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AL逆行itsbetween1and0/18



アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.18話・アッシュ06編「抱えている問題は6つ」です。







第.18話・アッシュ06編



………頭が痛い。

頭痛という意味ではなく、問題が山積みという意味で、だ。

俺はベッドの上で腕を組み、冷静に状況を整理する事にした。

ルークがガイに渡した物は、音機関の部品、…だった。
『前』の記憶を夢に見た後、その相似性を確かめようと、ラムダスに頼んでいた物らしい。しかし、その頼んだ時間が問題だ。ガイが帰ってきた後ではなく、ガイが帰ってくる前。きっと、ガイは疑問に思っている筈だ。何故、事前に、ルークがその事を知り得たのか、と。

最初は、何て馬鹿な事をしたんだ!と罵ったが、少し考えて、俺は自分の考えを改めた。

『前』と『今』の相似点と相違点。

今現在、歪みが生じている以上、俺ももっと慎重に考えるべきだった事だ。
大まかな事実が『前』と同じだと知っていて、正直、俺は油断していた。

成程、と思ったが、その方法が滅茶苦茶である事には違いないので、もう一度、思いきり罵ってやった。……いや、今はそんな事、どうでもいい。


現在、俺が抱えている問題は6つ。


その1。
俺とルークは利き手が違う為、ガイに記憶を取り戻したと疑われている。矯正前は左利きだったとは言え、今更、ルークのように左手を使うのは至難の技だ。

その2。
しかも過去5年間の記憶の有無を試された。そして俺は墓穴を掘った。確実に、俺の様子が怪しいと疑われている。

その3。
音機関の部品を頼んだ時間差をどうするか。もし、何らかの方法で未来を知り得たと思われたなら、ヴァンに報告されては、非常にやっかいだ。

その4。
攻撃譜術はさておき、俺は治癒術が使えない。まぁ、屋敷に軟禁中ならば、そう使う事もないので、これはそこまで問題ではないかもしれない。

その5。
ルークのように、俺はへらへら笑えない。すっかりクセがついた眉間の皺が消える訳もない。口調の真似くらいは問題ないが、表情は大問題だ。

その6……、


「何なんだ、この紅白ストライプのおめでたい夜着は…!」

ルークの夜着は、紅白ストライプ柄だった。
確かに昨夜も確認していた筈だが、怪我で意識が朦朧としていた時に確認したせいか、夜着の柄など気にも留めなかった。

俺はこんな恥ずかしい格好で、昨夜、父上に進言していたのか…っっ!
何故、誰一人、ツッコんでくれなかったんだ…!!!

……いや、ヒトを責めても仕方ない。
誰一人ツッコまなかったのは、この夜着が、ルークにとっての日常だったからだ。

分かっている。分かってはいる……が!!!!


「あの劣化野郎、バチカルに戻ってきたら、フレイムバーストの後に剛招来かけて、空破絶風撃かまして翔破烈光閃を叩き込んで、最後に、秘奥義・咬牙鳴衝斬で、トドメをさしてやる!!!」

……いや、トドメをさすのは、やりすぎか。


まぁ、とにかく。


てめぇ覚えてろよ、劣化レプリカッッッ!!!!!


コンコン、とドアをノックする音が聞こえ、俺は慌ててベッドの中に潜り込む。

「おーい、ルーク、朝だぞー起きろー」

ガイの声だ。ベッドの横を通り過ぎたガイは、カーテンを開けたようだ。

「身体の調子はどうだ?今日は良い天気だぞー」

「…………」

「今日は連絡があってな、ナタリア姫が来るらしい」

「ナタリアだと!?」

俺が驚いて飛び起きると、ガイも驚いて目を丸くしている。

「あ、あぁ、いつものお見舞いに来るらしいぞ」

いつもの見舞い?
…あぁ、そういえば、ルークのヤツ、俺が最初に来た日もぶっ倒れてやがったな。

「もしかしたら、昨夜の騒ぎを聞き付けて、様子を見に来る事にしたのかもしれないが…」

「あぁ、昨夜の…」

紅白ストライプ夜着で譜術をぶっ放したアレか…。…頭が痛い。

「ま、そういう事だ。お優しい婚約者様だな、ルーク」

「うるせぇー…」

……ナタリアか…。会うのはあまり乗り気ではないが…。

ガイが部屋から出ていこうとするのを見て、俺は、問題その1~3を思い出す。

「あっ、ガイ、ちょっと待て」

「何だ?」

「昨夜、適当に応えてしまったんだが、俺がラムダスに頼んだモノは、食べ物じゃなくて、音機関の部品だったよな?」

ガイは驚いて、それから、苦笑した。

「冗談言ったのに、ツッコミも入れずスルーされたから、ちょっと淋しかったぞ、ルーク」

あれは冗談だったのか?俺を試したのではなく?
確かに、追求されはしなかったが…。

「分かりづらいボケをかます方が悪いんだ」

「ははは。次は分かりやすいボケにするよ。でも、驚いたぞ。俺がベルケンドで買って壊れた部品、よく分かったな?」

「もしかしたら、俺、預言士の才能あるかも」

冗談っぽく俺が言うと、ガイは驚いて、それから爽やかに笑い始める。

「預言とはまいったね。第七音譜術士は凄いな。お前さぁ、探求心旺盛なのは良いけど、余計な勉強してると、後で、奥様と旦那様が怖いぞ?」

「ちょっと試しただけだっつーの。もうしねぇよ」

「あぁ、それが良い」

笑いながらガイは部屋を出ていった。

苦しい言い訳だったが、これ以上良い言い訳はないだろう。
第七音譜術士(セブンスフォニマー)だからと言って、少しかじった程度で、預言(スコア)を、しかも、詳細な預言を詠む事など出来ない。不可能だ。
だが、そんな事など、一般人には分からない。ガイも、この言い訳で、納得するだろう。

……納得してくれ。頼む。

とりあえず、問題その1~3は、これで解決だ。

…いや、正直、解決したと思わなければ、やっていけない。


一つ息を吐いた。

「……それにしても、ナタリアか…」

思い出の中にあるナタリアを思い出す。

ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア。金糸のような髪。若草色の真っ直ぐな瞳。正義感の塊で、弓術も学問もそつなくこなすのに、少々間が抜けていて、危なっかしい王女。

生涯一緒にいて、あいつの手を取って生きていく。
それが俺の役目だと信じていた時期もあった。


……あのナタリアに会えるのか…。



午後に、ナタリアが襲来…もとい、訪ねてきた。
思い出の中の王女は、すっかり逞しく…もとい、美しく成長していた。

「まぁ、ルーク!お顔の色はよろしいようですわね!昨夜の事は聞きましたわ。お身体の方はもうよろしくて?」

「…そんな騒ぐなよ。大した事じゃなかったし」

「譜術の練習をなさっていたと聞きましたわ」

「あ、あぁ、まぁ…」

「叔母様も私も、あなたの事を心配しておりますのよ。どうかもう二度と危険な事はなさらないで下さいな」

ナタリアが近寄り、真っ直ぐに見つめてくる。

近いっ!

距離が近いっっ!!

近すぎるっっっ!!!

思わず顔を背けると、

「まぁ、何か良からぬ事でも考えているのでは?」

違う意味に取られた。

「んなこと考えてねぇーよ」

「なら、よろしいのですけど」

「ルーク様」とガイから声をかけられて振り返る。

「お茶の準備が出来ておりますので、サンルームの方へ」

ナタリアが慣れた様子で先に歩き始め、俺も付いて行こうとすると、

がし、とガイから腕を引かれた。

「おいっ。俺は朝に、ナタリア姫が来るって言ったよな?」

「聞いたが?」

「なんで逃げなかった!?」


……逃げる???


俺が疑問に思った瞬間、ナタリアが振り返った。

「今日はルークの為に、ケーキを持参しましたの。私の手作りですのよ。お口に合うとよろしいのですけど」

ふふふ、と微笑んでから再び歩き始めるナタリア。

「…ナタリアの手作り……!」

すっかり忘れていた。ナタリアの料理が、凄まじいという事を。

青ざめた顔で、ガイがひそひそと話を続ける。

「まさか、あの悪夢の7日間を忘れた訳じゃないだろ。人類史上最凶の最終決戦兵器って、お前も言ってたくせに」

いや、人類史上最凶とまでは思っていないが…。……ちょっと待て。
そもそも、悪夢の7日間って何だ?

「無理だとは思うが、隙があれば逃走しろ。後衛…いや、待機中の治癒師が援護するから、自分で『レストア』を使うなよ」

……おい。『レストア』は、体力全回復と状態異常を解除させるFOF技だよな?

つまり、そういう事なのか?


ナタリアが用意したケーキは、レアチーズケーキだった。何故か、黒かったが。
刺激臭もしたが。口に入れた瞬間に、口内が焼けるような痛みを感じたが。
喉に流し込んだ直後に、強烈な嘔吐感を覚えたりしたが。

そして、1ホール全て食べさせられるとは予想していなかったが。


その後、俺は『レストア』をかけられ、
譜術も万能ではないので、薬も処方され、7日間の絶対安静を言い渡された。

不幸中の幸いだったのは、俺が抱えていた問題その4と5を解決できた事だ。

緊急事態でもなければ、療養中の人間が回復術を使う機会はないだろう。そもそも、ガイが使わせはしない。そして、へらへら笑う必要がなくなった。というか、笑うのは無理だ。全身の倦怠感が半端ない。たまに襲われる目眩と嘔吐感も半端ない。


ただ、問題その6については、解決できなかった。
同じ柄の夜着が、何枚もあったからだ。


これほど紅白ストライプにこだわりがあるとは…。ルーク、過去に一体何があったんだ…?


「本当にごめんなさい、ルーク…。あなたの体調がこれほど悪いと知っていれば、無理に押し掛けたりはしなかったのですが…」

その言葉の内容に少々疑問を感じたが、俺が点滴を受けている横で、ナタリアは涙目で謝っていた。もちろん、ナタリアに悪気がない事くらい知っている。


だから、ナタリアは悪くない。…………多分。




※※※続きます※※※

次回からは「六神将ルーク編」です。



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