忍者ブログ

AL逆行itsbetween1and0/10


アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.10話・アッシュ編04「左手は使わない」です。


※※ 今回はアッシュ編です ※※





第.10話・アッシュ編04




ガイが治癒師を連れて戻ってきた。……予想より早くて助かった。

「お前、自分で治癒術を使ってはいないだろうな?」

ガイが俺の顔を覗き込む。
俺はルークじゃねぇから、自分で治癒できるはずねぇよ。と言い返したいが、黙っておくか。
とにかく、今はルークのフリをするしかない。…ちっ、面倒な事だな。

「…おかげで痛みがひかねぇよ」

ガイは俺の頭をくしゃくしゃ撫でてから、
治癒師に「頼む」とだけ言って、部屋を出て行った。


治癒師が治療を終えてすぐ、俺はルークにチャネリングした。

力いっぱい怒鳴りつけて、うさを晴らしてから、俺は自分が考えていた事を、ルークに伝えた。ルークは素直に喜び、『ありがとう』と応えた。顔を見なくても、ルークがどれほど喜んでいるのか、手に取るように分かった。

だから、良心が、痛んだ。

あいつをダアトにあるレプリカ研究所に案内するつもりはない。俺は、あいつを違う場所へ誘導し、あいつ自身の目で確認させ、研究所は引き払った後だと説明し、イオンレプリカ救出を諦めさせるつもりだ。
俺が掴んだ情報が正しければ、既に、被験者とレプリカの入れ替えは完了している頃だ。
研究所にさえ近付かせなければ、危険はないだろう。

単純なあいつを騙すのは簡単だが、
もしも、俺に騙されたとあいつが知れば、…怒るだろうか。
それとも、泣くだろうか。そして、俺を軽蔑するだろうか。

だが、ルークの怒りは大きければ大きいほど良いのだろう。そうすれば、俺に文句を言いに、すぐ帰って来る筈だ。騙したなとか最低だとか喚き散らしながら。そこで、烈破掌でも崩襲脚でもいいから叩き込んで、取っ捕まえてやる…!

そんな考えを悟られないように注意しながら、ルークに、昼間に取っていた宿の位置を伝え、チャネリングを一度終了した。あいつが宿に着いたら、譜術を教えて、髪の色を変えさせなければならない。

……あぁ、面倒だ。


……ん?外が騒がしいな…。


部屋を出ると、
中庭には、数名の白光騎士とガイ、そして、ガウンを羽織った父上がいた。

……あぁ、懐かしいな。
かつて畏怖すら覚えた父上の背中が、今日は何故か、小さく見える。

「賊はまだ見つからぬのか!?」

その父上の言葉を聞き、俺は、はっとした。

……あぁ、くそ!またルークの尻拭いか!!

「父上」

小さなステップを降りて、父上の前まで歩を進める。

「おぉ、ルーク、身体はもう良いのか?」

全面に広がる安堵の表情。賊に倒された失態を罵られるかと考えていたが…。
レプリカのルーク…いや、記憶を失った憐れな息子には、こんな表情を見せるのか……。

「ご心配をおかけしました、父上」

「お前が無事で何よりだ。今、賊を追わせている」

「そうですか。では、これより一切の捜索を打ち切って下さい」

「…な……っ!」

俺の言葉に驚いたのは、父上だけではなかった。
事の成り行きを見守っていた白光騎士やガイも驚いている。

「いえ、言葉が過ぎました。申し訳ありません、父上。捜索打ち切りをお願いしても、差し支えありませんか?」

一番の被害者である筈の『ルーク』の言葉を聞き、真意を理解できずに、誰もが息を飲む。

「何を言う?捜索は続行だ。公爵家の威信にかけてな」

「威信に関わるならば、尚の事、打ち切って下さい」

父上が目を細めた。俺は構わず、言葉を畳み掛ける。

「精鋭揃いである白光騎士団の警備を突破され、しかも、このルーク・フォン・ファブレが、たかが賊一匹に後れを取り、負傷した。その事実は、ファブレ公爵家の威信を損ないます。まだ白光騎士が捜索しているだけの今ならば、噂は立てられても、揉み消す事くらい可能でしょう」

「…しかし……」

不意に、驚くガイと目があった。
…しまった。この言い方では、ルークらしくなかったか。
だが、今は、大事の前の小事。
らしかろうがなかろうが、続けるしかない。

「この騒ぎの原因は、これで充分でしょう」

俺は片手を上げ、譜陣を展開させた。
誰もが驚く中、俺は注がれる視線を無視して、

「……雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け」

譜術を発動させる。

「サンダーブレード!!!」

青白い稲妻が落ち、辺りが真っ白になるほど輝いた。

乱れた前髪を掻き上げ、その場の全員を睨み付ける。
その後で、これもルークらしい動作ではないと思ったが、……もう遅い。
まぁ、譜術の威力に驚く今は、誰も気にしないだろう。

「公爵子息が譜術を独学で勉強中、誤って暴走させ、自ら負傷。白光騎士は、賊が侵入したと誤認。捜索開始直後に、真相が明らかとなり、捜索を打ち切り。多少、無理はあるでしょうが、筋は通ると考えます。……いかがでしょうか?」

もはや、脅しに近いな。
だが、何としても、俺の提案を受け入れさせるしかない。

下手にルークに追手がかかっても困る。
警備していた白光騎士やガイたちの落ち度を追求され、処分されても困る。

…尤も、処分されようがどうしようが、俺は困らない…が。

「先程の譜術…。まさか、昼間の騒ぎはお前の仕業か?」

昼間?何の事だ?………まぁ、いい。

「そのように周知される事で、穏便に片付くなら、そのように解釈して下さっても俺は一向に構いません」

何の事か分からないが、こう言っておけば問題ないだろ。

「…ふむ、お前がそこまで言うならば……」

「我儘をお聞き下さり、ありがとうございます。今回の騒動は、俺が賊ごときに後れを取った為に起こった事。責を負うべきは俺一人。どのような処分も覚悟の上です。その代わり、他の者への処分は、何卒ご容赦願います」

俺が父上に頭を下げ、父上は俺の意を汲んでか、うむ、とだけ応えた。

「夜遅くにお前達にも手間をかけさせた。すまない」

ガイと白光騎士たちに謝る。
僅かに動揺する彼らを見て、……しまった、と、後悔した。
今は、ルークを演じなければいけない時だった。
ルークならば、このように言わなかったかもしれない。

……あぁ、もう、グダグダだ。


俺にルークを演じるのは無理に決まってるだろうが、あの屑が!!!!


「では、俺はこれで失礼致します。おやすみなさい、父上」

開き直って手短に挨拶し、俺は部屋に退散した。


ルークからコンタクトがあった。
宿屋に着いたらしい。
チャネリングで、ルークの髪の色を変えようと、ガキでも分かるくらい懇切丁寧に譜術を教えてやったのに、あまりにも不器用すぎるルークに呆れる。ルークは『疲れた』と言っていたが、疲れたのはこっちの方だ、あの劣化野郎…!

チャネリングを終え、俺はベッドに突っ伏して、これからの事を考える。
これから毎日ルークを演じなければならない。


……前途多難な響きだ。


先程の数々の失敗を考えると、自己嫌悪に陥った。

ルークと近しい人物には、近づかないようにしなければ。
その中でも、ガイは特に注意しなければいけない。

『前』と同じならば、ガイはまだヴァンの同志だ。ホド島を攻撃しガルディオス家を滅ぼした父上を憎んでいる。ガイは、ルークを監視している筈だ。もし、少しでも異変を悟られ、ヴァンに報告されれば…。危険なのは、間違いなく、あの馬鹿の方だ。

「…ガイ…か……」

要注意人物だ。細心の注意を払わなければ。そう言いかけた時、

「俺の名前を呼んだか、ルーク?」

ガイが窓から顔を出した。
驚いて体を起こすと、当たり前のようにガイが窓から入ってくる。

「まだ起きてたのか。お前にしちゃ珍しいな」

ルーク、それに、ガイ…、お前らの主従関係は『前』と変わらずという訳か…。
俺としては、主従の線引きは、大切だと思うぞ。

あぁ、忘れていた。ルークのフリをしなければ。面倒な事だ。

「どうしたんだよ、ガイ?何か用か?」

「いや、ちょっとな」

ベッドの上に座る俺の傍に寄ると、目線を合わせる。

昔と変わらない、秋の穂のように金色に輝く髪。
晴れた日の海のような青い瞳。人懐っこい笑み。

この人の良さそうな青年のどこに、復讐などという激しい狂気が隠れているのだろう。

「ルーク、お前さ、」

「何だよ?」


「記憶を取り戻したのか?」


俺は驚いて目を見開いた。やはり、既に疑われていた。
言動がいつもと違う、おかしい、そんな事を言うつもりか?

だが、それくらいならば、いくらでも言い逃れ出来るんだよ。

「…いいや。どうして、そう思うんだ?」

いきなりガイに左腕を掴まれる。ガイが引き寄せる力の強さに、思わず、眉を寄せた。

「何するんだ…っ!」


「お前は譜術を使う時、左手は使わない」


ガイの顔からは、笑みが消えていた。



認識を改める。

ガイ・セシルは、最も危険な人物だ。





※※※ 続きます ※※※

次回からは、ガイ編です。少しだけ過去に遡ります。



PR