AL逆行itsbetween1and0/18 AL長編/it's between 1and0 2012年08月02日 アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0 第.18話・アッシュ06編「抱えている問題は6つ」です。 第.18話・アッシュ06編 ………頭が痛い。 頭痛という意味ではなく、問題が山積みという意味で、だ。 俺はベッドの上で腕を組み、冷静に状況を整理する事にした。 ルークがガイに渡した物は、音機関の部品、…だった。 『前』の記憶を夢に見た後、その相似性を確かめようと、ラムダスに頼んでいた物らしい。しかし、その頼んだ時間が問題だ。ガイが帰ってきた後ではなく、ガイが帰ってくる前。きっと、ガイは疑問に思っている筈だ。何故、事前に、ルークがその事を知り得たのか、と。 最初は、何て馬鹿な事をしたんだ!と罵ったが、少し考えて、俺は自分の考えを改めた。 『前』と『今』の相似点と相違点。 今現在、歪みが生じている以上、俺ももっと慎重に考えるべきだった事だ。 大まかな事実が『前』と同じだと知っていて、正直、俺は油断していた。 成程、と思ったが、その方法が滅茶苦茶である事には違いないので、もう一度、思いきり罵ってやった。……いや、今はそんな事、どうでもいい。 現在、俺が抱えている問題は6つ。 その1。 俺とルークは利き手が違う為、ガイに記憶を取り戻したと疑われている。矯正前は左利きだったとは言え、今更、ルークのように左手を使うのは至難の技だ。 その2。 しかも過去5年間の記憶の有無を試された。そして俺は墓穴を掘った。確実に、俺の様子が怪しいと疑われている。 その3。 音機関の部品を頼んだ時間差をどうするか。もし、何らかの方法で未来を知り得たと思われたなら、ヴァンに報告されては、非常にやっかいだ。 その4。 攻撃譜術はさておき、俺は治癒術が使えない。まぁ、屋敷に軟禁中ならば、そう使う事もないので、これはそこまで問題ではないかもしれない。 その5。 ルークのように、俺はへらへら笑えない。すっかりクセがついた眉間の皺が消える訳もない。口調の真似くらいは問題ないが、表情は大問題だ。 その6……、 「何なんだ、この紅白ストライプのおめでたい夜着は…!」 ルークの夜着は、紅白ストライプ柄だった。 確かに昨夜も確認していた筈だが、怪我で意識が朦朧としていた時に確認したせいか、夜着の柄など気にも留めなかった。 俺はこんな恥ずかしい格好で、昨夜、父上に進言していたのか…っっ! 何故、誰一人、ツッコんでくれなかったんだ…!!! ……いや、ヒトを責めても仕方ない。 誰一人ツッコまなかったのは、この夜着が、ルークにとっての日常だったからだ。 分かっている。分かってはいる……が!!!! 「あの劣化野郎、バチカルに戻ってきたら、フレイムバーストの後に剛招来かけて、空破絶風撃かまして翔破烈光閃を叩き込んで、最後に、秘奥義・咬牙鳴衝斬で、トドメをさしてやる!!!」 ……いや、トドメをさすのは、やりすぎか。 まぁ、とにかく。 てめぇ覚えてろよ、劣化レプリカッッッ!!!!! コンコン、とドアをノックする音が聞こえ、俺は慌ててベッドの中に潜り込む。 「おーい、ルーク、朝だぞー起きろー」 ガイの声だ。ベッドの横を通り過ぎたガイは、カーテンを開けたようだ。 「身体の調子はどうだ?今日は良い天気だぞー」 「…………」 「今日は連絡があってな、ナタリア姫が来るらしい」 「ナタリアだと!?」 俺が驚いて飛び起きると、ガイも驚いて目を丸くしている。 「あ、あぁ、いつものお見舞いに来るらしいぞ」 いつもの見舞い? …あぁ、そういえば、ルークのヤツ、俺が最初に来た日もぶっ倒れてやがったな。 「もしかしたら、昨夜の騒ぎを聞き付けて、様子を見に来る事にしたのかもしれないが…」 「あぁ、昨夜の…」 紅白ストライプ夜着で譜術をぶっ放したアレか…。…頭が痛い。 「ま、そういう事だ。お優しい婚約者様だな、ルーク」 「うるせぇー…」 ……ナタリアか…。会うのはあまり乗り気ではないが…。 ガイが部屋から出ていこうとするのを見て、俺は、問題その1~3を思い出す。 「あっ、ガイ、ちょっと待て」 「何だ?」 「昨夜、適当に応えてしまったんだが、俺がラムダスに頼んだモノは、食べ物じゃなくて、音機関の部品だったよな?」 ガイは驚いて、それから、苦笑した。 「冗談言ったのに、ツッコミも入れずスルーされたから、ちょっと淋しかったぞ、ルーク」 あれは冗談だったのか?俺を試したのではなく? 確かに、追求されはしなかったが…。 「分かりづらいボケをかます方が悪いんだ」 「ははは。次は分かりやすいボケにするよ。でも、驚いたぞ。俺がベルケンドで買って壊れた部品、よく分かったな?」 「もしかしたら、俺、預言士の才能あるかも」 冗談っぽく俺が言うと、ガイは驚いて、それから爽やかに笑い始める。 「預言とはまいったね。第七音譜術士は凄いな。お前さぁ、探求心旺盛なのは良いけど、余計な勉強してると、後で、奥様と旦那様が怖いぞ?」 「ちょっと試しただけだっつーの。もうしねぇよ」 「あぁ、それが良い」 笑いながらガイは部屋を出ていった。 苦しい言い訳だったが、これ以上良い言い訳はないだろう。 第七音譜術士(セブンスフォニマー)だからと言って、少しかじった程度で、預言(スコア)を、しかも、詳細な預言を詠む事など出来ない。不可能だ。 だが、そんな事など、一般人には分からない。ガイも、この言い訳で、納得するだろう。 ……納得してくれ。頼む。 とりあえず、問題その1~3は、これで解決だ。 …いや、正直、解決したと思わなければ、やっていけない。 一つ息を吐いた。 「……それにしても、ナタリアか…」 思い出の中にあるナタリアを思い出す。 ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア。金糸のような髪。若草色の真っ直ぐな瞳。正義感の塊で、弓術も学問もそつなくこなすのに、少々間が抜けていて、危なっかしい王女。 生涯一緒にいて、あいつの手を取って生きていく。 それが俺の役目だと信じていた時期もあった。 ……あのナタリアに会えるのか…。 午後に、ナタリアが襲来…もとい、訪ねてきた。 思い出の中の王女は、すっかり逞しく…もとい、美しく成長していた。 「まぁ、ルーク!お顔の色はよろしいようですわね!昨夜の事は聞きましたわ。お身体の方はもうよろしくて?」 「…そんな騒ぐなよ。大した事じゃなかったし」 「譜術の練習をなさっていたと聞きましたわ」 「あ、あぁ、まぁ…」 「叔母様も私も、あなたの事を心配しておりますのよ。どうかもう二度と危険な事はなさらないで下さいな」 ナタリアが近寄り、真っ直ぐに見つめてくる。 近いっ! 距離が近いっっ!! 近すぎるっっっ!!! 思わず顔を背けると、 「まぁ、何か良からぬ事でも考えているのでは?」 違う意味に取られた。 「んなこと考えてねぇーよ」 「なら、よろしいのですけど」 「ルーク様」とガイから声をかけられて振り返る。 「お茶の準備が出来ておりますので、サンルームの方へ」 ナタリアが慣れた様子で先に歩き始め、俺も付いて行こうとすると、 がし、とガイから腕を引かれた。 「おいっ。俺は朝に、ナタリア姫が来るって言ったよな?」 「聞いたが?」 「なんで逃げなかった!?」 ……逃げる??? 俺が疑問に思った瞬間、ナタリアが振り返った。 「今日はルークの為に、ケーキを持参しましたの。私の手作りですのよ。お口に合うとよろしいのですけど」 ふふふ、と微笑んでから再び歩き始めるナタリア。 「…ナタリアの手作り……!」 すっかり忘れていた。ナタリアの料理が、凄まじいという事を。 青ざめた顔で、ガイがひそひそと話を続ける。 「まさか、あの悪夢の7日間を忘れた訳じゃないだろ。人類史上最凶の最終決戦兵器って、お前も言ってたくせに」 いや、人類史上最凶とまでは思っていないが…。……ちょっと待て。 そもそも、悪夢の7日間って何だ? 「無理だとは思うが、隙があれば逃走しろ。後衛…いや、待機中の治癒師が援護するから、自分で『レストア』を使うなよ」 ……おい。『レストア』は、体力全回復と状態異常を解除させるFOF技だよな? つまり、そういう事なのか? ナタリアが用意したケーキは、レアチーズケーキだった。何故か、黒かったが。 刺激臭もしたが。口に入れた瞬間に、口内が焼けるような痛みを感じたが。 喉に流し込んだ直後に、強烈な嘔吐感を覚えたりしたが。 そして、1ホール全て食べさせられるとは予想していなかったが。 その後、俺は『レストア』をかけられ、 譜術も万能ではないので、薬も処方され、7日間の絶対安静を言い渡された。 不幸中の幸いだったのは、俺が抱えていた問題その4と5を解決できた事だ。 緊急事態でもなければ、療養中の人間が回復術を使う機会はないだろう。そもそも、ガイが使わせはしない。そして、へらへら笑う必要がなくなった。というか、笑うのは無理だ。全身の倦怠感が半端ない。たまに襲われる目眩と嘔吐感も半端ない。 ただ、問題その6については、解決できなかった。 同じ柄の夜着が、何枚もあったからだ。 これほど紅白ストライプにこだわりがあるとは…。ルーク、過去に一体何があったんだ…? 「本当にごめんなさい、ルーク…。あなたの体調がこれほど悪いと知っていれば、無理に押し掛けたりはしなかったのですが…」 その言葉の内容に少々疑問を感じたが、俺が点滴を受けている横で、ナタリアは涙目で謝っていた。もちろん、ナタリアに悪気がない事くらい知っている。 だから、ナタリアは悪くない。…………多分。 ※※※続きます※※※ 次回からは「六神将ルーク編」です。 ※ PR