AL逆行itsbetween1and0/09 AL長編/it's between 1and0 2012年07月21日 アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0 第.09話・ルーク編07「王家が吸った敵の血の色」です。 ※ 今回はルーク編です ※ 第.09話・ルーク編07 とにかく、冷静に。冷静に、だ。アッシュっぽく。とにかくアッシュっぽく。 …アッシュっぽくって、どういう感じだ? うぁー…考え出したら余計に訳分かんなくなってきた…。 俺は考えすぎて訳が分からなくなりながらも、 昇降機から降りて、見張りのバチカル兵の横を通り過ぎる。 うん。大丈夫。バレてねぇ。 俺は、バチカル広場を通り抜け、港へ向かわなきゃいけないと、冷静に考えようとした。 でも、まだドキドキが収まらない。挙動不審になってない…よな? 夜のバチカル広場は、昼間ほどじゃないけど、まだ人も多かった。 多くの店にはまだ灯りが点いてて、沢山の人が騒いでる。子供だからと言われて『前』の時も教えてくれなかったけど、俺だって、あれらがどんな店かくらい、知ってる。大人が集まって酒を飲む店だ。王侯貴族の邸宅が並ぶ上階にはないけれど、バチカル広場くらいの階層には、こういう店も多いらしい。さらに下の階には、もっと多いとかガイが言ってたけど、詳しい話は教えてくれなかった。 俺は階上を見上げる。 「アッシュ、大丈夫かな…」 思わず出た自分の言葉に驚き、慌てて頭を振って振り払った。 いいや、自業自得なんだよ、あの分からず屋!!! アッシュの馬鹿野郎!!!!ざまーみろ!!! 烈破掌をガードなしで受けて、すげぇ痛そうだったけど、俺は謝らねぇからな!!! 俺は自分が着ている、アッシュの法衣を見た。 法衣のくせに、なかなか防御力が高そうだ。 あの時、俺はイオンレプリカ達を助けたいと思った。 軟禁から抜け出せない事を理解して、すげぇショックを受けた。 自由に動ける筈のアッシュには、最初から、イオンレプリカ達を助ける気なんてなかった。 だったら、やっぱり、俺が行くしかない。 そう考えた時、自分で言うのもアレだけど、 天才か!っつーくらい、すっげぇ良いアイディアが閃いた。 『ルーク』は『軟禁』されていなければいけない。 でも、その『ルーク』は、俺じゃなくても、アッシュでも良い筈だ。 俺はアッシュを烈破掌で昏倒させた後、 アッシュに俺の夜着を着せ、俺はアッシュの法衣に着替えた。 グローブとかブーツとかちょっと大きい気もしたけど、 アッシュも成長期だし、実際より少し大きめのサイズを着ているのかもしれない。 髪の色や顔を見られるのはマズイかもと思って、 フード付きのマントを、クローゼットから取り出した。 まぁ、真っ白で縁に赤い刺繍が入ってて、 目立つし、アッシュっぽくない気がしたけど、仕方がない。 お気に入りの剣を腰に差して、 部屋の窓から出ると、ロープを回し、屋敷を囲う柵を乗り越えた。 そこで、こっそり練習中だった上級譜術サンダーブレードを、敷地内に向かって放った。 光と音に驚いた巡回中の騎士たちが、すぐにやってきた。 最初は怪しまれたけど、俺がマントの前を少し開いて、法衣の紋様を見せると、 「ローレライ教団の詠師様でしたか!失礼致しました!」って、いきなり敬礼された。法衣の威力は、やっぱりすげぇ。 「気に病む事はない。ファブレ公爵家の白光騎士団の者か?先程、何者かが向こうの昇降機へ走って行くのを見かけたが、何者かを追跡している最中なのか?」 アッシュっぽく言って、反対側の昇降機を示すと、 「ご協力、感謝致します!」 騎士たちはそう言って、反対側の昇降機の方へ走っていった。 そのおかげで、俺は堂々とバチカル広場直通の昇降機に乗れたって訳だ。 バチカル広場を通り抜け、港行きの天空客車に乗る。 そこで、ようやく、落ち着いた。 はー…と溜め息。肺の中に溜まってた空気が全部出尽くした気分。 「すっげぇドキドキした…。でも、俺もやれば出来るじゃん」 港に行ったら、次のダアト行きの連絡船に乗ろう。あれ?夜も連絡船って出てたっけ? まぁ、いっか。とりあえずチケットを買って、港で待てば良いよな。 『前』にタタル渓谷に飛ばされた時みたいに、無一文って訳じゃねぇし。 連絡船のチケットの買い方も、宿帳の書き方も分かる。 何気にすげぇじゃん、俺。 (こンの屑がぁぁあああぁぁああああ!!!!) 突然響いたアッシュの声に、俺は驚いて耳を塞いだ。 耳を塞いでも意味ないんだけど、つい…。 …つーか、チャネリングの事、すっかり忘れてた。 (あ、あははは、アッシュ、目ぇ覚めた?) (目ぇ覚めたじゃねぇ!!この屑が!暴走しやがって!!) (身体、大丈夫だったか?怪我は…) (かすり傷だ!このくらい、どうって事ねぇ!!!) …はー、良かった。もしかしたら肋骨イったかと思ってたけど。さすがアッシュだな。 (今、どこにいる?) (言えねぇ) (追手を差し向けたりしねぇから、言え) (……天空客車。港に向かってる) (ダアトに行くつもりか?) (止めんなよ。俺は行くからな) (……分かった) へっ? 俺は驚いて、一瞬、頭が真っ白になった。 だって、絶対に怒鳴られて罵られて止められると思ってたし。 (ダアトに行って、イオンレプリカどもを確認したら、すぐに戻って来い。どうせ止めたって、お前は行くんだろ) (…い、いいのか?) (悪いと言えば、お前は戻ってくるのか?) ……なんつーか、 (アッシュが優しくて、うすきみわりぃ…) (お前は一言余計なんだよ!!!!!) うわぁああ!やっべぇ、めちゃくちゃ怒ってる…! (……まぁ、いい。お前は今のダアトの事も、イオンレプリカどもがどこにいるのかも、全く知らねぇだろ?) (…う、うん。調べなきゃいけないよな) (俺が知ってる。俺がチャネリングで指示してやるよ) (え!?いいのか!?) (仕方ねぇだろ。土地勘のない所を俺の面でウロウロされて、何かヘマなんざしやがったら、後で俺が迷惑だ) (うん、ありがとう、アッシュ!) アッシュが協力してくれる!!これって、すっげぇ凄い事じゃねぇか?! (ただ、まだ間に合うかどうかは、知ったこっちゃねぇがな) (それで良いよ!ありがとう、アッシュ!) 間に合うかどうかは、分からない。 でも、ちょっと希望が見えてきた気がした。俺一人じゃあ、正直ちょっと不安だったんだ。 でも、アッシュが力を貸してくれる。何でも出来そうな気がする。 (とりあえず、港に着いたら、東地区へ行け) (へ?なんで?) (そこで宿を取っている。俺の荷物もある筈だ。それに、お前の髪の色をどうにかしねぇといけねぇしな) (髪?あぁ、赤って目立つもんな) (目立つ所の話じゃねぇ。王位継承権にも関わる色だしな) …あぁ、そういえば、聞いた事あるかも。赤い髪と緑の目を持つキムラスカ王族に、王位継承権の優先性があるとか、何とか…。まぁ、俺にはよく分かんねぇけど。 (普段、俺は髪の色を変えて、顔を隠して過ごしている) (え?でも『前』は…) (あの頃はヴァンの計画が始まっていた事もあって、面倒くさくて開き直っていただけだ。ヴァンの計画が成就すれば、この忌々しい髪の色も、関係なくなると信じていたからな) 忌々しいって…。 (……忌々しいとか言うなよ) (この色はな、キムラスカ王家が吸った敵の血の色なんだよ。預言に頼り、血を流す事もいとわない、忌々しい血の色だ) (違う!) (あぁ、違うさ。お前は俺と違って、血の色じゃねぇしな) 俺は、アッシュに何て言えば良いのか分からなかった。アッシュは自分の髪の色が嫌いだったんだ。俺は、父上や母上と同じ深紅の色で羨ましいな、って、ずっと思ってた、のに…。 (まぁ、今はそんな事はどうでも良い。俺が指示する通り譜術を使えば、色くらい変えられる) (…あ、うん、ありがとう) それから。 俺はアッシュが取っていた宿で、また「この屑が!」という怒鳴り声を聞いていた。 色を変える譜術を何度使っても、成功しなかったからだ。 今は、5度目の失敗の後。俺の髪の色は、マーブル模様になっていた。 (何故お前はそんなに不器用なんだ!?) (知らねぇよ!…つーか、もう疲れた。眠ぃよ……) (…ちっ) うわぁ…チャネリングで舌打ちされた……。……地味に傷付くんだけど…。 結局。 イオンレプリカ達の確認だけだから、すぐに帰るって事で、 それまで、マントのフードで隠し通す事になった。 …うーん、前途多難な気がしてきた。 ※※※ 続きます ※※※ ※ PR