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AL逆行itsbetween1and0/00



アシュルク逆行長編“it's between 1 and 0”

第00話・ルーク編01「夢オチ」です。



it's between 1 and 0 第00話

※※※


ルーク編01「夢オチ」



エルドラントが、崩壊していく。

今ある世界を憎み、新しい世界を造ろうとしたヒトの夢が、崩れたように。


両腕に抱えたアッシュへと、視線を向ける。

以前、考えた事がある。死ぬって痛いんだろうか、って。
アッシュは死んだ時、痛かっただろうか?

…………。

……何考えてんだ、俺。
あんな死に方だ、痛かったに決まってるじゃねぇか。

俺の時はどうだろうか?
……はぁ…。やっぱ、痛いに決まってるよな。
たまに発作みたいなのがあった時、すげぇ痛かったし。


突然、 炎よりも夕焼けよりも鮮やかな赤が、目の前に現れる。


…あぁ、待ってたぜ、ローレライ。
地殻から出て来れて良かったな。もう音譜帯へ行くのか?

『世界は、消えなかったのか…、…私の視た未来がわずかでも覆されるとは…、……驚嘆に値する』

そんなローレライの言葉を聞き、俺はゆっくりと目を閉じる。


世界は障気によって塵と化す…と、預言には詠まれていた。
その預言が覆った。 みんな、明日へ続く未来を手に入れられたんだ。
……良かった。本当に、良かった。

……ん?

ちょっと待てよ、おい。聞き捨てならねぇぞ。
世界が消えるっつー未来が覆ったってのに、それを『わずか』って…。

…まぁ、いいや。ローレライの考えてる事って、よく分かんねぇし。

それに、こいつの言う通り、ほんとに『わずか』かもしれねぇ。
結局、犠牲が多く出たってのは、変わんねぇし。もうすぐ俺も消滅しちまうし。

目を開けて確認しなくても分かる。
身体の細胞崩壊が進んでいる。もう姿を保てなくなってる。
アッシュを抱えている筈の腕の感覚が、なくなった。

あれ?痛くない?なんでだ?
もしかして、先に痛覚ってやつが消えたのか?

…ま、何でもいいや。
もしかしたら、感覚ないせいでアッシュを落っことしちまうかもだけど。
悪ぃな、アッシュ。…って聞こえる訳ないか。


俺の時間はまだ残ってるか?
もう少しだけ、あとちょっとだけで良いから、今を喜んでも良いかな?


ローレライの『世界は消えなかった』という言葉を噛み締める。
ゆっくりと、噛み締める。

……良かった。

そんな風に思うと、仲間の顔を次々に思い出した。

ガイ、ジェイド、アニス、ナタリア、…そして、ティアの顔。

俺一人じゃあ、何も出来なかった。きっと、変われなかった。
帰るって約束したのに、守れそうにない。ごめんな。

でも、俺さ、本当に、あの時は、
みんなの所へ必ず帰るって、帰りたいって、思ったんだ。


もっと、みんなと生きていたい、って思ったから…


けどさ、やっぱ、ちょっと無理だった…ごめんな…


でも……待ってるって言ってくれて…



ありがとう…




『……ルーク』

俺はローレライに名前を呼ばれて、イラッとする。

空気、読めよ。
ヒトが感傷に浸ってる時に、冷静に声かけんな。そっとしとけ。
…つーか、まだいたのかよ。ぶっちゃけ、さっさと音譜帯へ行ってほしいんだけど。
もーお前に関わるのはごめんだ。
7年間も悩まされた頭痛の恨みを、俺が忘れたと思うのか。この元凶が!

あれ?今のちょっとアッシュの「この屑が!」に似てねぇ?

……あ。
ちょっと今、思い出してきた。

アッシュのヤロー、何度も何度も「屑」だの「出来損ない」だの言いやがって…!
俺って、けっこー繊細なんだぞ!傷付いてたんだぞ!
毎回毎回毎回、すっげぇヘコんでたんだぞ!
んあぁー!ムカつくー!

…………。

やっぱ、一回くらいアッシュ落っことすべきか?

……いやいやいや、ちょっと冷静になれ、俺。
最後くらい、楽しい事を考えよう。

最後は、笑って……、

『……ルーク』

だーっ!もう!うるせぇぇええ!つーか、うぜぇええぇ!
ちょっと黙ってろよ、ローレライ!

『ルーク……』

…ぅおい!!ヒトの話、ちゃんと聞いてたか!?
あとちょっとだけで良いから、黙っててくれ!
消えるまでは楽しい事だけ考えるって、決めたんだっ!

『ルーク…』

……うん、だからさ、



「何度も俺の名前を呼ぶんじゃねぇぇえぇ!!!」



すっげぇムカついて、怒鳴りながら上体を起こす。
勢い余って、前のめりになって、

「ほへっ?」

ぼふっと顔からシーツへダイブしてしまった。

「…うー……」

なんでシーツ?……まぁ、いいか。気持ち良いし。
この寝心地の良さ、俺のベッドそのまんまって感じだし。

シーツの肌触りがあんまり気持ち良くて、
俺はまた目を閉じて、眠ってしまいそうになる。

「っも、申し訳ございません、ルーク様! …あの……?」

「んぁ?」

誰の声だ…?なんか聞き覚えあるような、ないような…。
ローレライの声じゃないのは分かるけど…。

…あー……シーツが気持ち良い…、つーか、すげぇ眠ぃ…。
誰の声かとか、もぉ、どうでもいいや…。

「…ルーク様?もしや、お加減がよろしくないのですか?」

…おかげん?細胞崩壊する所なんだから、良いも悪いも…、

……って、あれ?

身体を起こして、眠たい目を擦ると、ようやく焦点が合い始め、視界がクリアになる。

「えー…と?」

視線の先、部屋のドアの傍には、深々と頭を下げるメイドが一人。

「っお、おはようございます、ルーク様! あ、あの、先程は、大変申し訳ありませんでした! お目覚めではないようでしたので、つい二度も声をおかけしてしまいまして…!」

は?なんで謝ってるんだ?

……あ、 俺が「何度も俺の名前を呼ぶな」って言ったからか?

「…あ、悪ぃ。その、お前に言った訳じゃないんだ」

謝ったけど、メイドは頭を下げたままだ。
そりゃそうだ。
メイドにしてみれば「じゃあ誰に言ったんだ」って感じだろう。

「…あー、その、…うん、下がっていいぞ?」

俺の言葉を聞いて、
メイドは「失礼致します」と慌ててまた頭を下げると、
逃げるように部屋から出ていった。

「…ん? 部屋?」

疑問に思いながら、俺は周りを見る。

すっかり見飽きた、俺の部屋。 中央にベッドがあって、お気に入りの剣が飾られていて、観葉植物があって、椅子があって、蓄音機があって、窓際には、いつもの日記帳が置かれたままだ。

あんまり好きじゃない、けど、ここしかない俺の居場所。

俺はちょっと混乱しながら、後ろ頭を掻き始める。

ローレライはどうなったんだ?
つーか、俺、細胞崩壊して死ぬ所だった筈だけど?

俺、なんで屋敷にいんの?
部屋のベッドで寝てんの?
普通に起こされてんの…?

ふと気付いて、頭を掻く手を止める。


髪が、長い。


あれ?俺、これ切ったよな?


……まさか、これは、いやいや、そんなバカな。

…え?

でも、そうなのか…?

ぅえぇええぇー?!マジかよ!!???


ちょっと待て。落ち着け俺。よく考えろ俺。


…いや、でも、やっぱ、ほんとに、これって、


「夢オチ!?」





※※※

第02話へ続く。
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