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AL逆行itsbetween1and0/08


アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.08話・アッシュ編03「未来で幸せを感じる可能性」です。






第.08話・アッシュ編03



どこか遠くから、騒がしい音が聞こえてくる。

ひどく不確かな音だとぼんやり考えていたら、
その音の正体が、少しずつはっきりとしてきた。

金属の音…フルプレートアーマーの音だ。それも、かなり多い。
兵士…いや、ここはファブレ邸だ、白光騎士団の騎士…か?

「賊はあっちへ逃げたそうだ!」
「追え!逃がすな!!」
「ルーク様はお部屋か!?」
「公爵様や奥様の安否確認も急げ!」

賊だと…?まさか、俺が侵入した事がバレたのか?
そんなヘマをした覚えはないが…。

身体を動かしたいが、肋骨のあたりが痛む。
折れてはなくても、ヒビくらいは入っているかもしれない。
逃げるべきか?
いや、ここにいて動かない方が得策か?
ルークが上手く誤魔化してくれる事に賭けて、
痛みが治まるまで、どこかに身を潜めるべきだろう。


……ルークはどこだ…?


意識が朦朧としていて、考えが上手くまとまらない。

何か悪い事が起きている。それは分かるが、何が起きているのか分からない。


「ルーク!!!」

悲痛な声が聞こえ、顔だけ動かして見ると、
ガイが肩で息をしながら、こちらへ向かって来ていた。
顔を真っ青にして、走り寄る。

そして、俺の顔を覗き込んだ。

「ルーク、しっかりしろ!どこか痛むのか!?」

何を言ってやがる…?俺をルークと勘違いしてるのか…?
確かに、顔は同じだが…。



その瞬間、

俺の意識は一気に浮上し、意識を失う前の事を、はっきりと思い出した。





俺が意識を失う前、

俺とルークは、イオンレプリカ達の救出の件で、真っ向から意見を対立させた。


俺は、被験者とレプリカの入れ代わりを見過ごし、そして、不要とされた他のイオンレプリカ達を、黙殺しようと考えていた。

入れ代わりを阻止する必要は元よりない。
被験者イオンは12才で死ぬ。それは避けようがない。だが、導師イオンという存在は必要だ。その為には、イオンレプリカは絶対に必要だった。

他のイオンレプリカ達の処分を黙認した理由は、単純だ。
彼らに生きていてもらっては困るからだ。

導師イオンは、ダアト式譜術という特別な譜術を使える。『前』は、たった一人のイオンレプリカだけが、そのダアト式譜術を使う事が出来た。
外郭大地崩落を計画していたヴァンにとって、最もやっかいだったのは、パッセージリングに施されていた、ダアト式封咒。その封印を解く為に、俺たち六神将に、導師イオン奪取という任務さえ与えていた。つまり、あの時点で、導師イオンを守り抜き、パッセージリングに施されたダアト式封咒を守れば、ヴァンがパッセージリングに侵入する事は、回避できた。

あの悪夢……アクゼリュス崩落も、回避できた筈だ。

だが、もしも、他のイオンレプリカ達が、
そのダアト式譜術を、完全ではないにしても使えたとしたら?

俺には、そんな不安要素を残す危険な真似までして、
廃棄予定のイオンレプリカ達を生かす事は、出来なかった。

尤も、被験者イオンのレプリカ情報が、一番やっかいだ。レプリカ情報さえあれば、何体でもレプリカを造れる。だが、それは計画成功にヤツらが油断している隙を見計らい、処分する予定だった。
その隙を作る為にも、廃棄処分までは計画通りに進んでいると、思わせておきたかった。それに、イオンレプリカ計画の最中に動き、大詠師モースやヴァンに何かを気取られても困る。


そんな俺の考えを、ルークのヤツは、真っ向から否定しやがった…!!!


「アッシュ!利用する為に造られて、不要だから棄てられるような、そんな命があって良い訳ないだろ!!!」

…あぁ、その通りだ。俺だって、何が正しいのか知っている。

俺には、自分の考えが正しいと胸を張って言えるような傲慢さはない。
自覚はあるんだ。
同じ命を持つ彼らを見殺しにする、自分の卑怯さを。

「アッシュ!間に合うなら、イオンレプリカ達を助けよう!…いいや、助けなきゃいけないんだ!利用する為に造られて、世界の事も何も知らないまま、ただ捨てられて殺されるなんて、絶対にダメだ!!!生まれて、そして、生きていく事が出来る。それが幸せな事だって知らないまま、死ぬなんて…!」

ルークは必死だった。こいつは、過去の自分と重ねているんだろう。

「……生きる事が幸せな事だとは限らねぇだろうが」

廃棄予定であったとしても、導師イオンのレプリカだ。
生き延びても、普通の幸せなんて望めない。
せいぜい計画に巻き込まれて、利用されるのがオチだ。

ルークを見る。
ヤツは、今にも泣きそうな表情で、それでも、必死に涙を堪えていた。

「…そうだよ!生きるのは、辛かったし、苦しかった!死ぬしか価値がないって、馬鹿なこと考えたりもした!でも、こんな俺でも、幸せだって感じられたんだ!誰だって、未来で幸せを感じる可能性を持ってるんだ!!死んで良い理由なんてないんだ!!!」

あぁ、こいつは本当に馬鹿だ。
俺の『望み』、何よりも大切な『望み』さえなければ、
俺は、こいつにほだされていたかもしれない。

…だが、悪いな。

少しでも俺の『望み』を叶える障害になるならば、
俺は、世界中のヤツらを敵に回しても、切り捨ててやる。

「ルーク、」

俺がルークを睨み返すと、ルークが小さく息を飲んだ。
俺の気持ちを悟ったのだろう。

「ルーク、俺は、イオンレプリカ達を助けるつもりはねぇ」

「…お前……っ!」

ルークは俺から、一歩、後退さった。俺は構わず続ける。

「今動いて、モースやヴァンに気取られては困るからな。お前もせいぜい気取られないよう、屋敷で大人しくしてろ」

ルークは腰が抜けるようにして、その場に座り込んだ。
これ以上は反論できない筈だ。
ここまで説明して分からないほど、こいつは馬鹿じゃない。

「…くそっ!くそっ!くそっ!……ちくしょぉ…!!」

ルークは拳で床を叩き続けた。
そんなに力任せに叩いたら、手を痛めてしまう。
そんな事を考えても、俺にはルークを止められなかった。


ルークは正しい。
だが、今それを認めては、俺の『望み』が危うくなる。
馬鹿なのは、俺の方なんだ。


気付くと、ルークの動きが止まっていた。
ルークは自分の剣に視線を落とし、じっと見つめている。




何故だ!!!!


何故、その時、俺はルークの異変に気付けなかったんだ!!!






「ルーク、しっかりしろ!」

ガイ・セシルは、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
どうやら俺をルークだと思っているらしい。

「どこか痛むんだな!?侵入者に何かされたのか!?」

「……っつ…!」

無理に身体を動かして、確認する。
俺はルークの部屋で、ルークの夜着を着て、倒れていたのだ。
ガイが勘違いしてもおかしくない状況だった。

「…くそっ!」

ルークの野郎、謀りやがったな!!!
俺をルークに仕立てて身代わりにし、この屋敷の軟禁から、抜け出しやがった…!

騎士たちが言っていた『賊』は、ルークの事だったのか!

最後にあいつの姿を見たのは、
あいつが、俺に向けて、至近距離で烈破掌を撃ち込んだ時だ。
肋骨が痛むのは、突然の事で、ガード出来なかったせいか。
だが、今は身体の事なんざ、どうでもいい!

あいつをダアトに行かせる訳にはいかねぇ!!!

「おいっ、ガイ!」

ガイの方に顔を向けた時、俺は、ルークの計算にハメられた事を、知った。

ガイは、この時点で、ヴァンと繋がっている。しかもファブレ公爵への復讐を誓い合った仲だ。ここで俺とルークが入れ代わった事を知られる訳にはいかねぇ。

「どうした、ルーク?」

「…何でもねぇ!」

どうすればいい?どうすれば、ルークを連れ戻せる?!
あの馬鹿を危険に晒す訳にはいかねぇんだ!!!

「ルーク、立てるか?」

ガイに促されて立ち上がろうとしたが、身体が痛んで、上手く動かせなかった。
それを知ったガイが俺を抱き上げ、ベッドに寝かせる。

「痛むだろうが、ちょっと待ってろ。治癒師を呼んでくる。自分で治癒術を使うなよ。術に失敗すれば悪化する」

部屋の外にいた白光騎士団の騎士たちに声をかけ、ガイは中庭を通って、屋敷の方へ戻っていった。

「俺に『ルーク』を演じさせるつもりか、あいつは…!」

混乱して優先順位を見失いかけていた俺は、
思わず発していた自分の言葉に、今すべき事を悟る。

俺とルークの髪の色は、同じように見えるが、少し違う。
俺の髪は、鮮血のような赤。
だが、あいつの髪は、夕陽のような赤。
しかも、毛先は少し色素が薄く、金色に輝いて見える。

陽に透かして見なければ分からない程度の微妙な差異。

だが、決定的な差異だ。
見るべき者が、見るならば。

「他のヤツらは騙せても、ガイは無理だろうな…」


先程のガイは、本気でルークを心配していた。
仇敵の息子である筈のルークを。
いつか、あいつは『前』と同じように誓うのだろう。ルークに永遠の友情と忠誠を。


譜陣を展開させ、譜術を発動させる。
光が収束して霧散すると、俺の髪は、夕陽色に変化した。

光属性の譜術の応用で、音素の操作に正確性を求められるが、見た目の色を変える譜術には自信があった。俺の忌々しいキムラスカ王族特有の赤を隠す為に、普段から使っている為だ。

これで、ひとまずは安心といった所か。
あいつを連れ戻すまでは、絶対にバレる訳にはいかねぇ。

譜術を使ったせいか、身体の痛みが増した。

…くそ。あの屑は、加減ってものを知らねぇのか……!

チャネリングを使って、あいつを怒鳴り付けたかったが、
痛みで意識を集中させる事が出来なかった。

俺は意識を飛ばさないよう、今後の事を考えながら、治癒師が来るのを待つ事にした。






※※ 続きます ※※

次回はルークの一人称に戻ります。





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