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AL逆行itsbetween1and0/17



アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.17話・アッシュ05編「空と同じ色の海」です。





第.17話・アッシュ05編



「何するんだ…っ!」

「お前は譜術を使う時、左手は使わない」


ガイの顔からは、笑みが消えていた。

俺は認識を改める。ガイ・セシルは、最も危険な人物だ。

俺の『望み』にとって。最大の障害になるかもしれない。


左手を掴まれたまま、俺はガイと睨み合う。


よくよく考えれば、左利きで左に剣を持つルークが、戦闘中に譜術を使うとすれば、右手を使う事になる。その為、普段から、右手で譜術を使っていたのだろう。

俺はもともと左利きだが、右を使うように矯正された。
…というか、慣習で、普通は矯正する。何故、あいつは矯正されず左手で剣を持ち、右手で譜術を使うのか、俺には全く理解できない…!いや、まぁ、今はそんな事など、どうでもいい。

問題は、どうやって今を切り抜けるか、だ。

自然な理由を答えなければならない。説得力がありルークらしい理由だ。考えろ。
……考えるんだ!
ここで俺とルークが入れ代わったとバレる訳にはいかねぇ…!

「…べ、別に、どっちの手を使っても良いだろっ」

…あぁ、ダメだ。
様々な理由を考えたが、最終的にルークらしさを考慮すると、こんな馬鹿で単純な言い訳しか言えない…。……自分で言ってて、情けなくなる。

「…ま、そりゃそだな」

ガイは納得して、俺の手を離した。本当に納得したかどうかは、さておき、だが。

「記憶を失ってから、左利きになっちまったから、てっきり記憶を取り戻したんじゃないかと思ったんだが…。俺の早とちりだった」

ガイはそう言って、からからと爽やかに笑う。
無駄に爽やかなのは、昔から変わっていないんだな…。

しかし…。

「ガイは、俺に記憶を取り戻して欲しい、のか?」

聞きたかった事を聞いてみる。

『前』のガイは、ルークに心酔していた。一族の復讐を諦めても良いと、誓えるほどに。

ただ、今現在、こいつがどのくらいルークに傾倒しているのか、俺は知る必要があった。ガイの答えによっては、俺は態度を改める必要がある。

ガイは「そうだなぁ…」と言いながら後ろ頭を掻く。「記憶が戻らなくても、ルークはルークだしな。記憶を失う前のお前はあまり可愛げなかったから、俺は、今のお前の方が気楽で良いよ」

可愛げなかった…って……。…いや、可愛げがあったと言われるのも複雑だが。

「……気楽、ねぇ…」

俺は呟きながら息を吐く。

ガイとルークの間にある友情ってヤツは、どうにも理解不能だ。

「あ。でも、逆はなー…」

「逆?」

「そう。馬鹿馬鹿しいくらいあり得ない『もしも』の話だが、逆に、お前が10才までの記憶を取り戻して、これまで5年間の記憶を失ってしまったと、仮定する」

「あぁ、逆に、か。もし、そうなら、どうする?」

「もちろん、俺の知ってるルークを返せ!って怒るだろな」

ガイは冗談っぽく言って笑った。


……あぁ、やっぱり、こいつらの友情は理解不能だ。


「もう眠るだろ?邪魔したな」

ガイはそう言うと、入ってきた窓の方へと向かう。

「あぁ、そういえば」

窓枠に足をかけた所で、ガイが振り返った。

「あれ、ラムダスさんから受け取った。ありがとな」

『あれ』?何の話だ?……まぁ、どうでもいいか。適当に話を合わせておこう。

「礼を言われる程の事じゃねぇよ」

「二日前に、頼んでくれたんだって?」

「あ、あぁ、まぁ…」

「食べてみたら、すっげぇ美味かったぜ、あれ」

「…そうか、そりゃ良かった」

俺が応えると、ガイは微笑んでから、ひらりと窓を越える。

「じゃあ、おやすみ。明日は二度寝するなよ」

「うるせー」

ガイは手を振って、消えていった。


そこで、ようやく一息。

俺は疲れていた。
ガイが予想以上にあっさりと引いてくれたおかげで、誤魔化せたようなものだった。

いつか、適当に話を合わせるのも限界が来るかもしれない。
今の内にルークに話を聞く必要があるな。

(…おい、ルーク。…ルーク?…おい、劣化野郎!)

回線が繋がらない…?

……あの馬鹿、もう眠りやがったのか…!
チャネリング時の頭痛があれば、痛みで起きただろうが…。
……仕方ない。俺ももう寝るか。


……はぁ、もう疲れた…。



翌日、朝早くから目が覚めた俺は、ベッドの上であぐらをかき、チャネリングを開始した。

本当はさっさと身支度を済ませたかったが、ガイが起こしに来るまで寝ているのがルークの作法だ。

チャネリングをすると、感心にも、ルークは既に起きていて、朝一番のダアト行きの連絡船に向かっている所らしい。


同調を深くし、ルークの目を通して景色を見る。

早朝というのに、いや、早朝だからか、朝のバチカル港は漁師や船員たちでごった返している。

(チケットは、俺の荷物の中にあっただろ?)

(あぁ…。つーかさ、一等船室じゃねぇか。贅沢だなぁ)

(隠密行動の時は違うが、今回は表向きの任務だったからな。特務師団の副師団長ならば当然だ)

(ふーん…。あれ?副って?)

(今の俺はまだ『副』師団長だ。『前』と同じなら、俺の前任が、マルクトでの任務でくたばり、もうすぐ俺に師団長の座が回ってくる…と思うが)

(じゃあ、まだ六神将じゃないんだ?)

(まだ『前』のような六神将は存在しねぇよ)

(…ふーん、そっか。…そうだよな、シンクも……)

シンク、か。

イオンレプリカの一人。烈風のシンク。
知謀に長け、譜術も使うが、格闘術を得意としていた。『前』は、神託の盾騎士団の参謀総長だったガキ。自分が生まれた事そのものを恨んだまま死んでいった。生きてる時はいけすかねぇ野郎だったが、あいつは…。

急にルークが静かになった事に気付く。

(ルーク、何を考えてる?)

(シンクたちを助けたいな、って)

(シンクねぇ…。まぁ、ヤツだけは大丈夫だろ。『前』と同じなら、ヴァンのヤツが拾う筈だ)

(それじゃあ、大丈夫じゃねぇんだよ!全員ちゃんと助けたいんだ!シンクもな!)


ちゃんと助けたい、か。
悪いが、そのお前の望みを叶えてやるつもりはねぇ。
脅威になる前にシンクを殺すって話なら別だったが。


連絡船の搭乗口に到着したルークは、そこにいた船員にチケットを見せ、階段を上っていく。

船室に向かうかと思ったが、目の前の景色が違う。

(おい、どこに行く?)

(甲板!)

………甲板?

(…何かあるのか?)

(海が見えるだろ!)

……はぁ?!

甲板に到着したルークは走り出したらしく、景色が揺れる。
ルークの姿は見えないが、はしゃいでいる事くらい分かった。

(おいっ!お前はガキかっっ!はしゃぐんじゃねぇ!!)

(海だぜ?!はしゃがずにいられるかっての!!)

俺は頭を抱えた。
『前』の時も、確かにルークは馬鹿だと思っていた。
だが、こんなに子供っぽい事で喜ぶようなヤツだったか?

(俺さ、『前』に初めて海を見た時は、夜だったんだ。月明かりを反射してて、そりゃあ静かで綺麗だったけどさ、俺は、空と同じ色の海の方が好きだったなー…)

初めて見た海、か…。
『前』に、ルークが初めて外の世界に出た時、その目で見るモノは、殆ど全て初めて見るモノだった。ルークは世間知らずだと馬鹿にされるのが嫌で、初めて見るモノへの感動を極端に押さえ、興味がない、あるいは、無感動なフリをしていた。

『前』のルークはそんなヤツだった。だが、感情を抑制しない今のルークが、本当の…。

(アルビオールから海を見るのも好きだったなー…。今度の初めての海は夜じゃなくてラッキーだったかも!)

などと、ルークの言葉は続く。

(ぅあ!でも朝日が眩しすぎて、まだあんま青くねぇや!)

ルークの見る海が、見えた。

水平線に朝日が昇ろうとしている。海は太陽の光を反射し、いつもよりも眩しく見えた。

(俺、思うんだけど、朝日ってさー、空の真ん中が切れて、そっから太陽が零れてきてるみたいだよなぁ……)

太陽が零れる?

朝日をどう見れば、そんな表現になるのか理解不能だ。

だが、ルークの瞳を通して見る海は、こんなに綺麗なのか……。

(ははは、悪ぃ。はしゃぎすぎた。もう船室に戻るわ)

(…いや、こういうのも、たまには悪くない)

(え?…そ、そうか?)

(あぁ)

(そっか…、うん、そっか、そうだな…)

ルークは何かを納得したのか、動かなかった。
出航の知らせが届くまで、甲板から黙って海を見ていた。


俺は自分の言葉を反芻する。

『こういうのも、たまには悪くない』

そう思える『今』の自分、『前』とは違う自分に、俺は俺自身でも驚きながら、
それでも何故か、少しマシになれたと思えた。


(そういえばさ、何か用事だったんじゃねーの?)

そうルークに問われるまで、俺はすっかり忘れていた。……不覚だ。

(俺は、この屋敷で、お前を演じなきゃならない。だが、周りの人間…特に、ガイを騙すのは難しい。それで、現在のお前の状況を聞いておこうと思っただけだ)

(現在の状況っつってもなー…。お前、演技できんの?もー開き直って、記憶取り戻しマシタで良いんじゃね?)

(良い訳あるかボケがッッ!)

(……じゃー、部屋に引き込もってりゃ良いじゃん)

(お前が帰ってくるまでの間とは言え、それだけでは無理だ)

ルークの返事がない。

(おい、ルーク?…ルーク!!)

(へっ?あ、あぁ、悪ぃ。…まぁ、そうだよなー…)

(ところで、昨夜、ガイに言われたんだが)

(ガイに?)

(ラムダスから何か受け取ったと言っていたな。礼を言われたぞ。お前が2…3日前に頼んだとか。一体何の事だ?)

(……3日前?っっあーーーーっ!!!!!)

俺は驚いて耳を塞いだ。いや、耳を塞いだ所で意味はないが。

(うわぁ!アッシュ、ごめん!俺、すっかり忘れてた!!もう必要なかったから、ガイにあげといてって言ったんだ!よく考えたら、俺、すっげー変な事しちまったかも!!)

(…落ち着け。一体何をガイに渡したんだ?)

(音機関の部品だよ!)


………何だと?


昨夜、ガイは言わなかったか…?

『食べてみたら、すっげぇ美味かったぜ』と。


……あの野郎、俺をハメやがったのか…!!!


俺は、ガイに怒りを覚えた直後、自分の間抜けさを知り、自己嫌悪に陥った。




※※※続きます※※※



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