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AL逆行itsbetween1and0/09


アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.09話・ルーク編07「王家が吸った敵の血の色」です。


※ 今回はルーク編です ※





第.09話・ルーク編07




とにかく、冷静に。冷静に、だ。アッシュっぽく。とにかくアッシュっぽく。
…アッシュっぽくって、どういう感じだ?

うぁー…考え出したら余計に訳分かんなくなってきた…。

俺は考えすぎて訳が分からなくなりながらも、
昇降機から降りて、見張りのバチカル兵の横を通り過ぎる。


うん。大丈夫。バレてねぇ。


俺は、バチカル広場を通り抜け、港へ向かわなきゃいけないと、冷静に考えようとした。
でも、まだドキドキが収まらない。挙動不審になってない…よな?

夜のバチカル広場は、昼間ほどじゃないけど、まだ人も多かった。

多くの店にはまだ灯りが点いてて、沢山の人が騒いでる。子供だからと言われて『前』の時も教えてくれなかったけど、俺だって、あれらがどんな店かくらい、知ってる。大人が集まって酒を飲む店だ。王侯貴族の邸宅が並ぶ上階にはないけれど、バチカル広場くらいの階層には、こういう店も多いらしい。さらに下の階には、もっと多いとかガイが言ってたけど、詳しい話は教えてくれなかった。

俺は階上を見上げる。

「アッシュ、大丈夫かな…」

思わず出た自分の言葉に驚き、慌てて頭を振って振り払った。

いいや、自業自得なんだよ、あの分からず屋!!!
アッシュの馬鹿野郎!!!!ざまーみろ!!!
烈破掌をガードなしで受けて、すげぇ痛そうだったけど、俺は謝らねぇからな!!!

俺は自分が着ている、アッシュの法衣を見た。
法衣のくせに、なかなか防御力が高そうだ。



あの時、俺はイオンレプリカ達を助けたいと思った。

軟禁から抜け出せない事を理解して、すげぇショックを受けた。
自由に動ける筈のアッシュには、最初から、イオンレプリカ達を助ける気なんてなかった。

だったら、やっぱり、俺が行くしかない。

そう考えた時、自分で言うのもアレだけど、
天才か!っつーくらい、すっげぇ良いアイディアが閃いた。

『ルーク』は『軟禁』されていなければいけない。
でも、その『ルーク』は、俺じゃなくても、アッシュでも良い筈だ。


俺はアッシュを烈破掌で昏倒させた後、
アッシュに俺の夜着を着せ、俺はアッシュの法衣に着替えた。

グローブとかブーツとかちょっと大きい気もしたけど、
アッシュも成長期だし、実際より少し大きめのサイズを着ているのかもしれない。
髪の色や顔を見られるのはマズイかもと思って、
フード付きのマントを、クローゼットから取り出した。
まぁ、真っ白で縁に赤い刺繍が入ってて、
目立つし、アッシュっぽくない気がしたけど、仕方がない。

お気に入りの剣を腰に差して、

部屋の窓から出ると、ロープを回し、屋敷を囲う柵を乗り越えた。


そこで、こっそり練習中だった上級譜術サンダーブレードを、敷地内に向かって放った。

光と音に驚いた巡回中の騎士たちが、すぐにやってきた。
最初は怪しまれたけど、俺がマントの前を少し開いて、法衣の紋様を見せると、
「ローレライ教団の詠師様でしたか!失礼致しました!」って、いきなり敬礼された。法衣の威力は、やっぱりすげぇ。

「気に病む事はない。ファブレ公爵家の白光騎士団の者か?先程、何者かが向こうの昇降機へ走って行くのを見かけたが、何者かを追跡している最中なのか?」

アッシュっぽく言って、反対側の昇降機を示すと、

「ご協力、感謝致します!」

騎士たちはそう言って、反対側の昇降機の方へ走っていった。


そのおかげで、俺は堂々とバチカル広場直通の昇降機に乗れたって訳だ。



バチカル広場を通り抜け、港行きの天空客車に乗る。

そこで、ようやく、落ち着いた。
はー…と溜め息。肺の中に溜まってた空気が全部出尽くした気分。

「すっげぇドキドキした…。でも、俺もやれば出来るじゃん」

港に行ったら、次のダアト行きの連絡船に乗ろう。あれ?夜も連絡船って出てたっけ?
まぁ、いっか。とりあえずチケットを買って、港で待てば良いよな。
『前』にタタル渓谷に飛ばされた時みたいに、無一文って訳じゃねぇし。
連絡船のチケットの買い方も、宿帳の書き方も分かる。

何気にすげぇじゃん、俺。


(こンの屑がぁぁあああぁぁああああ!!!!)


突然響いたアッシュの声に、俺は驚いて耳を塞いだ。
耳を塞いでも意味ないんだけど、つい…。

…つーか、チャネリングの事、すっかり忘れてた。

(あ、あははは、アッシュ、目ぇ覚めた?)

(目ぇ覚めたじゃねぇ!!この屑が!暴走しやがって!!)

(身体、大丈夫だったか?怪我は…)

(かすり傷だ!このくらい、どうって事ねぇ!!!)

…はー、良かった。もしかしたら肋骨イったかと思ってたけど。さすがアッシュだな。

(今、どこにいる?)

(言えねぇ)

(追手を差し向けたりしねぇから、言え)

(……天空客車。港に向かってる)

(ダアトに行くつもりか?)

(止めんなよ。俺は行くからな)

(……分かった)



 へっ?



俺は驚いて、一瞬、頭が真っ白になった。
だって、絶対に怒鳴られて罵られて止められると思ってたし。

(ダアトに行って、イオンレプリカどもを確認したら、すぐに戻って来い。どうせ止めたって、お前は行くんだろ)

(…い、いいのか?)

(悪いと言えば、お前は戻ってくるのか?)

……なんつーか、

(アッシュが優しくて、うすきみわりぃ…)

(お前は一言余計なんだよ!!!!!)

うわぁああ!やっべぇ、めちゃくちゃ怒ってる…!

(……まぁ、いい。お前は今のダアトの事も、イオンレプリカどもがどこにいるのかも、全く知らねぇだろ?)

(…う、うん。調べなきゃいけないよな)

(俺が知ってる。俺がチャネリングで指示してやるよ)

(え!?いいのか!?)

(仕方ねぇだろ。土地勘のない所を俺の面でウロウロされて、何かヘマなんざしやがったら、後で俺が迷惑だ)

(うん、ありがとう、アッシュ!)

アッシュが協力してくれる!!これって、すっげぇ凄い事じゃねぇか?!

(ただ、まだ間に合うかどうかは、知ったこっちゃねぇがな)

(それで良いよ!ありがとう、アッシュ!)

間に合うかどうかは、分からない。
でも、ちょっと希望が見えてきた気がした。俺一人じゃあ、正直ちょっと不安だったんだ。
でも、アッシュが力を貸してくれる。何でも出来そうな気がする。

(とりあえず、港に着いたら、東地区へ行け)

(へ?なんで?)

(そこで宿を取っている。俺の荷物もある筈だ。それに、お前の髪の色をどうにかしねぇといけねぇしな)

(髪?あぁ、赤って目立つもんな)

(目立つ所の話じゃねぇ。王位継承権にも関わる色だしな)

…あぁ、そういえば、聞いた事あるかも。赤い髪と緑の目を持つキムラスカ王族に、王位継承権の優先性があるとか、何とか…。まぁ、俺にはよく分かんねぇけど。

(普段、俺は髪の色を変えて、顔を隠して過ごしている)

(え?でも『前』は…)

(あの頃はヴァンの計画が始まっていた事もあって、面倒くさくて開き直っていただけだ。ヴァンの計画が成就すれば、この忌々しい髪の色も、関係なくなると信じていたからな)

忌々しいって…。

(……忌々しいとか言うなよ)

(この色はな、キムラスカ王家が吸った敵の血の色なんだよ。預言に頼り、血を流す事もいとわない、忌々しい血の色だ)

(違う!)

(あぁ、違うさ。お前は俺と違って、血の色じゃねぇしな)

俺は、アッシュに何て言えば良いのか分からなかった。アッシュは自分の髪の色が嫌いだったんだ。俺は、父上や母上と同じ深紅の色で羨ましいな、って、ずっと思ってた、のに…。

(まぁ、今はそんな事はどうでも良い。俺が指示する通り譜術を使えば、色くらい変えられる)

(…あ、うん、ありがとう)



それから。

俺はアッシュが取っていた宿で、また「この屑が!」という怒鳴り声を聞いていた。


色を変える譜術を何度使っても、成功しなかったからだ。
今は、5度目の失敗の後。俺の髪の色は、マーブル模様になっていた。

(何故お前はそんなに不器用なんだ!?)

(知らねぇよ!…つーか、もう疲れた。眠ぃよ……)

(…ちっ)

うわぁ…チャネリングで舌打ちされた……。……地味に傷付くんだけど…。


結局。

イオンレプリカ達の確認だけだから、すぐに帰るって事で、
それまで、マントのフードで隠し通す事になった。


…うーん、前途多難な気がしてきた。





※※※ 続きます ※※※



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