、そっか、死ぬ覚悟ができたってヤツ?

「ボクには理解できないね」

「この世界に興味がないなんて、もったいないと思いますよ」

「はぁ?何言ってんの?」

「空とか海とか森とか、見てみたいとは思いませんか?」

「興味ないね。そもそも、既に知ってるし」

「それはただの知識でしょう。実際に見た訳ではありません」

……あぁ、ホント、イライラさせられる。

「もう黙っててよ。最後くらい、」

言いかけて、ボクは驚きで言葉を失った。


「…良かった、間に合った……!!」


喜びを滲ませた声が、聞こえてきたからだ。





※※※続きます※※※

PR