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AL逆行itsbetween1and0/20





アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第20話・六神将ルーク編02「もう少し早く来ていれば」です。





it's between 1 and 0 第20話

※※※





高級別荘地って言うだけあって、丘の上には、貴族の屋敷っぽい建物が並んでる。火山が近いからか、ダアト周辺ってじめじめ暑いけど、丘の上は、海からの潮風が涼しくて、気持ちいい。

「…おっと。アレか…」

青い屋根を持つ屋敷が見えてきた。銀色の鉄柵に囲まれた、大きな屋敷だ。

門の前に、オラクル騎士が二人。鉄柵の向こうは……、あれ?誰もいねぇじゃん。

屋敷の裏手に回って見ると、通用門があった。

門番どころか……誰もいねぇし。調べてみると、鍵がかかってるだけだ。

「どーなってんだ…?」

うちの屋敷なんか、どこでも白光騎士が巡回してるぞ?

導師イオンが帰ったから、警備がいらなくなったのか?
でも、イオンレプリカを作製してる場所なんだろ?
あからさまに騎士を配置してると、怪しまれるから、見える所には配置してない……とか?
譜術のトラップを仕掛けてるから心配ない…とか?


それとも……、

全て、引き払ってしまった後だから…?


一瞬、背筋が凍った。

「早く確かめないと…!」

右手を前に突き出し、譜陣を展開させる。
特定の音素が人為的に集中させられている場所、つまり、譜術のトラップの有無を探る。

「……トラップはなさそうだけど…」

こんなに無防備なんて、大丈夫なのか…?
罠とか?イオンが入れ代わった後なのに今更だよな?

…………。

考えるのは後だ!屋敷に入れば分かるだろ!

ロープを取り出し、鉄柵の先に引っ掻ける。鉄柵を乗り越えるのは、簡単だった。
使用人が使う裏手の通用口を見つける。ノブを回してみると、案の定、鍵は開いていた。屋敷の中に入り、ヒトの気配を探りながら、奥へ進む。数人の使用人が働いているだけで、屋敷内には、他には誰もいないようだった。

だから、逆に焦り始めていた。

オラクル騎士が門を守ってたから、間違った屋敷に侵入したって事は絶対ない。


でも、何なんだここ…?

ただの屋敷にしか見えない。


「本当に、全部引き上げちまったのかよ…!」

地下への階段を見つける。そこにも、オラクル騎士が見張ってるような事はない。


階段を駆け降りる。息が上がる。


「そんな…!嘘だろ…!全部終わってたなんて…!」


地下に到着して、愕然とした。

地下牢には、何も残ってなかった。ひっそりとしていて、全てが終わった事を明示していた。

俺はその場に座り込んで、呆然とする。


予想してなかった訳じゃない。最初から、もしかしたら、って思ってはいた。
でも、もしかしたら、間に合うかもしれないって、その希望だけは、捨てないでいた。

……それなのに…!

「誰も助けられなかったなんて…!!!」

もう少し早く来ていれば…!もう少し早く俺が『前』の記憶を取り戻していれば…!

「…っくしょぉ……!」

床を殴り付ける。拳が痛んだ。
でも、火口に投げられて焼かれたレプリカ達は、もっと痛くて、もっと苦しかった筈だ…!!

一瞬、アッシュの顔が思い浮かんだ。

アッシュが助けてくれていたら、って思った。アッシュを責めたくなった。
でも、アッシュを責めるのは、違う気がした。
俺がレプリカを助けたいって言って反論した時、ほんの一瞬だけ、アッシュが苦しそうな顔をしたのを覚えてる。多分、アッシュは悩んで、苦しんで、そして、この結果を仕方なく選んだんだと思った。

でもレプリカ達を助けたいと思って、アッシュに無理を押し付けてまで、ここまで来たのに…!

「……っ…!」

……頭が痛い…。多分、すぐ治まるヤツだ。
こんな最低な気分の時は、酷いヤツでも良かったのに。


…アッシュに連絡しよう。ちゃんと言わなきゃいけねぇよな…。
全部終わってた、って。何も出来なかった、って。迷惑かけてごめん、って。


ふと、アッシュの言葉を思い出す。


「…そうだ、フォミクリー装置……」

アッシュは、ここでレプリカを作製してるって言ってた。なら、フォミクリー装置がある筈だ。

フォミクリー装置は壊さなきゃ。もう二度とレプリカなんて造らせない為に。

「でも、フォミクリー装置は一体どこに…?」

フォミクリー装置がどんな物なのか、俺は知っている。
『前』は、コーラル城で見たのが最初だった。


………こんな所に、装置があるのか…?


小さな疑問が、少しずつ大きくなっていく。


次には、今まで気にならなかった小さな矛盾さえ、大きな疑問に変わる。


「やっぱり変だ!調べなきゃ…!」

まずは、地下牢の並ぶ地下を調べなきゃいけない。床や壁を慎重に叩く。音が教えてくれる。壁や床の先に、隠し通路や部屋はない。よく見れば、地下牢の中の様子も変だ。何年も使われた事がないって感じだ。誰かが出入りしたような跡がまるでない。

屋敷の中に戻り、使用人に見つからないよう、部屋を調べていく。どの部屋も普通の部屋だ。

慎重に屋敷から出て、鉄柵を乗り越える。


屋敷から離れて、丘を下りる事にした。


疑問は、確信に変わっていた。


「アッシュの野郎、なんで俺に嘘をついた…!!」


アッシュは嘘をついた。
ここでレプリカ作製をしているなんて言わなければ、多分、俺は気付かなかった。
この屋敷には、巨大なフォミクリー装置が入る空間なんてない。

レプリカを作製した場所と、レプリカが囚われている場所は同じ。
それは嘘ではないと思う。
そうじゃなければ、アッシュはあんな風に口を滑らせる事はなかった筈だ。

じゃあ、本当にレプリカ達がいる場所はどこなんだ…?


「ザレッホ火山…?」


思わず出た自分の言葉に、自分で驚く。


なんで、そう思った…?


『ザレッホ火山の火口に、生きながら投げ入れられた』


「…そうか、そういう事か……!」

レプリカが造られた場所、囚われていた場所、そして、捨てられた場所は、同じなんだ…!


「ザレッホ火山に行かなきゃ…」

ザレッホ火山の内部に通じる道は2つ。山頂にある入り口と、教会奥にある移動譜陣。
……大丈夫。行き方は覚えてる。


走ってダアト港の拠点に戻り、教団服に着替えた。後で着替えられるように、さっきまで着ていた服も詰め込む。すぐに拠点を出て、また走った。

もしかしたら、全て終わってしまっているかもしれない。
こんなに急いでも、もう間に合わないかもしれない。
でも、あと少し早く来ていれば…なんて後悔は、もうしたくない。


第四石碑の丘を越えて、ダアトの町へ入り、教会の前へ到着する。

太陽が真上にある。もう昼だ。

「……くそ…っ」

……頭が痛ぇ…。気を付けて歩いても、真っ直ぐ進むのはキツい…。
でも、これは多分、ちょっとすれば治まる頭痛だ。


教会の大扉の前に進むと、オラクル騎士が敬礼する。

「アッシュ副師団長殿、ご苦労様です」

「…任務、ご苦労」

手短に言って通り過ぎ、教会内に入った。


その時、

「アッシュ、ケセドニアから戻ったのか?」

聞き覚えのある声を耳にして、驚いて振り返る。


……リグレット…!


「報告は受けていないが、今、戻ったばかりか?」

神託の盾騎士団の首席総長の補佐官、リグレット。ヴァン師匠の腹心の部下。

くそ。急いでる時に、なんでこんな…。
…うー……、ただでさえ頭が痛ぇのに、早く行きたいっつーのに、本気でイライラする…!

「今、急いでいる。報告なら後で行く」

「…全く。いくら特務師団の任務があるとは言え、お前に、そうそう勝手な行動を取られては困る」

「じゃあ、ヴァンのヤツにそう報告しておけば良い」

勢いで師匠の事を呼び捨てにしちまったけど、アッシュっぽいから良いよな。うん。
…つーか、もう、ほんとに行かせてくれっつーの。

「用がなければ行くぞ」

「アッシュ!待て!」

無視だ、無視。リグレットなんざ無視だ。

「…いつも勝手な事を…!報告義務だけは怠るなよ!」

……良かった。諦めてくれた。
あとはリグレットに悟られないように、気を付けて真っ直ぐ歩かないと。
教会の床に描かれてる模様のおかげで、真っ直ぐ歩けてるっぽい。あー…すっげぇ助かる…。

そのまま教会内部へと進む。目指すは、教会奥にある移動譜陣だ。


ザレッホ火山内部のどこに囚われているのかは分からない。

でも、自分の力で見つけるしかない。俺一人で、やるしかない。


手遅れでないと良い。イオンレプリカ達をちゃんと助けたいんだ。




※※※続きます※※※





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