忍者ブログ

AL逆行itsbetween1and0/19




アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第19話・六神将ルーク編01「自分をなかった事にされるなんて」です。




it's between 1 and 0 第19話


※※※



「やっとダアト港かぁ!」

6日間の船旅が終わり、連絡船がダアト港に入っていく。
俺は甲板の上にいて、だんだん見えてきたダアト港の様子に、目を細めた。

アッシュのヤツは大変だったみたいだけど、俺の方は何事もなく順調。
一等船室のベッドは硬かったけど、野宿よりはマシだな。

「……まだ間に合うと良いけどな…」

イオンレプリカ達の事を考える。

ローレライ教団の導師イオンは、まだ12才。
でも、預言(スコア)で、導師が12才で死ぬと分かり、大詠師モースとヴァン師匠が、導師イオンのレプリカを造る。造られたレプリカは、全部で7人。『前』の記憶では、導師イオンの身代わりに選ばれたのは7番目のイオン。他のレプリカ達は、廃棄処分…ちっ、嫌な言葉だな…される事になって、生きながらザレッホ火山の火口に、投げ入れられた。

……んな酷ぇ事、よく出来るよな…。俺達レプリカだって生きてるのに、同じ命なのに…。
……信じらんねぇよ…。

「…くそ。今うじうじしてても仕方ねぇよな。えーと…」

アッシュから聞いた話だと、1番目と4番目のレプリカは既に音素解離で消滅していて、2番目のレプリカは、被験者イオンの怒りをかって、既に消滅させられたらしい。

被験者(オリジナル)の怒りをかって、消滅させられた複製人間(レプリカ)か…。

寒気を覚えて、体が震える。

俺もアッシュに殺されそうになった事があったっけ。あの時は、俺が馬鹿な事した後だったから、仕方なかったけど…。

「卑屈は止めだ!」

両頬を叩いて、気合いを入れ直す。

よし!気合い入った!!

(アッシュ!おーい!アッシュ!聞こえるかー?)

あ。耳鳴りが始まった。アッシュが回線繋いだっぽい。

(…屑が。大声出すんじゃねぇ…)

アッシュの声が弱々しい…。まぁ、あの最終決戦兵器の前じゃあ、誰でもそうなるか。あの悪夢の7日間の事は、俺も思い出したくねぇ。

(お前、ほんとに大丈夫か?吐き気とかあるだろ?)

(……問題ない。もう殆ど回復している)

強がってるな、これは。

(さっそく悪いけどさ、もうすぐダアト港に着くんだ)

(まだ船室か?)

(もう甲板に出てるけど?)

(じゃあ、港の右側を見ろ)

(右側?)

視線を向けると、ダアト港のすぐ横に小高い丘が見える。
丘の斜面沿いには、貴族の屋敷を小さくしたような家がたくさん建っている。

(右側の丘は、高級別荘地だ。巡礼に来る貴族の別荘や、富裕層向けのホテルが並んでいる)

(へぇ…)

『前』はそんなこと知らなかったな…。

(ファブレ家の別荘もあるぞ)

(マジ!?)

俺、『前』はダアトで金払って安宿に泊まってたんだけど…。
教えてくれれば良かったのになー…。まぁ、あんな丘の上、行くのも面倒そうだけど…。

(丘の一番高い場所、青い屋根の大きな屋敷が分かるか?)

(あぁ、見えた)

(それが、病気療養中の被験者イオンが滞在する別荘だ)

(今もいるのか?)

(さぁな。もしかしたら、既にレプリカと入れ代わって、教会の方に帰ったかもしれない。港で聞けば分かるだろう)

(そうする。それで、イオンのレプリカ達は?)

(その別荘の地下だ)

別荘の地下…。

(そこでレプリカ作製も行っていた。引き払っていなければ、そこにイオンレプリカ達がいるはずだ)

(まだ、いるよな…?)

(既に廃棄処分された可能性の方が高い)

その言葉を聞いて、心臓がぎゅっと掴まれるような感覚を覚えた。

絶対に助けたい。間に合ってほしい。

(まだ生きているなら、別荘の地下牢にいるはずだ。引き払った後なら、生存はしていないだろう。行って、好きなだけ確認すると良い)

(…うん、分かった)

(別荘に行く前に、ダアト港の北地区へ行け)

(へ?なんで?)

(俺の拠点の一つがある。変装用の服も置いてあるから、好きに使え。間違っても教団服で別荘に侵入するなよ)

(…うん、ありがとう)

(それと、別荘に侵入するのは、夜まで待つ事だな)

(なんで?)

(なんで、だと?ダアトはまだ早朝だろう!?朝っぱらから侵入するつもりか?!…ったく、お前は常識ないのか、この屑がっ!)

ええー?!侵入って時点で、常識とか関係ねぇだろ!?
…とは言わないでおこう。諜報活動もする特務師団では、常識かもしんねぇし…。
……どんな常識だよ。



ダアト港に着いて、船から降りると、足がふらふらした。
頭痛が始まるかと思ってヒヤヒヤしたけど、何も起こらなくて、ちょっと安心する。足がふらついたのは、船に揺られてたせいだ。
まぁ、6日間も船の上だったから仕方ないけど、びっくりさせんなよ…。

港にいたヒト達に話を聞いてみると、病気療養中の導師イオンは、すっかり元気になって、供の者を連れて、教会の方へ戻って行ったそうだ。

『預言に従ったおかげ』『ユリア様のご加護のおかげ』
その言葉を、何度も聞いた。話を合わせる為に「そうですね」と頷いたけど、正直、ツラかった。

レプリカと被験者が入れ代わったという事は、もう被験者の方は…。


その死を誰にも悼まれる事なく、なかった事にされたんだ…。


(何を考えてる、ルーク?)

(自分のレプリカを造られるって、どんな気持ちだろ…)

(まぁ、気分は良くねぇだろうさ)

(だ、だよなぁ…)

…うわ、今のは、ちょっとキた。経験者の言葉つーかアッシュの言葉って、けっこー重い…。

(尤も、被験者イオンは自ら進んで、レプリカ作製に協力していたがな。それを嗅ぎ付けた一派が阻止しようとしたが、被験者イオン自身に返り討ちにあって壊滅したらしい)

(…そんな事があったんだ)

自分の死期を知ってて、しかも、ローレライ教団の導師で、預言を盲信する人々に囲まれた状況の中、どんな気持ちで、レプリカ作製に協力したんだろう…。俺には被験者イオンの気持ちなんて、分かる訳ないけど、でも、俺なら、自分をなかった事にするなんて、耐えられないと思う。


俺自身が生きていた事を、誰かに覚えていてほしいから…。


自分をなかった事にされるなんて、寂しくて、辛すぎる。


アッシュの居場所を奪ってる俺に、そんなこと言う資格なんか、ないんだろうけど…。


「…今日の俺、うじうじしてるなー……」

ダメだダメだ。うじうじする暇あったら、早く行かないと。

(アッシュ、もう北地区に入ったけど、どこに行けばいい?)

(あぁ…)

頭ん中の奥の方が、ちょっと痺れてくる。アッシュの同調が深くなった証拠だ。
『前』と同じように、俺の目を通して、アッシュは俺の周りが見えるらしい。

(そっちの…左の路地に入れ。周囲に気を配れよ)

(分かった)

(荷物の中に鍵束があったろ。赤い鍵がここの鍵だ)

(あのさ、鍵って結構いっぱいあったけど、もしかして…)

(あぁ、これからの為に、活動拠点を各地に確保してある。バチカルに来たのも、活動拠点を確保する為だった)

(お前、すげぇな…)

(特務師団の副師団長ってのは、色々融通きくからな)

(それ、職権濫用って言うんだぜ?)

(だから、どうした。関係ねぇな)

……アッシュのこういう所、正直、尊敬する…。



教えてもらったアッシュの拠点に行くと、
よく町中で見かける、ローレライ教信者っぽい服を発見。
うん、これなら良いかも。
マントも悪目立ちする白から、よくあるフツーのマントに。髪もちゃんと隠して、と。

(じゃあ、アッシュ、別荘に行く前にまた連絡するよ)

(あぁ、そうしてくれ。俺はちょっと休む)

(おやすみー…)

耳鳴りと痺れが治まった。アッシュが回線を切った証拠だ。


よし、別荘に行こう!


アッシュには何も言わなかったけど、俺は、夜まで待つつもりなんて、最初っからない。
下見してみて、イケそうなら、即行侵入のつもりだ。

「今行動しないで後で後悔なんて、絶対嫌だしな…」

『前』に教会地下へ侵入した事あるけど、あの時は、ティアたち仲間が一緒にいてくれた。
今は、アッシュにチャネリングする訳にもいかない。本当に、俺一人。

マントの下に隠した剣の柄を握る。


…ぅわ。ちょっと手が震えてきた。……ほんと俺って、なっさけねぇなぁ…。

PR