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AL逆行itsbetween1and0/01


AL逆行/it's between 1 and 0

第01話・ルーク編02「今はまだ起こっていない」です。





今日もまた「退屈な一日」が始まった。

俺は朝の用意を済ませた後、部屋の窓の前に立ち、いつものように、ぼーっと空を眺める。
あー、それにしても、今日の夢見は最悪だった。後で日記に書こう。
…いや、日記に書くのはハズカシーな。
なんか俺、迷える青年って感じだったし、しかも、最終的に世界とか救っちゃってるし。

うぁああぁぁあああ!無理無理無理無理!
そんな誇大妄想、日記になんて書けるかっつーの!俺史の汚点になるっ!

……あー、アホらし…。早々に忘れてしまおう。

とか思った所で、忘れる事は出来なかった。
俺が夢に見た誇大妄想は、妙にリアルで、怖かった。
しかも、朝起きた時よりも、その内容が、どんどん鮮明になっていく。

「あー、うぜぇ…」

あー、くそっ。夢なんかに惑わされるなっつーの…!

俺は、俺だ。ルーク・フォン・ファブレ。父上と母上の息子。ファブレ公爵家の一人息子。
10才以前の記憶がないのは、誘拐された時のショックが原因。
断じて、夢の中で起こったような理由じゃねぇ。
俺が造り物の偽物だなんて非現実的な事、有り得るかバカ。

そもそも、まだ15才だ。夢の中のように、世界中を旅するような自由もないし。
いや、世界どころか屋敷からも出られない。
だから、この小さな箱庭で、今日もまた、退屈な1日を過ごす事しか出来ない…。

「…あれが本当の『海』だったのかな」

夢の中で見た『海』を思い出す。
写真や絵でしか見た事のない『海』だったのに、
夢の中で見た『海』は、想像以上、視界に収まらないくらい、広くて輝いてて…。

「…ちぇっ」

剣術の稽古でもして、気を紛らすか。ガイはどこにいるんだ?
そういえば、今朝起こしにきたのは、ガイじゃなくメイドだった。

……あ。うっかりしてた。
3週間前、ガイは父上のお供でベルケンドに旅立ったんだっけ。

あのヤロー、俺の世話係のくせに、父上について行きやがって。
確か、ラムダスの推薦で、ガイが今回のお供の一員に加わったって聞いた。
で、あの音機関マニアは、行き先がベルケンドと聞いて、喜んでついて行きやがったんだ。
「悪いな、ルーク」と謝ったガイの顔は、緩みっぱなしだった。

あいつ、ガルディオス一族の復讐は、どうしたんだよ!
父上を憎んでるんじゃなかったのか!?

…いや、ちょっと待て。違った、違った。それは、俺の夢の中での話だった。

ガイ・セシル、本名は、ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
ホド島を領地とするガルディオス伯爵家の生き残り。
一族を滅ぼしたファブレ公爵家に、使用人として潜り込み、復讐の機会を窺っていた。
俺の夢の中のガイは、こんな感じだった。

…俺の夢は、けっこー滅茶苦茶だ。
だいたい、どーして敵国出身のガキが、ファブレ公爵家の使用人として雇われる事になるんだよ。
使用人一人雇うにしても、フツー、素性とか調べるだろ。
それとも、公爵家の調査ってのは、そんなにザルなのか?
しかも、夢の中では、庭師のペールが、元ガルディオス家に仕える騎士。剣の達人。
あー、ないね。ペールじいさんが騎士とか、絶対ありえねぇ。
花や植木を育てるのが生き甲斐って感じのペールに限って、そ・れ・は・ねぇ!

俺の頭ん中、どーなってんだよ。呆れるの通り越して……凄ぇよ。

「あー…、うぜぇ。だいたい、なんでホド島なんて地名…」

……そういえば。

昨日は、確か、図書室で本を漁っていた。
「たりー」とか文句を言いつつも何冊か目を通したんだ。
マルクト帝国史も読んだっけ?

そのせいだ。本なんて読むから、ロクな事にならねぇ。
俺、読書なんて好きじゃねぇのに。なんで図書室なんか…。

「でも、あの本もあった、よな…」

バルフォア博士の本。

『フォミクリー』とか『レプリカ』とか、俺がその『レプリカ』で、本物じゃなくて偽物だとか、
思い出したくもない夢の内容が、頭ん中をぐるぐる回る…。

「…くそっ!」

気になったら、止められなくなった。
ドアの方へ向かう。
目指すは、図書室だ。ジェイド・バルフォア博士の本だ。
くそっ!
むしょーにイライラしてきたぞ!あの悪夢の原因を見つけたら、踏んづけてりてぇ!

…うん。そうだ。そうしよう。

ちょっと『フォミクリー』について調べたら、思いっきり!本を踏んづけてやろう。
きっと、すっげぇスッキリする!

……あ。でも、後でジェイドに知られたら、何をされるか…。

……関係ねぇ!
そもそも、陰険鬼畜眼鏡のジェイドは、夢の中の存在だ。
あんな陰険ロン毛ヤローが実在するとか、ありえねぇよ。大丈夫だ。うん。


部屋を出て、中庭に足を踏み出すと、

「よぉ、ペール。今日も土いじりか?」

俺の夢の中では剣の達人だった庭師ペールに、声をかける。

「おはようございます、ルーク様」

ペールは作業の手を止めて、俺に頭を下げた。作業の邪魔したみたいで、なんとなく心地が悪い。

俺は中庭から屋敷に入ると、無駄に広い廊下を進む。
屋敷を巡回中の白光騎士団の一人が、足を止め、「おはようございます、ルーク様」と敬礼してきた。
俺は「ん、おはよ」とだけ応えて、図書室へ急ぐ。

急ぐっつっても、本当は、急ぐ必要なんてなかった。今日もたっぷり時間はある。

確か、ガイが帰ってくるのは、今日の夕刻。
ベルケンドの蚤の市で見つけた掘り出し物の音機関を持って、帰って来る筈だ。
すっげぇー肩を落として。
だって、せっかく見つけた音機関を、旅路の途中で落とし、
しかも一番大事で、高額な部品を壊しちまったんだからな。
一ヶ月くらい、壊れてしまった部品の名前と、バチカルにある音機関の店の名前を、呟き続けていた。
なんで店の名前を呟いてんのか聞いてみたら、
その店にも、同じ部品が置いてあって、でも、すっげぇ高額で手が届かないから…らしい。
さすがに、ちょっと可哀想だなーとは思ったけど。
本音は、ざまーみろ。屋敷から出られない俺を置いて、旅に出るのが悪い。…とかだったりする。


……あれ?


俺は、ぴたり、と足を止めた。


なんだよ、今の『記憶』は?

当たり前の事のように考えていた、しょうもない事だと思っていたけど…、


この『記憶』は、今はまだ起こってない『未来の出来事』じゃないのか?







※※※※※※
続きます。



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