AL逆行itsbetween1and0/20 AL長編/it's between 1and0 2012年08月08日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第20話・六神将ルーク編02「もう少し早く来ていれば」です。 it's between 1 and 0 第20話 ※※※ 高級別荘地って言うだけあって、丘の上には、貴族の屋敷っぽい建物が並んでる。火山が近いからか、ダアト周辺ってじめじめ暑いけど、丘の上は、海からの潮風が涼しくて、気持ちいい。 「…おっと。アレか…」 青い屋根を持つ屋敷が見えてきた。銀色の鉄柵に囲まれた、大きな屋敷だ。 門の前に、オラクル騎士が二人。鉄柵の向こうは……、あれ?誰もいねぇじゃん。 屋敷の裏手に回って見ると、通用門があった。 門番どころか……誰もいねぇし。調べてみると、鍵がかかってるだけだ。 「どーなってんだ…?」 うちの屋敷なんか、どこでも白光騎士が巡回してるぞ? 導師イオンが帰ったから、警備がいらなくなったのか? でも、イオンレプリカを作製してる場所なんだろ? あからさまに騎士を配置してると、怪しまれるから、見える所には配置してない……とか? 譜術のトラップを仕掛けてるから心配ない…とか? それとも……、 全て、引き払ってしまった後だから…? 一瞬、背筋が凍った。 「早く確かめないと…!」 右手を前に突き出し、譜陣を展開させる。 特定の音素が人為的に集中させられている場所、つまり、譜術のトラップの有無を探る。 「……トラップはなさそうだけど…」 こんなに無防備なんて、大丈夫なのか…? 罠とか?イオンが入れ代わった後なのに今更だよな? …………。 考えるのは後だ!屋敷に入れば分かるだろ! ロープを取り出し、鉄柵の先に引っ掻ける。鉄柵を乗り越えるのは、簡単だった。 使用人が使う裏手の通用口を見つける。ノブを回してみると、案の定、鍵は開いていた。屋敷の中に入り、ヒトの気配を探りながら、奥へ進む。数人の使用人が働いているだけで、屋敷内には、他には誰もいないようだった。 だから、逆に焦り始めていた。 オラクル騎士が門を守ってたから、間違った屋敷に侵入したって事は絶対ない。 でも、何なんだここ…? ただの屋敷にしか見えない。 「本当に、全部引き上げちまったのかよ…!」 地下への階段を見つける。そこにも、オラクル騎士が見張ってるような事はない。 階段を駆け降りる。息が上がる。 「そんな…!嘘だろ…!全部終わってたなんて…!」 地下に到着して、愕然とした。 地下牢には、何も残ってなかった。ひっそりとしていて、全てが終わった事を明示していた。 俺はその場に座り込んで、呆然とする。 予想してなかった訳じゃない。最初から、もしかしたら、って思ってはいた。 でも、もしかしたら、間に合うかもしれないって、その希望だけは、捨てないでいた。 ……それなのに…! 「誰も助けられなかったなんて…!!!」 もう少し早く来ていれば…!もう少し早く俺が『前』の記憶を取り戻していれば…! 「…っくしょぉ……!」 床を殴り付ける。拳が痛んだ。 でも、火口に投げられて焼かれたレプリカ達は、もっと痛くて、もっと苦しかった筈だ…!! 一瞬、アッシュの顔が思い浮かんだ。 アッシュが助けてくれていたら、って思った。アッシュを責めたくなった。 でも、アッシュを責めるのは、違う気がした。 俺がレプリカを助けたいって言って反論した時、ほんの一瞬だけ、アッシュが苦しそうな顔をしたのを覚えてる。多分、アッシュは悩んで、苦しんで、そして、この結果を仕方なく選んだんだと思った。 でもレプリカ達を助けたいと思って、アッシュに無理を押し付けてまで、ここまで来たのに…! 「……っ…!」 ……頭が痛い…。多分、すぐ治まるヤツだ。 こんな最低な気分の時は、酷いヤツでも良かったのに。 …アッシュに連絡しよう。ちゃんと言わなきゃいけねぇよな…。 全部終わってた、って。何も出来なかった、って。迷惑かけてごめん、って。 ふと、アッシュの言葉を思い出す。 「…そうだ、フォミクリー装置……」 アッシュは、ここでレプリカを作製してるって言ってた。なら、フォミクリー装置がある筈だ。 フォミクリー装置は壊さなきゃ。もう二度とレプリカなんて造らせない為に。 「でも、フォミクリー装置は一体どこに…?」 フォミクリー装置がどんな物なのか、俺は知っている。 『前』は、コーラル城で見たのが最初だった。 ………こんな所に、装置があるのか…? 小さな疑問が、少しずつ大きくなっていく。 次には、今まで気にならなかった小さな矛盾さえ、大きな疑問に変わる。 「やっぱり変だ!調べなきゃ…!」 まずは、地下牢の並ぶ地下を調べなきゃいけない。床や壁を慎重に叩く。音が教えてくれる。壁や床の先に、隠し通路や部屋はない。よく見れば、地下牢の中の様子も変だ。何年も使われた事がないって感じだ。誰かが出入りしたような跡がまるでない。 屋敷の中に戻り、使用人に見つからないよう、部屋を調べていく。どの部屋も普通の部屋だ。 慎重に屋敷から出て、鉄柵を乗り越える。 屋敷から離れて、丘を下りる事にした。 疑問は、確信に変わっていた。 「アッシュの野郎、なんで俺に嘘をついた…!!」 アッシュは嘘をついた。 ここでレプリカ作製をしているなんて言わなければ、多分、俺は気付かなかった。 この屋敷には、巨大なフォミクリー装置が入る空間なんてない。 レプリカを作製した場所と、レプリカが囚われている場所は同じ。 それは嘘ではないと思う。 そうじゃなければ、アッシュはあんな風に口を滑らせる事はなかった筈だ。 じゃあ、本当にレプリカ達がいる場所はどこなんだ…? 「ザレッホ火山…?」 思わず出た自分の言葉に、自分で驚く。 なんで、そう思った…? 『ザレッホ火山の火口に、生きながら投げ入れられた』 「…そうか、そういう事か……!」 レプリカが造られた場所、囚われていた場所、そして、捨てられた場所は、同じなんだ…! 「ザレッホ火山に行かなきゃ…」 ザレッホ火山の内部に通じる道は2つ。山頂にある入り口と、教会奥にある移動譜陣。 ……大丈夫。行き方は覚えてる。 走ってダアト港の拠点に戻り、教団服に着替えた。後で着替えられるように、さっきまで着ていた服も詰め込む。すぐに拠点を出て、また走った。 もしかしたら、全て終わってしまっているかもしれない。 こんなに急いでも、もう間に合わないかもしれない。 でも、あと少し早く来ていれば…なんて後悔は、もうしたくない。 第四石碑の丘を越えて、ダアトの町へ入り、教会の前へ到着する。 太陽が真上にある。もう昼だ。 「……くそ…っ」 ……頭が痛ぇ…。気を付けて歩いても、真っ直ぐ進むのはキツい…。 でも、これは多分、ちょっとすれば治まる頭痛だ。 教会の大扉の前に進むと、オラクル騎士が敬礼する。 「アッシュ副師団長殿、ご苦労様です」 「…任務、ご苦労」 手短に言って通り過ぎ、教会内に入った。 その時、 「アッシュ、ケセドニアから戻ったのか?」 聞き覚えのある声を耳にして、驚いて振り返る。 ……リグレット…! 「報告は受けていないが、今、戻ったばかりか?」 神託の盾騎士団の首席総長の補佐官、リグレット。ヴァン師匠の腹心の部下。 くそ。急いでる時に、なんでこんな…。 …うー……、ただでさえ頭が痛ぇのに、早く行きたいっつーのに、本気でイライラする…! 「今、急いでいる。報告なら後で行く」 「…全く。いくら特務師団の任務があるとは言え、お前に、そうそう勝手な行動を取られては困る」 「じゃあ、ヴァンのヤツにそう報告しておけば良い」 勢いで師匠の事を呼び捨てにしちまったけど、アッシュっぽいから良いよな。うん。 …つーか、もう、ほんとに行かせてくれっつーの。 「用がなければ行くぞ」 「アッシュ!待て!」 無視だ、無視。リグレットなんざ無視だ。 「…いつも勝手な事を…!報告義務だけは怠るなよ!」 ……良かった。諦めてくれた。 あとはリグレットに悟られないように、気を付けて真っ直ぐ歩かないと。 教会の床に描かれてる模様のおかげで、真っ直ぐ歩けてるっぽい。あー…すっげぇ助かる…。 そのまま教会内部へと進む。目指すは、教会奥にある移動譜陣だ。 ザレッホ火山内部のどこに囚われているのかは分からない。 でも、自分の力で見つけるしかない。俺一人で、やるしかない。 手遅れでないと良い。イオンレプリカ達をちゃんと助けたいんだ。 ※※※続きます※※※ PR