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AL逆行itsbetween1and0/03


アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第03話・ルーク編04「不思議と安心する声」です。



第03話・ルーク編04




気付いたら、俺はベッドの上にいて、部屋の中は薄暗かった。


…あれ?

……んー…俺どうしてたんだっけ…?


ぼんやり天井を眺めながら考えていると、

「ルーク、目が覚めたのか?」

声が聞こえてきた。ガイの声だ。

俺が慌てて上体を起こすと、部屋の灯りをつけようとするガイの後ろ姿が、目に映る。


本当に、ガイだ。……ガイが、いる。現実のガイだ…。


あー…やべ。今の俺、なんか泣きそうになってねぇ?

「ん?どうした?」

ガイは無駄に爽やかな笑顔で振り向いた。

「…あ、その……」

あー、くそっ!
普通に声かけたいのに、何て言えば良いんだ!

「どうした、ルークお坊っちゃんよ? 3週間ぶりの再会に、感動のあまり言葉も出ないか?」

「っっだ、誰が感動するかっつーの!!」

………慌てすぎだろ俺。

つーか、今のガイの言葉は冗談だったんだろうけど、
考えてる事がバレたのかと思って、ほんと焦った。
ガイにまた会えた、俺は帰って来たんだって思ってしまって、
俺は嬉しくて仕方なくて、感動してたから。

あー、くそっ。いっぱいいっぱい過ぎてハズかしい…!
違う意味で頭が痛ぇ…!

「どうした?まだ辛いか?」

俺が頭を抱えたのを見て、ガイは頭痛と勘違いしたらしい。

「もう大丈夫だっつーの」

慌てて頭から両手を離す。

「…そうか?…なら、良いんだが。奥様が心配してたぞ」

「母上が?」

「久々にドジったな、お前。図書室で倒れるなんて」

「図書室…」

…うぁ。思い出した。嫌ってくらい思い出しちまった。

ガイの言う通り、本当にドジった。最悪だ。

最近になって頻度が増してきた頭痛は、我慢してやり過ごすしか、方法はなかった。

頭痛の中でも、たまに、死ぬかもってくらい酷いのがあって、今日みたいに意識を持っていかれる事がある。それを母上にだけは知られたくなかったから、頭痛が酷くなったら、すぐに横になって、寝たフリをしてた。ソファとか庭のベンチとか、芝生の上とか、とりあえず昼寝してるっぽく見えれば、誤魔化せる。

ガイはそれを知っていて、その事を内緒にしてくれてた。意識を失った俺を見つけたら、いつもベッドまで運んでくれる。でも、今回は、ちょっと混乱してて、ガイ以外の前で思いっきりぶっ倒れてしまった。

あー…ミスった!
母上にだけは、知られたくなかったのに…!

「…はー、だっせーな、俺」

俺の呟きを聞いて、ははは、ってガイが笑う。
ははは…って、おい。そんな爽やかに笑われると、ちょっとムカつくぞ。

でも、いつもの調子に戻ってきた気が、する。

なんで、昼間はあんな事、考えちまったんだろ。こっちが夢で、現実じゃないなんて。

……頭痛のせいで、俺の頭、おかしくなってきたのか?
はー…馬鹿馬鹿しい……。

「まぁ、あんま気にするな」

ガイがそう言いながら、俺の頭をぐしゃぐしゃ撫で始める。

「だーっ!もう!子供扱いするなっつーの!」

「いいじゃないか。15才はまだ子供の内だろ」

「子供じゃねぇー!」

ガイは笑って、更に、ぐしゃぐしゃ頭を撫でる。

「だぁから、やめろって…!」


………え?


それは、ガイの手を振り払おうとした瞬間だった。


……微かな、血と油の、臭い。

次の瞬間、咄嗟に見たのは、自分の手だった。汚れていない事に、安心する。


血の臭いは、ガイのものだった。
…あぁ、忘れてた。俺って、ほんと世間知らずなんだな。
ガイは護衛剣士だ。多分、そういう事なんだ。

ガイはいつの間にか手を止めていて、いつもの笑顔で、
「ルークをいじってないで、仕事するか」とか言い始める。

「ルーク、腹へってないか?何か持ってくるぞ?」

「…いらねぇ。腹へってねぇし。そんな気分じゃねぇ」

「おいおい、そんな事言ってたら、身長のびないぞ?」

…ぅぐ。

勢いに任せて、食えば良いんだろ、と言葉が出そうになって。
でも、途中で息が詰まったおかげで、言わなくて済んだ。

本当に食べる気分じゃねぇんだよ、今。

…うぅ、ガイの視線が痛い。なんか「まだ痛むのか?」って聞きそうな顔してるし。

「まだ痛むのか?」

うわぁ…ホントに聞いてきやがった。そうだよなぁ…。食べなかったら、心配かけちまうよなぁ…。
母上にも報告がいくだろうし…。よく考えたら、朝から何も食べてねぇし。

……考えてたら、ちょっと腹へってきたかも?

「どこも痛くねぇよ。食えば良いんだろ、食えば。デッカくなって、ガイなんかすぐに追い越してやる」

「ははは。頑張れよ」

こいつ、俺を馬鹿にしてないか…?

「じゃあ、ちょっと待ってろよ。持ってくるから」

「いや、行くよ。先に風呂入りてぇや」

「そうか。じゃあ、ついでに奥様に顔見せてこいよ」

「…ん。そうする」

ガイが先にドアを開けて、俺が通り過ぎるのを待つ。
すぐ横を通り過ぎても、今度は、血の臭いがしなかった。……俺の気にしすぎだったか。

中庭に出てみると、外は薄暗く、少し寒くなっていた。

「そういえば、父上は…?」

一応聞いてみると、

「登城されたよ。ベルケンド視察の報告を兼ねた夕食会だとさ」

ガイは何事もなく答える。


ベルケンド…。ガイは、ベルケンドで、音機関を手に入れたんだろうか?


「どうした、ルーク?」

「…何でもねぇ!」

俺は走って、屋敷の中へ入った。今、ベルケンドの事を聞きたくはなかった。

……なっさけねぇ…。俺ってほんと臆病だ。



夜遅くなっても、今日は全く眠れなかった。昼間に寝過ぎたせいもある。

でも、それよりも、もっと大きな理由があった。

窓辺に腰かけて日記を書こうとするけど、すぐに手が止まる。
何を書けば、いや、どう書けば良いのか、分からなかった。まだ、今日の日付しか書けていない。

「あー、くそっ!なんで、こんな考えなきゃいけねぇんだ…!」

俺が見た夢は、全部『未来の出来事』だったってのか?

何度も頭ん中で繰り返した疑問を、また繰り返す。

夢の最後に見たのは、赤色。あのうぜぇローレライ。第七音素の意識集合体…だっけ?
『世界は、消えなかったのか』
その言葉を思い出す。
ローレライが視た『星の記憶』を人間の言葉にしたものを、預言(スコア)といっていた。
世界の未来史。
消滅預言(ラストジャッジメントスコア)によれば、
人類は大戦争を起こし、恐ろしい伝染病を蔓延させ、
世界は障気によって破壊されて塵と化し、消滅する事になっていた。

夢の中の俺は、その預言を覆せると信じて、戦っていた。

俺たちが戦った相手は、その預言を覆せないと信じ、代わりの世界を造ろうとしたヒト。

……ヴァン師匠(せんせい)。

「意味分かんねぇ…!」

なんで、よりにもよって、ヴァン師匠なんだよ!

「…あー、くそっ!なんで、あんな夢なんか…!」


何なんだよ、あの夢は!無性に苛々する! 頭ん中がぐちゃぐちゃになる!

俺一人じゃあ、何も分かんねぇよ!

誰か説明してくれよ……!!!

「…っつ……!」

あー…うぜぇ。また頭痛が始まった。くそ。
ちょうどいいや。もう寝ちまおう。これ以上、考えたくもねぇ。

立ち上がった瞬間、

視界が揺れて、受身も取れずに床に倒れてしまった。

「…何…だよ、これ……!」

体を起こしたくても、上手く腕に力が入らない。。
こんなのは初めてだった。頭痛が酷くなって、目の前の景色が霞む

だから、


その声が聞こえるまで、俺はその存在に気付かなかった。


「おいっ!大丈夫か、ルーク!?」


ガイの声じゃない。でも、不思議と安心する声。

助け起こされて、俺は、そいつの顔を見た。自分そっくりの、そいつの顔を。

「………ア…シュ…?」

アッシュは最初驚いて、それから、今にも泣きそうな表情をする。

「…お前、思い出していたのか……」


………何を?

そんな無意味な疑問を口にする前に、俺の意識は飛んだ。





※※※※※
続きます。


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