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AL逆行itsbetween1and0/07


アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.07話・アッシュ編02「ローレライ教団の思惑」です。






第.07話・アッシュ編02



ルークは『ヴァン師匠を止めたい』と言い張った。
こいつは頑固だ。それを俺はよく知っている。俺が止めたとしても、無駄だ。
俺の腕など、こいつは軽く振り払うだろう。

諦めて、息を吐き出す。

「……分かった」

「っえ?」

「分かった、と言ったんだ!何度も言わせるんじゃねぇ!!」

ルークは、一瞬、ぽかん、と間抜けな顔をして、その一瞬後、顔を笑みで満たした。

「じゃあ、アッシュ、」

「ただし!」

俺はルークの言葉を遮って、睨み付ける。

「もし、そのせいで、状況が悪化しそうになった場合、そう判断するべき状況に陥った場合、俺は容赦しねぇ。……分かったな?」

「あ、あぁ!それで良いよ!ありがとう、アッシュ!」

こいつの満面の笑顔を見ると、
やはり『聖なる焔の光・ルーク』の名前は、こいつにこそ相応しい名前だと思えるから不思議だ。
…ちっ。俺も丸くなっちまったな。

「じゃあ、何から始める?俺は何をしたら良いんだ?」

ルークが楽しそうに聞いてきた。…こいつ、状況が分かってんのか……?

「お前がする事なんざ、特にねぇよ」

「なんでだよ!」

「そもそも、俺が今日ここに来たのは、ただの確認だ」

目を点にして首を傾げるルーク。お前、その自分の姿を、一回でも鏡で確認した事あるか?

「俺は仕事でケセドニアへ行って、その帰りに、たまたまバチカルに寄っていただけだ。お前が俺の名前を呼んだから、記憶を取り戻したと考え、様子を見に来た。昨夜はいきなりぶっ倒れてたがな」

「いきなり倒れて悪かったな。ちょっと頭痛がしたんだよ」

頭痛?ローレライが接触した時に起こっていたアレか?
だが、ローレライは…。

「…つーか、俺、別にお前の名前なんて呼んでねぇよ」

「いや、思っただろ、俺の名前」

「……そりゃあ、夢の中では考えたかもだけど…」

「それで充分なんだよ。同調フォンスロットが開いてるからな」

「同調フォンスロット!?いつ!?」

とルークが驚く。
まぁ、驚くのも無理はないだろう。『前』は、無理矢理、コーラル城でこじ開けたからな。

「ローレライに言って、開く事が出来るようにさせておいた。いつでもチャネリング出来るように」

同調フォンスロットを使った意思疎通の事を、俺はチャネリングと呼んでいた。
あの導師守護役のチビは、便利連絡網とか言ってやがったが。

「チャネリングって…、また頭痛があんのか?」

「多分ねぇと思うが。試してみるか?」

うー…と声を漏らして、ルークが悩む。

余程、チャネリング時の頭痛が、トラウマになってるらしい。俺も『前』は深く考えた事などなかったが、激痛のようだ。まぁ、こいつが悩んだ所で関係ないが。試しておかなくてはならない。こいつの劣化具合によっては、チャネリングに支障が出ている場合も考えられるからな。

「チャネリングするぞ」

「わーっ!ちょっと待てって!心の準備が…っ!」

(馬鹿か、お前は)

「へ?」

(喋るな、馬鹿野郎が。チャネリングのテストだろうが)

俺が声を送ると、あぁ、とルークは納得して頷く。

(…え、えーと、聞こえてるか、アッシュ?)

洞窟の中で喋った時に聞こえるような、不思議な反響を伴う声。
別に目を閉じなくても良い筈だが、何故かルークは、集中するように目を閉じている。

(頭痛は?)

(何も感じねぇ!この便利連絡網、すげぇな!)

(二度と便利連絡網とか言うんじゃねぇ…!)

しゅん、とルークが項垂れた。
こいつのこういう表情を見ていると、本当に疲れる…。

(おい、ルーク、目ぇ開け)

(ん?目?)

ルークが目を開いたのを確認し、俺は目を閉じると、
さらに深く同調を試みる。
そして、見えてきたのは、ルークが見ている光景。目を閉じて沈黙している俺が見える。
そこで、俺はチャネリングを終わらせた。

「…フン、チャネリングに支障はないようだな」

「あのさぁ、これって、またお前からしか繋げねぇの?」

「お前に出来るか?」

ルークはまた目を閉じると、両手で挟むようにしてこめかみを押さえる。
しばらく黙っていたが、やがて、顔を上げた。

「……やっぱ、無理」

そうだろうよ。

「お前が俺の名前を呼べば、俺には分かる。そうしたら、俺の方からチャネリングしてやるよ」

「でもさー…」

「でも、何だ?どっちでも同じ事だろう」

「アッシュに出来て俺に出来ないって、悔しいっつーか…」

なんだ、そんな事か。…はー……馬鹿馬鹿しい…。

「今、俺のこと馬鹿にしただろ?」

「それが分かるなら、もう馬鹿な事を考えるのは止めるんだな」

ちぇっ、という舌打ちが聞こえる。無視だ、無視。

「アッシュ、本当に俺に出来る事って何もないのか?」

また話を蒸し返すのか、こいつは。いい加減にしてくれ。

「ねぇよ。だいたい、軟禁されてるヤツに何が出来る?」

「…軟禁……」

今思い出したかのように言いやがって…!本当に、こいつは状況が全く分かってねぇ!!

「そっか。軟禁されてると、自由に動けないよな…。どうにかして軟禁を解く方法があれば別だけど…」

こいつは、やはり馬鹿だ。無理に決まってるだろうが。

「お前の軟禁は、インゴベルト国王だけの思惑じゃねぇ。ローレライ教団の思惑でもあるんだ。解くのは無理だ」

「え…?ローレライ教団?なんで教団が…?」

今までずっと、国王の指示だけだと思ってたってのか!?
こいつは、いちいち説明しなきゃ分かんねぇのかよ…!

「『ルーク』は秘預言(クローズドスコア)に詠まれている。ローレライ教団にとって、預言の成就の為にも、まだ『ルーク』に死なれちゃ困るんだよ。だから、危険に晒さないように、守る必要があった。神託の盾騎士団のヴァンが定期的にバチカルを訪れるのも、預言に詠まれた『ルーク』を監視する為だ。それでも、五年前、誘拐事件が起こった。軟禁なんざ過剰な方法で保護したいのは、国王よりも、むしろ、秘預言を知るローレライ教団の方なんだよ」

あぁ、とルークは頷く。ようやく自分が置かれている状況を理解したようだ。

ルークの表情が沈んでいた。
こいつは、自分の置かれた状況を知れば知るほど、こうやって落ち込んでいくんだろう。


だが、それも不可避だ。そんな事も分からない程、こいつは馬鹿じゃねぇだろう。


「お前は大人しく剣術でも譜術の勉強でもしてろ。ヴァンはお前の傍を離れないだろうから、その方が好都合だ。俺が動きやすくなる。出来るだけの事はしておいてやるよ」

ルークは沈黙したままだった。…世話の焼けるレプリカだ。

「あと、2年だ。2年後には、お前も動けるようになる」

俺の言葉を聞いて、ルークは顔を上げた。

「2年…。そっか、2年後にはタタル渓谷に……」

2年後には出会えるだろうヴァンの妹、ティア・グランツの事でも考えているんだろうか。

「…2年……?」

そのルークの声を聞き、俺は眉をひそめる。
不穏な響きに、俺は嫌な予感を覚えた。

「2年って…!」

ルークが何かを確信したようだった。 顔を青ざめさせ、立ち上がり、俺の方へと近付く。

何かに気付いたのか?
…だが、一体何に?

「イオンのレプリカ達が…!」

何だと?

「アッシュ!確か、『前』に、イオンが言ってたんだ!『誕生して、まだ2年程しかたっていません』って!」

もちろん俺も知っている。だが、それが何だと言うんだ?

「俺の知ってるイオンは、被験者の代わりとして選ばれた。でも、他のレプリカは、みんな殺されたって!シンクが言ってたんだ!他のレプリカは棄てられたって!生きながら、ザレッホ火山の火口に投げ捨てられたって!」

それも知っている。

「それが、どうした?」

聞くと、ルークは驚きで目を見開いた。

「…っお、お前、まさか知ってたのか!?」

「導師イオンは、2週間ほど前から、療養の為に、ダアト港近くにある、海の見える別荘に滞在している。そこで、レプリカと入れ代わるつもりだろう」

「そこまで知ってて、なんで…!」

「別に、俺の知った事ではない。それとも、大詠師モースとヴァンの絡んでる計画に首を突っ込んで、イオンレプリカの入れ代わりを阻止しろとでも?」

「違う!」

何が違うんだ?

「イオンのレプリカ達を助けないと…!」

「何言ってやがる…?」

イオンのレプリカ達を助けるだと?
まさか、火口に棄てられるというレプリカ達を?

「…も、もう、遅いかな…、いや、間に合うかもしれない…」

ルークの肩が震えていた。顔色は蒼白で、足取りも不確かになっている。
ベッドの方へ戻ると、置いていた剣を手に取った。

「行かなきゃ…!まだ間に合うかもしれない…!」


何だと!?まさか、ダアトに行くつもりか?!


「ルーク!てめぇ、何言ってやがる!!」

「間に合うなら助けなきゃ…!」

「止せ!この件には関わるべきじゃねぇ!!」

「なんでだよ!見殺しにするつもりか!?」

ルークに睨まれ、俺は居たたまれなくなって、目を閉じた。

「…そうだ。見殺しにするしかない」

「ふざけんな!!」


俺は後悔した。やはり、こいつを巻き込むべきではなかった。





※※ 続きます ※※



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