AL逆行itsbetween1and0/19 AL長編/it's between 1and0 2012年08月07日 アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0” 第19話・六神将ルーク編01「自分をなかった事にされるなんて」です。 it's between 1 and 0 第19話 ※※※ 「やっとダアト港かぁ!」 6日間の船旅が終わり、連絡船がダアト港に入っていく。 俺は甲板の上にいて、だんだん見えてきたダアト港の様子に、目を細めた。 アッシュのヤツは大変だったみたいだけど、俺の方は何事もなく順調。 一等船室のベッドは硬かったけど、野宿よりはマシだな。 「……まだ間に合うと良いけどな…」 イオンレプリカ達の事を考える。 ローレライ教団の導師イオンは、まだ12才。 でも、預言(スコア)で、導師が12才で死ぬと分かり、大詠師モースとヴァン師匠が、導師イオンのレプリカを造る。造られたレプリカは、全部で7人。『前』の記憶では、導師イオンの身代わりに選ばれたのは7番目のイオン。他のレプリカ達は、廃棄処分…ちっ、嫌な言葉だな…される事になって、生きながらザレッホ火山の火口に、投げ入れられた。 ……んな酷ぇ事、よく出来るよな…。俺達レプリカだって生きてるのに、同じ命なのに…。 ……信じらんねぇよ…。 「…くそ。今うじうじしてても仕方ねぇよな。えーと…」 アッシュから聞いた話だと、1番目と4番目のレプリカは既に音素解離で消滅していて、2番目のレプリカは、被験者イオンの怒りをかって、既に消滅させられたらしい。 被験者(オリジナル)の怒りをかって、消滅させられた複製人間(レプリカ)か…。 寒気を覚えて、体が震える。 俺もアッシュに殺されそうになった事があったっけ。あの時は、俺が馬鹿な事した後だったから、仕方なかったけど…。 「卑屈は止めだ!」 両頬を叩いて、気合いを入れ直す。 よし!気合い入った!! (アッシュ!おーい!アッシュ!聞こえるかー?) あ。耳鳴りが始まった。アッシュが回線繋いだっぽい。 (…屑が。大声出すんじゃねぇ…) アッシュの声が弱々しい…。まぁ、あの最終決戦兵器の前じゃあ、誰でもそうなるか。あの悪夢の7日間の事は、俺も思い出したくねぇ。 (お前、ほんとに大丈夫か?吐き気とかあるだろ?) (……問題ない。もう殆ど回復している) 強がってるな、これは。 (さっそく悪いけどさ、もうすぐダアト港に着くんだ) (まだ船室か?) (もう甲板に出てるけど?) (じゃあ、港の右側を見ろ) (右側?) 視線を向けると、ダアト港のすぐ横に小高い丘が見える。 丘の斜面沿いには、貴族の屋敷を小さくしたような家がたくさん建っている。 (右側の丘は、高級別荘地だ。巡礼に来る貴族の別荘や、富裕層向けのホテルが並んでいる) (へぇ…) 『前』はそんなこと知らなかったな…。 (ファブレ家の別荘もあるぞ) (マジ!?) 俺、『前』はダアトで金払って安宿に泊まってたんだけど…。 教えてくれれば良かったのになー…。まぁ、あんな丘の上、行くのも面倒そうだけど…。 (丘の一番高い場所、青い屋根の大きな屋敷が分かるか?) (あぁ、見えた) (それが、病気療養中の被験者イオンが滞在する別荘だ) (今もいるのか?) (さぁな。もしかしたら、既にレプリカと入れ代わって、教会の方に帰ったかもしれない。港で聞けば分かるだろう) (そうする。それで、イオンのレプリカ達は?) (その別荘の地下だ) 別荘の地下…。 (そこでレプリカ作製も行っていた。引き払っていなければ、そこにイオンレプリカ達がいるはずだ) (まだ、いるよな…?) (既に廃棄処分された可能性の方が高い) その言葉を聞いて、心臓がぎゅっと掴まれるような感覚を覚えた。 絶対に助けたい。間に合ってほしい。 (まだ生きているなら、別荘の地下牢にいるはずだ。引き払った後なら、生存はしていないだろう。行って、好きなだけ確認すると良い) (…うん、分かった) (別荘に行く前に、ダアト港の北地区へ行け) (へ?なんで?) (俺の拠点の一つがある。変装用の服も置いてあるから、好きに使え。間違っても教団服で別荘に侵入するなよ) (…うん、ありがとう) (それと、別荘に侵入するのは、夜まで待つ事だな) (なんで?) (なんで、だと?ダアトはまだ早朝だろう!?朝っぱらから侵入するつもりか?!…ったく、お前は常識ないのか、この屑がっ!) ええー?!侵入って時点で、常識とか関係ねぇだろ!? …とは言わないでおこう。諜報活動もする特務師団では、常識かもしんねぇし…。 ……どんな常識だよ。 ダアト港に着いて、船から降りると、足がふらふらした。 頭痛が始まるかと思ってヒヤヒヤしたけど、何も起こらなくて、ちょっと安心する。足がふらついたのは、船に揺られてたせいだ。 まぁ、6日間も船の上だったから仕方ないけど、びっくりさせんなよ…。 港にいたヒト達に話を聞いてみると、病気療養中の導師イオンは、すっかり元気になって、供の者を連れて、教会の方へ戻って行ったそうだ。 『預言に従ったおかげ』『ユリア様のご加護のおかげ』 その言葉を、何度も聞いた。話を合わせる為に「そうですね」と頷いたけど、正直、ツラかった。 レプリカと被験者が入れ代わったという事は、もう被験者の方は…。 その死を誰にも悼まれる事なく、なかった事にされたんだ…。 (何を考えてる、ルーク?) (自分のレプリカを造られるって、どんな気持ちだろ…) (まぁ、気分は良くねぇだろうさ) (だ、だよなぁ…) …うわ、今のは、ちょっとキた。経験者の言葉つーかアッシュの言葉って、けっこー重い…。 (尤も、被験者イオンは自ら進んで、レプリカ作製に協力していたがな。それを嗅ぎ付けた一派が阻止しようとしたが、被験者イオン自身に返り討ちにあって壊滅したらしい) (…そんな事があったんだ) 自分の死期を知ってて、しかも、ローレライ教団の導師で、預言を盲信する人々に囲まれた状況の中、どんな気持ちで、レプリカ作製に協力したんだろう…。俺には被験者イオンの気持ちなんて、分かる訳ないけど、でも、俺なら、自分をなかった事にするなんて、耐えられないと思う。 俺自身が生きていた事を、誰かに覚えていてほしいから…。 自分をなかった事にされるなんて、寂しくて、辛すぎる。 アッシュの居場所を奪ってる俺に、そんなこと言う資格なんか、ないんだろうけど…。 「…今日の俺、うじうじしてるなー……」 ダメだダメだ。うじうじする暇あったら、早く行かないと。 (アッシュ、もう北地区に入ったけど、どこに行けばいい?) (あぁ…) 頭ん中の奥の方が、ちょっと痺れてくる。アッシュの同調が深くなった証拠だ。 『前』と同じように、俺の目を通して、アッシュは俺の周りが見えるらしい。 (そっちの…左の路地に入れ。周囲に気を配れよ) (分かった) (荷物の中に鍵束があったろ。赤い鍵がここの鍵だ) (あのさ、鍵って結構いっぱいあったけど、もしかして…) (あぁ、これからの為に、活動拠点を各地に確保してある。バチカルに来たのも、活動拠点を確保する為だった) (お前、すげぇな…) (特務師団の副師団長ってのは、色々融通きくからな) (それ、職権濫用って言うんだぜ?) (だから、どうした。関係ねぇな) ……アッシュのこういう所、正直、尊敬する…。 教えてもらったアッシュの拠点に行くと、 よく町中で見かける、ローレライ教信者っぽい服を発見。 うん、これなら良いかも。 マントも悪目立ちする白から、よくあるフツーのマントに。髪もちゃんと隠して、と。 (じゃあ、アッシュ、別荘に行く前にまた連絡するよ) (あぁ、そうしてくれ。俺はちょっと休む) (おやすみー…) 耳鳴りと痺れが治まった。アッシュが回線を切った証拠だ。 よし、別荘に行こう! アッシュには何も言わなかったけど、俺は、夜まで待つつもりなんて、最初っからない。 下見してみて、イケそうなら、即行侵入のつもりだ。 「今行動しないで後で後悔なんて、絶対嫌だしな…」 『前』に教会地下へ侵入した事あるけど、あの時は、ティアたち仲間が一緒にいてくれた。 今は、アッシュにチャネリングする訳にもいかない。本当に、俺一人。 マントの下に隠した剣の柄を握る。 …ぅわ。ちょっと手が震えてきた。……ほんと俺って、なっさけねぇなぁ…。 PR