AL逆行itsbetween1and0/04 AL長編/it's between 1and0 2012年07月05日 アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0 第04話・ルーク編05「こんな珍事は預言にも詠まれていない」です。 第04話・ルーク編05 「おーい、ルーク、朝だぞー起きろー」 「…んー……」 「おーい、寝ぼけてるのかー」 今日はガイの声だ。良かった。二度寝できる。 「…ったく、しょうがないな」 ガイがすぐ横を通り過ぎる。 カラカラとワゴンが引かれる音。洗盤やタオルを乗せた小さなワゴンは、いつものベッド脇へ。 ガイは続いてカーテンを引き、部屋の窓を開ける。音だけで分かる、いつもの流れ。 「今日は良い天気だぞー。早く起きないと勿体ないぞー」 「…んー……」 無視だ、無視。今日は三度寝だってしてやる。 「まだ眠いのか?子供だって、そんなにたくさん寝やしないぞ。…まぁ、いいか。後でまた起こしに来るよ。……ん?」 『ん?』って何だ? 「おい、ルークお坊っちゃんよ。大事な日記帳を落としてるぜ」 「…んんー……」 別に大事じゃねぇーよ。大したこと書いてねぇもん。昨日は何も書けなかったし。 いつもの所に、戻しておいてくれよ。二度寝したいんだよ俺は。 「んん?『A』?なんで日記に『A』だけ書いてんだ?」 『A』???そんなの知らねぇよ。だいたい、何だよ『A』って…。 「……アッシュ!?」 俺は驚いて飛び起きた。 窓の方に振り返ると、驚いて目を丸くしたガイが、日記帳を手に窓際に立っている。 「…あしゅ?何て?」 「あ…いや……えーと、夢オチ?」 「はぁ?何だ?夢でも見てたのか?」 「あ、あぁ、うん。……あ、あは…あはははは…」 笑って誤魔化す。……誤魔化せてるよ、な? 「まぁ、何でもいいさ。今日は二度寝するなよ」 …っう。……あー…、ま、いっか。もうすっかり目が覚めちまったし。 「ほら、起きた起きた」 俺の横を通り過ぎる時に、ガイはまた俺の頭をくしゃくしゃ撫でた。 だから、子供扱いするなっての! 「今日はグランツ謡将が来る日だろ。忘れたのか?」 ………え? 「まさか本当に忘れてたのか?あんなに楽しみにしてたのに」 「……あ、うん…いや、忘れる訳ないだろ」 そう応えるので精一杯だった。 「グランツ謡将が来る日は、いつも、午前中の内に、隠れて型の復習してるだろ?俺が知らないとでも思ったか?」 ガイはからかうように言って笑いながら、部屋を出て行く。 グランツ謡将……ヴァン師匠が、来る、のか…。 ヴァン師匠は、2年くらい前から、俺に、剣術の稽古をつけてくれている。 もっとも、誘拐されて記憶がなくなる前にも、ヴァン師匠は、俺の剣術の師匠だったらしい。 俺が歩き方や話し方、他の日常生活に必要な事を覚えた頃、屋敷内での生活では運動不足になるからという事で、また俺の師匠になってくれたらしい。 家庭教師の教える勉強はかったりぃけど、剣術の稽古は好きだ。もちろん剣術は好きだけど、ヴァン師匠に会えるのも楽しみだった。 ヴァン師匠の稽古は厳しくて、叱られる事も多いけど、 上手く出来た時には、ちゃんと誉めてくれる。 「記憶があれば、出来て当たり前」とか「記憶が戻れば、以前のように出来るようになる」なんて、 ヴァン師匠からは一度も言われた事がない。 ヴァン師匠は、過去じゃなくて、今の俺を見てくれる。 だから、師匠のようになりたいって、ずっと尊敬してて、憧れていた。 ……それなのに…!!! 「何なんだよ『思い出していたのか』って…!!!」 昨夜、気を失う前に見た、アッシュの顔。……俺と同じ顔。 夢の中では、俺をすっげぇ憎んでて、いつも怒ってたのに! 夢の中と同じように怒っててくれれば、 昨夜見たアッシュは夢だったんじゃないかって思えたのに! なんで、あんな悲しそうな顔するんだよ…っ! 俺はむしゃくしゃしながらも、 いつものように、お気に入りの剣を腰に差して、裏庭の林に入っていった。 剣術の稽古をする為だ。 剣術の…と言っても、する事と言えば主に筋力トレーニングや、教えてもらった型の再確認くらいだけど。とりあえず体を動かせば、馬鹿な事を考えなくて済む。苛々とかが、消えてくれる。 でも、今日は違った。 「だいたい、何なんだよ!ヒトの部屋に勝手に押し入って!」!」 「しかも意味不明なこと言いやがって!」 「つーか、『A』って何だよ!意味分かんねぇよ!」 「夢は夢だろ!未来の出来事なんて馬鹿げてるだろ!!」 「でも、あのアッシュがいたんだよな!?」 「思い出したって、そーゆー事なんだよな!?」 「あーっ!くそっ!!イライラするっっ!!!」 「訳分かんねぇよ!これって、アッシュが原因なのか!?」 「仮に!もしも!そうだっつーなら…!」 「次会ったら、レイディアント・ハウルで、ぶっとばす!!!」 筋力トレーニングをしながら、次々と文句が出てくる。 しかも、夢の中で使ってた秘奥義の名前まで思い出してしまった。 あれ? 他の奥義も、色々思い出してきたんだけど…? 閃光堕刃牙とか、飛燕瞬連斬とか…。 ちょっと考えてから、俺は腰の剣を抜いた。剣を構えて、振ってみる。 ヒュン、と風を切る音。でも、 「…剣がすげぇ重い……気がするんだけど…」 今度は思いきり振ってみる。 「…っっ!あっぶねー……」 振った勢いで、手から剣がすっぽ抜けそうになった。本当にすっぽ抜けたら、すげぇハズい。 「腕力…それに握力も落ちてる……」 いや、落ちた訳じゃない。元からなかった。 冷静になって考えてみる。夢の中の俺よりも、細い腕。 …まぁ、それは当たり前で仕方ない、か。夢の中では17才だったし。本当の俺は15才だし。 でも、 夢の中で剣を扱っていた時の感覚の方が、妙にリアルだった。 「…奥義なんかも多分アレだよな……」 威力がデカいわ範囲広いわで、わりと気に入ってた奥義があった FOF技、魔王地顎陣。炎が、ガーッ!と出て、けっこー爽快だったんだけど…。 「一応、覚えてるけどなぁ…」 岩斬滅砕陣を放った後、確か魔王地顎陣ってイケたよな…? 目の前にある、木を睨む。 剣を構え、ひと呼吸。 瞬間、頭ん中が、クリアになった。 「岩斬滅砕陣っ!…からの魔王地顎陣っっっ!!!」 「おいっ、ルーク!…なんだ、部屋にいたのか。良かった…」 ガイがノックもせずに、部屋に飛び込んでくる。 俺が顔だけ向けると、安心したように溜め息をついた。走ってきたらしく、呼吸が乱れている。 …珍しい事もあるもんだな。 「ルーク様はお部屋にいらっしゃいましたー!」 ガイが外に向かって言うと、外から何やら騒がしい声。 「ガイ、一体どうしたんだ?」 ベッドの上に寝転んで本を読んでた俺は、起きて座り直す。 「お前、裏庭の林の話を聞いたか?」 うぁ、きた!いきなりかよ! 「な、何の話だよ?」 俺ずっと部屋にいたからさーと付け加える。 ちょっと棒読みになったけど、多分、大丈夫だろ。うん。 「…そっか。裏庭で、剣術の稽古してるかと思ってたからな」 「ふぇっ、いや、っあの、そろそろ行くつもり…だけど?」 そうだったのかとガイは再び安堵の溜め息。 焦らせんなっつーの!裏庭に行ってたの、バレてたのか…。 使用人の鑑って自分で言うだけあって、さすがすぎる。 ……いや、俺が、行動を読まれ過ぎなのか? とにかく、冷静に。冷静に。知らないフリを貫き通す! 「…ガイ、何かあったのか?」 「裏庭の林の一部がさ、燃えて丸焦げになったんだよ。原因は分からないが、メイドとかペールは、それらしい轟音を聞いて、驚いたって言ってたけどな。賊が入ったんじゃないかと調べてるらしいが、こんな珍事は預言にも詠まれてないって大騒ぎだぜ、今」 「へ、へぇ~…」 うぅー…心臓に悪い。 「ラムダスさんや他のメイドたちは、お前は俺と一緒にいると思ってたみたいでさ。俺が一人で調理場の掃除してる所を見て、何も知らなかった俺が『裏庭にいるかも』なんて言ったら、ラムダスさんの顔、すごい真っ青になって…」 うわぁああああ…あの冷静沈着なラムダスが真っ青って…。 「それから、屋敷中、大騒ぎでお前の大捜索って訳だ。しかし、灯台もと暗しとはよく言うが、部屋にいたとは…」 俺が悪かったよ!!もぉ言わないでくれ!それ以上は拷問だっつーの! …うぅうう、本気で心臓がチクチク痛む…。 でも、まさか俺が奥義を使ったとは、ガイも思ってない。 っつーか、本当の事を言った所で、誰も信じないだろうけど。 「そういう事で、今日は裏庭の出入り禁止になったから」 「へっ?何で?」 「お前ね。原因が分かってないって言ったばかりだろう。侵入者対策で、白光騎士団が警備を強化してるし、城からは調査官が来る事になったんだ。部屋にいろよ」 「…そんな大事になってんの?」 「当たり前だろ。旦那様もすぐにお戻りになるらしいし」 ガイは部屋の奥に行き、窓に鍵をかけた。 ……俺、もしかしなくても、とんでもねぇ事した気が…。 「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫さ。白光騎士団は精鋭揃いだし。すぐに賊も捕まるさ」 賊なんて見つかんねぇよ…。つーか、賊が見つからなかったら、どーなるんだろ…。 原因不明の事故…になる事を願おう。頼むぜ、始祖ユリア!ついでに、ローレライ! 「それにしても、可哀想なのはペールじいさんだよなぁ…」 ガイの呟きを聞いて、首を傾げる。 「もうすぐ実をつけるって、ペールじいさんが、楽しみにしてた木たちだったからなぁ…」 …ごめん、ペール。これからは、敷地内で無闇に奥義使ったりしねぇから。 ※※※※ 続きます。 ※ PR