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AL逆行itsbetween1and0/04


アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第04話・ルーク編05「こんな珍事は預言にも詠まれていない」です。


第04話・ルーク編05



「おーい、ルーク、朝だぞー起きろー」

「…んー……」

「おーい、寝ぼけてるのかー」

今日はガイの声だ。良かった。二度寝できる。

「…ったく、しょうがないな」

ガイがすぐ横を通り過ぎる。
カラカラとワゴンが引かれる音。洗盤やタオルを乗せた小さなワゴンは、いつものベッド脇へ。
ガイは続いてカーテンを引き、部屋の窓を開ける。音だけで分かる、いつもの流れ。

「今日は良い天気だぞー。早く起きないと勿体ないぞー」

「…んー……」

無視だ、無視。今日は三度寝だってしてやる。

「まだ眠いのか?子供だって、そんなにたくさん寝やしないぞ。…まぁ、いいか。後でまた起こしに来るよ。……ん?」

『ん?』って何だ?

「おい、ルークお坊っちゃんよ。大事な日記帳を落としてるぜ」

「…んんー……」

別に大事じゃねぇーよ。大したこと書いてねぇもん。昨日は何も書けなかったし。
いつもの所に、戻しておいてくれよ。二度寝したいんだよ俺は。

「んん?『A』?なんで日記に『A』だけ書いてんだ?」

『A』???そんなの知らねぇよ。だいたい、何だよ『A』って…。

「……アッシュ!?」

俺は驚いて飛び起きた。
窓の方に振り返ると、驚いて目を丸くしたガイが、日記帳を手に窓際に立っている。

「…あしゅ?何て?」

「あ…いや……えーと、夢オチ?」

「はぁ?何だ?夢でも見てたのか?」

「あ、あぁ、うん。……あ、あは…あはははは…」

笑って誤魔化す。……誤魔化せてるよ、な?

「まぁ、何でもいいさ。今日は二度寝するなよ」

…っう。……あー…、ま、いっか。もうすっかり目が覚めちまったし。

「ほら、起きた起きた」

俺の横を通り過ぎる時に、ガイはまた俺の頭をくしゃくしゃ撫でた。
だから、子供扱いするなっての!

「今日はグランツ謡将が来る日だろ。忘れたのか?」

………え?

「まさか本当に忘れてたのか?あんなに楽しみにしてたのに」

「……あ、うん…いや、忘れる訳ないだろ」

そう応えるので精一杯だった。

「グランツ謡将が来る日は、いつも、午前中の内に、隠れて型の復習してるだろ?俺が知らないとでも思ったか?」

ガイはからかうように言って笑いながら、部屋を出て行く。


グランツ謡将……ヴァン師匠が、来る、のか…。


ヴァン師匠は、2年くらい前から、俺に、剣術の稽古をつけてくれている。
もっとも、誘拐されて記憶がなくなる前にも、ヴァン師匠は、俺の剣術の師匠だったらしい。

俺が歩き方や話し方、他の日常生活に必要な事を覚えた頃、屋敷内での生活では運動不足になるからという事で、また俺の師匠になってくれたらしい。
家庭教師の教える勉強はかったりぃけど、剣術の稽古は好きだ。もちろん剣術は好きだけど、ヴァン師匠に会えるのも楽しみだった。

ヴァン師匠の稽古は厳しくて、叱られる事も多いけど、
上手く出来た時には、ちゃんと誉めてくれる。

「記憶があれば、出来て当たり前」とか「記憶が戻れば、以前のように出来るようになる」なんて、
ヴァン師匠からは一度も言われた事がない。

ヴァン師匠は、過去じゃなくて、今の俺を見てくれる。

だから、師匠のようになりたいって、ずっと尊敬してて、憧れていた。


……それなのに…!!!




「何なんだよ『思い出していたのか』って…!!!」

昨夜、気を失う前に見た、アッシュの顔。……俺と同じ顔。

夢の中では、俺をすっげぇ憎んでて、いつも怒ってたのに!
夢の中と同じように怒っててくれれば、
昨夜見たアッシュは夢だったんじゃないかって思えたのに!
なんで、あんな悲しそうな顔するんだよ…っ!

俺はむしゃくしゃしながらも、
いつものように、お気に入りの剣を腰に差して、裏庭の林に入っていった。

剣術の稽古をする為だ。

剣術の…と言っても、する事と言えば主に筋力トレーニングや、教えてもらった型の再確認くらいだけど。とりあえず体を動かせば、馬鹿な事を考えなくて済む。苛々とかが、消えてくれる。



でも、今日は違った。


「だいたい、何なんだよ!ヒトの部屋に勝手に押し入って!」!」
「しかも意味不明なこと言いやがって!」
「つーか、『A』って何だよ!意味分かんねぇよ!」
「夢は夢だろ!未来の出来事なんて馬鹿げてるだろ!!」
「でも、あのアッシュがいたんだよな!?」
「思い出したって、そーゆー事なんだよな!?」
「あーっ!くそっ!!イライラするっっ!!!」
「訳分かんねぇよ!これって、アッシュが原因なのか!?」
「仮に!もしも!そうだっつーなら…!」
「次会ったら、レイディアント・ハウルで、ぶっとばす!!!」

筋力トレーニングをしながら、次々と文句が出てくる。
しかも、夢の中で使ってた秘奥義の名前まで思い出してしまった。

あれ?

他の奥義も、色々思い出してきたんだけど…?

閃光堕刃牙とか、飛燕瞬連斬とか…。


ちょっと考えてから、俺は腰の剣を抜いた。剣を構えて、振ってみる。
ヒュン、と風を切る音。でも、

「…剣がすげぇ重い……気がするんだけど…」

今度は思いきり振ってみる。

「…っっ!あっぶねー……」

振った勢いで、手から剣がすっぽ抜けそうになった。本当にすっぽ抜けたら、すげぇハズい。

「腕力…それに握力も落ちてる……」

いや、落ちた訳じゃない。元からなかった。
冷静になって考えてみる。夢の中の俺よりも、細い腕。
…まぁ、それは当たり前で仕方ない、か。夢の中では17才だったし。本当の俺は15才だし。
でも、
夢の中で剣を扱っていた時の感覚の方が、妙にリアルだった。

「…奥義なんかも多分アレだよな……」

威力がデカいわ範囲広いわで、わりと気に入ってた奥義があった
FOF技、魔王地顎陣。炎が、ガーッ!と出て、けっこー爽快だったんだけど…。

「一応、覚えてるけどなぁ…」

岩斬滅砕陣を放った後、確か魔王地顎陣ってイケたよな…?

目の前にある、木を睨む。


剣を構え、ひと呼吸。


瞬間、頭ん中が、クリアになった。


「岩斬滅砕陣っ!…からの魔王地顎陣っっっ!!!」






「おいっ、ルーク!…なんだ、部屋にいたのか。良かった…」

ガイがノックもせずに、部屋に飛び込んでくる。
俺が顔だけ向けると、安心したように溜め息をついた。走ってきたらしく、呼吸が乱れている。

…珍しい事もあるもんだな。

「ルーク様はお部屋にいらっしゃいましたー!」

ガイが外に向かって言うと、外から何やら騒がしい声。

「ガイ、一体どうしたんだ?」

ベッドの上に寝転んで本を読んでた俺は、起きて座り直す。

「お前、裏庭の林の話を聞いたか?」

うぁ、きた!いきなりかよ!

「な、何の話だよ?」

俺ずっと部屋にいたからさーと付け加える。
ちょっと棒読みになったけど、多分、大丈夫だろ。うん。

「…そっか。裏庭で、剣術の稽古してるかと思ってたからな」

「ふぇっ、いや、っあの、そろそろ行くつもり…だけど?」

そうだったのかとガイは再び安堵の溜め息。

焦らせんなっつーの!裏庭に行ってたの、バレてたのか…。
使用人の鑑って自分で言うだけあって、さすがすぎる。
……いや、俺が、行動を読まれ過ぎなのか?

とにかく、冷静に。冷静に。知らないフリを貫き通す!

「…ガイ、何かあったのか?」

「裏庭の林の一部がさ、燃えて丸焦げになったんだよ。原因は分からないが、メイドとかペールは、それらしい轟音を聞いて、驚いたって言ってたけどな。賊が入ったんじゃないかと調べてるらしいが、こんな珍事は預言にも詠まれてないって大騒ぎだぜ、今」

「へ、へぇ~…」

うぅー…心臓に悪い。

「ラムダスさんや他のメイドたちは、お前は俺と一緒にいると思ってたみたいでさ。俺が一人で調理場の掃除してる所を見て、何も知らなかった俺が『裏庭にいるかも』なんて言ったら、ラムダスさんの顔、すごい真っ青になって…」

うわぁああああ…あの冷静沈着なラムダスが真っ青って…。

「それから、屋敷中、大騒ぎでお前の大捜索って訳だ。しかし、灯台もと暗しとはよく言うが、部屋にいたとは…」

俺が悪かったよ!!もぉ言わないでくれ!それ以上は拷問だっつーの!
…うぅうう、本気で心臓がチクチク痛む…。
でも、まさか俺が奥義を使ったとは、ガイも思ってない。
っつーか、本当の事を言った所で、誰も信じないだろうけど。

「そういう事で、今日は裏庭の出入り禁止になったから」

「へっ?何で?」

「お前ね。原因が分かってないって言ったばかりだろう。侵入者対策で、白光騎士団が警備を強化してるし、城からは調査官が来る事になったんだ。部屋にいろよ」

「…そんな大事になってんの?」

「当たり前だろ。旦那様もすぐにお戻りになるらしいし」

ガイは部屋の奥に行き、窓に鍵をかけた。

……俺、もしかしなくても、とんでもねぇ事した気が…。

「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫さ。白光騎士団は精鋭揃いだし。すぐに賊も捕まるさ」

賊なんて見つかんねぇよ…。つーか、賊が見つからなかったら、どーなるんだろ…。
原因不明の事故…になる事を願おう。頼むぜ、始祖ユリア!ついでに、ローレライ!

「それにしても、可哀想なのはペールじいさんだよなぁ…」

ガイの呟きを聞いて、首を傾げる。

「もうすぐ実をつけるって、ペールじいさんが、楽しみにしてた木たちだったからなぁ…」


…ごめん、ペール。これからは、敷地内で無闇に奥義使ったりしねぇから。






※※※※
続きます。


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