AL逆行itsbetween1and0/07 AL長編/it's between 1and0 2012年07月19日 アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0 第.07話・アッシュ編02「ローレライ教団の思惑」です。 第.07話・アッシュ編02 ルークは『ヴァン師匠を止めたい』と言い張った。 こいつは頑固だ。それを俺はよく知っている。俺が止めたとしても、無駄だ。 俺の腕など、こいつは軽く振り払うだろう。 諦めて、息を吐き出す。 「……分かった」 「っえ?」 「分かった、と言ったんだ!何度も言わせるんじゃねぇ!!」 ルークは、一瞬、ぽかん、と間抜けな顔をして、その一瞬後、顔を笑みで満たした。 「じゃあ、アッシュ、」 「ただし!」 俺はルークの言葉を遮って、睨み付ける。 「もし、そのせいで、状況が悪化しそうになった場合、そう判断するべき状況に陥った場合、俺は容赦しねぇ。……分かったな?」 「あ、あぁ!それで良いよ!ありがとう、アッシュ!」 こいつの満面の笑顔を見ると、 やはり『聖なる焔の光・ルーク』の名前は、こいつにこそ相応しい名前だと思えるから不思議だ。 …ちっ。俺も丸くなっちまったな。 「じゃあ、何から始める?俺は何をしたら良いんだ?」 ルークが楽しそうに聞いてきた。…こいつ、状況が分かってんのか……? 「お前がする事なんざ、特にねぇよ」 「なんでだよ!」 「そもそも、俺が今日ここに来たのは、ただの確認だ」 目を点にして首を傾げるルーク。お前、その自分の姿を、一回でも鏡で確認した事あるか? 「俺は仕事でケセドニアへ行って、その帰りに、たまたまバチカルに寄っていただけだ。お前が俺の名前を呼んだから、記憶を取り戻したと考え、様子を見に来た。昨夜はいきなりぶっ倒れてたがな」 「いきなり倒れて悪かったな。ちょっと頭痛がしたんだよ」 頭痛?ローレライが接触した時に起こっていたアレか? だが、ローレライは…。 「…つーか、俺、別にお前の名前なんて呼んでねぇよ」 「いや、思っただろ、俺の名前」 「……そりゃあ、夢の中では考えたかもだけど…」 「それで充分なんだよ。同調フォンスロットが開いてるからな」 「同調フォンスロット!?いつ!?」 とルークが驚く。 まぁ、驚くのも無理はないだろう。『前』は、無理矢理、コーラル城でこじ開けたからな。 「ローレライに言って、開く事が出来るようにさせておいた。いつでもチャネリング出来るように」 同調フォンスロットを使った意思疎通の事を、俺はチャネリングと呼んでいた。 あの導師守護役のチビは、便利連絡網とか言ってやがったが。 「チャネリングって…、また頭痛があんのか?」 「多分ねぇと思うが。試してみるか?」 うー…と声を漏らして、ルークが悩む。 余程、チャネリング時の頭痛が、トラウマになってるらしい。俺も『前』は深く考えた事などなかったが、激痛のようだ。まぁ、こいつが悩んだ所で関係ないが。試しておかなくてはならない。こいつの劣化具合によっては、チャネリングに支障が出ている場合も考えられるからな。 「チャネリングするぞ」 「わーっ!ちょっと待てって!心の準備が…っ!」 (馬鹿か、お前は) 「へ?」 (喋るな、馬鹿野郎が。チャネリングのテストだろうが) 俺が声を送ると、あぁ、とルークは納得して頷く。 (…え、えーと、聞こえてるか、アッシュ?) 洞窟の中で喋った時に聞こえるような、不思議な反響を伴う声。 別に目を閉じなくても良い筈だが、何故かルークは、集中するように目を閉じている。 (頭痛は?) (何も感じねぇ!この便利連絡網、すげぇな!) (二度と便利連絡網とか言うんじゃねぇ…!) しゅん、とルークが項垂れた。 こいつのこういう表情を見ていると、本当に疲れる…。 (おい、ルーク、目ぇ開け) (ん?目?) ルークが目を開いたのを確認し、俺は目を閉じると、 さらに深く同調を試みる。 そして、見えてきたのは、ルークが見ている光景。目を閉じて沈黙している俺が見える。 そこで、俺はチャネリングを終わらせた。 「…フン、チャネリングに支障はないようだな」 「あのさぁ、これって、またお前からしか繋げねぇの?」 「お前に出来るか?」 ルークはまた目を閉じると、両手で挟むようにしてこめかみを押さえる。 しばらく黙っていたが、やがて、顔を上げた。 「……やっぱ、無理」 そうだろうよ。 「お前が俺の名前を呼べば、俺には分かる。そうしたら、俺の方からチャネリングしてやるよ」 「でもさー…」 「でも、何だ?どっちでも同じ事だろう」 「アッシュに出来て俺に出来ないって、悔しいっつーか…」 なんだ、そんな事か。…はー……馬鹿馬鹿しい…。 「今、俺のこと馬鹿にしただろ?」 「それが分かるなら、もう馬鹿な事を考えるのは止めるんだな」 ちぇっ、という舌打ちが聞こえる。無視だ、無視。 「アッシュ、本当に俺に出来る事って何もないのか?」 また話を蒸し返すのか、こいつは。いい加減にしてくれ。 「ねぇよ。だいたい、軟禁されてるヤツに何が出来る?」 「…軟禁……」 今思い出したかのように言いやがって…!本当に、こいつは状況が全く分かってねぇ!! 「そっか。軟禁されてると、自由に動けないよな…。どうにかして軟禁を解く方法があれば別だけど…」 こいつは、やはり馬鹿だ。無理に決まってるだろうが。 「お前の軟禁は、インゴベルト国王だけの思惑じゃねぇ。ローレライ教団の思惑でもあるんだ。解くのは無理だ」 「え…?ローレライ教団?なんで教団が…?」 今までずっと、国王の指示だけだと思ってたってのか!? こいつは、いちいち説明しなきゃ分かんねぇのかよ…! 「『ルーク』は秘預言(クローズドスコア)に詠まれている。ローレライ教団にとって、預言の成就の為にも、まだ『ルーク』に死なれちゃ困るんだよ。だから、危険に晒さないように、守る必要があった。神託の盾騎士団のヴァンが定期的にバチカルを訪れるのも、預言に詠まれた『ルーク』を監視する為だ。それでも、五年前、誘拐事件が起こった。軟禁なんざ過剰な方法で保護したいのは、国王よりも、むしろ、秘預言を知るローレライ教団の方なんだよ」 あぁ、とルークは頷く。ようやく自分が置かれている状況を理解したようだ。 ルークの表情が沈んでいた。 こいつは、自分の置かれた状況を知れば知るほど、こうやって落ち込んでいくんだろう。 だが、それも不可避だ。そんな事も分からない程、こいつは馬鹿じゃねぇだろう。 「お前は大人しく剣術でも譜術の勉強でもしてろ。ヴァンはお前の傍を離れないだろうから、その方が好都合だ。俺が動きやすくなる。出来るだけの事はしておいてやるよ」 ルークは沈黙したままだった。…世話の焼けるレプリカだ。 「あと、2年だ。2年後には、お前も動けるようになる」 俺の言葉を聞いて、ルークは顔を上げた。 「2年…。そっか、2年後にはタタル渓谷に……」 2年後には出会えるだろうヴァンの妹、ティア・グランツの事でも考えているんだろうか。 「…2年……?」 そのルークの声を聞き、俺は眉をひそめる。 不穏な響きに、俺は嫌な予感を覚えた。 「2年って…!」 ルークが何かを確信したようだった。 顔を青ざめさせ、立ち上がり、俺の方へと近付く。 何かに気付いたのか? …だが、一体何に? 「イオンのレプリカ達が…!」 何だと? 「アッシュ!確か、『前』に、イオンが言ってたんだ!『誕生して、まだ2年程しかたっていません』って!」 もちろん俺も知っている。だが、それが何だと言うんだ? 「俺の知ってるイオンは、被験者の代わりとして選ばれた。でも、他のレプリカは、みんな殺されたって!シンクが言ってたんだ!他のレプリカは棄てられたって!生きながら、ザレッホ火山の火口に投げ捨てられたって!」 それも知っている。 「それが、どうした?」 聞くと、ルークは驚きで目を見開いた。 「…っお、お前、まさか知ってたのか!?」 「導師イオンは、2週間ほど前から、療養の為に、ダアト港近くにある、海の見える別荘に滞在している。そこで、レプリカと入れ代わるつもりだろう」 「そこまで知ってて、なんで…!」 「別に、俺の知った事ではない。それとも、大詠師モースとヴァンの絡んでる計画に首を突っ込んで、イオンレプリカの入れ代わりを阻止しろとでも?」 「違う!」 何が違うんだ? 「イオンのレプリカ達を助けないと…!」 「何言ってやがる…?」 イオンのレプリカ達を助けるだと? まさか、火口に棄てられるというレプリカ達を? 「…も、もう、遅いかな…、いや、間に合うかもしれない…」 ルークの肩が震えていた。顔色は蒼白で、足取りも不確かになっている。 ベッドの方へ戻ると、置いていた剣を手に取った。 「行かなきゃ…!まだ間に合うかもしれない…!」 何だと!?まさか、ダアトに行くつもりか?! 「ルーク!てめぇ、何言ってやがる!!」 「間に合うなら助けなきゃ…!」 「止せ!この件には関わるべきじゃねぇ!!」 「なんでだよ!見殺しにするつもりか!?」 ルークに睨まれ、俺は居たたまれなくなって、目を閉じた。 「…そうだ。見殺しにするしかない」 「ふざけんな!!」 俺は後悔した。やはり、こいつを巻き込むべきではなかった。 ※※ 続きます ※※ ※ PR