忍者ブログ

AL逆行itsbetween1and0/14



アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0

第.14話・ガイ04編「予測以上の劣化」です。





第.14話・ガイ04編



「お前、頭痛が起こった時、昼寝するフリして隠してただろ」

ルークが目覚めてすぐに、俺が問うと、

「…ちぇっ、バレたのか。…かっこわり」

ルークはそう言って、気まずそうに後ろ頭を掻いた。

「お前ね、まさか隠し通せるとでも思ったのか?」

「でも、バレてなかったじゃん」

「今までは、な」

「……結構イケると思ってたんだけどなぁ」

口を尖らせて呟くルークの頭を、くしゃくしゃ撫でる。こうやって撫でると、ルークは最近うざがるが、今日は大人しくされるままになっていた。

「隠される方の身にもなってみろ。余計ツラいだろ」

「……でも、お前も母上も言ってたじゃん。最近、俺の頭痛が減ってきて良かった、って」

「…あー、まぁ、そりゃ言ったけどな」

奥方は心から喜んでいた。体調が良くなるくらい。俺も確かに安心して油断していた。
……情けない。

「お前にバレちまったのは、もうしょうがねぇけどさ、他のヤツには言うなよ。特に、母上にはさ」

「お前ねぇ、そりゃ無茶な…」

「約束だからな!」

ルークの真剣な眼差しにぶつかって、俺は息を飲んだ。
……俺は、本当に、ルークに甘い、と我ながら思う。

「…分かった」

「ホントか!?約束しろよ!!」

「あぁ、約束だ。だが、その代わり、お前も約束してくれ」

「何だよ?」

「俺の前では頭痛を我慢しない事」

「っう。……うー…、…うん、分かった、よ」

「約束は守れよ?」

「分かったっつってるだろ!」

ルークは機嫌を損ね、口を尖らせてそっぽ向く。
そんな顔されたら、また頭を撫でたくなっちまうだろが。

「お前、ほんと、可愛いヤツだなぁ」

「はぁ?!可愛い!?なんで!?意味分かんねぇ!!そもそも、可愛いなんて言葉は、女とか子供とかに使うモノだろーがっ!!」

「お前は子供だから良いだろ」

「良くねぇ!子供扱いするなっつーの!!」

そういう事で顔を真っ赤にして怒る所が子供なんだがなぁ。ま、言わないでおくか。

「あっ!ガイ!今、何時だ!?」

「ん?14時前だが?」

「やっべぇ!もうすぐ師匠が来ちまうじゃねーか!」

「まさか剣術の稽古を受けるつもりか?」

「当ったり前だろ!」

ルークは慌ててベッドから出ると、練習用の木刀を手に取る。
部屋を出ようと歩いて行くが、椅子の方へぶつかって行き、それからドアの方へ向かう。
いつもの『真っ直ぐ歩いていたつもり』だろう。頭痛が起こると、方向感覚でも狂うのか、本人は真っ直ぐ歩いているつもりでも、違う方向へ向かってしまい、よく何かにぶつかっていた。

「お前、まだ痛むんだろ?」

「………」

黙りかよ。

「俺の前で頭痛は我慢しないって、約束したよな?」

「…あー、まぁ、ちょとな。軽いヤツ。もう治まってきた」

「今日は調子悪いんだろ。稽古は止めておけって」

「何言ってんだ。そーいう訳にはいかねぇよ。ヴァン師匠は最近また忙しいから1回1回が貴重なんだ。それに、早く強くなりてぇし」

ルークはそう言って部屋を出ていく。
俺も慌てて追いかけて中庭に出た。

「ヴァン師匠っ!」

こちらに向かってくるヴァンを見つけたルークが、嬉しそうに駆け寄っていく。

ヴァンは優しげな笑顔で、ルークの頭を撫でた。
あの表情が演技だと知っている俺は、ヴァンのあの様子を見る度、複雑な気分になる。
あんなにルークに慕われているというのに、ヴァンにとって、ルークは復讐の道具の一つに過ぎない。だが、俺もヴァンと同じ穴の狢。その事実が、最近、辛い。

「ルーク、元気にしていたか?」

「はい、師匠!」

はい師匠、じゃねぇっつーの。
さっきまでフラついてたヤツに、剣術稽古なんつー激しい運動させる訳にはいかないだろ。

「おい(…じゃなかった)、ルーク様、今日の稽古は、」

ルークは俺の方に顔を向けると、口だけ動かす。

『や』『く』『そ』『く』?

約束?…あぁ、そうか。頭痛の事は他のヤツに言わないっていう約束だったな。
……仕方ない。

「今日は、稽古の見学をさせて頂いても構いませんか?」

「見学?なんで?」

「グランツ謡将は、アルバート流剣術の達人ですからね。俺も剣士のはしくれとして、勉強させて頂きたいんです」

「ふーん…、ま、俺の邪魔しないなら何でも良いけどさ」

ヴァンは苦笑しながら、俺に視線を向けた。
シグムント流剣術を使う俺が、今更アルバート流を見る必要はないだろうと言いたげだ。

「では、始めようか、ルーク」

「はいっ!師匠、お願いしますっ!」

剣術稽古が始まったのをみて、俺はベンチに腰かけた。

さすがにヴァンの動きには、無駄がない。ルークの剣を受けて流すだけの動作だったが、それだけで、ヴァンが只者でない事がよく分かる。

俺の剣術、シグムント流剣術は、アルバート流の欠点を補って生まれた流派。
本来、俺の流派は、アルバート流剣術の使い手を補佐し、守る為にある。
だが、剣士として、どちらの流派が本当に強いのか、試してみたくなる事もあった。

ま、剣士としての技量が一枚も二枚も上手のヴァンに、今の俺では敵う訳もないと、分かってはいるが…。

ルークの剣筋も悪くはないんだがなぁ…。あの華奢な体でアルバート流の技を使うのは、かなり体の負担になっているだろう。
記憶を失う前のルークは、それを理解した上で、上手く体を捌いていた。…が、今は、全くの滅茶苦茶だ。スタミナが続かない所か、下手をすれば、発達途上の筋を痛めかねない。

ヴァンはそれを知ってて配慮はするが、教えてやる事はない。
もしかしたら、記憶を取り戻せば体の捌き方も思い出す…と思っているとか?

記憶を取り戻す事がないとしても、もっとちゃんと学べば、ルークは良い剣士になると思う。…と俺が思うのは、親の贔屓目ってヤツだろうか?


いつの間にかルークの息が上がっていた。

「どうした、ルーク?もうお仕舞いか?」

おいおい、お師匠さんよ、それくらいにしといてやれよ。

「まだやれますっ!」

「いいだろう。かかって来なさい」

そろそろ終わりにしてやらないと、ルークが限界だぞ?

俺の視線に気付いたヴァンが、口許に笑みを漏らす。

二人が何度か撃ち合った後、

「まだまだ踏み込みが甘いっ!」

というヴァンの声と共に、ルークは吹き飛ばされた。

「…いってぇー……」

「大丈夫か、ルーク。以前、受身の取り方を教えた筈だが?」

「すみません、師匠…」

ヴァンが手を差し出すと、ルークはその手を取って立ち上がる。

「ルーク、今日はこれくらいにしておこう」

「えぇっ!?師匠、俺、まだやれますっ!!」

「師の目を誤魔化せると思ったか、ルーク?」

「っえ?」

「今日は体調が優れないのだろう。もう休みなさい」

「でも…」

「私は、今週いっぱいバチカルに滞在する予定だ。滞在中は、毎日、稽古をつけに来よう」

「本当ですか!ありがとうございますっ!」

あーあー、あんなに喜んじまって…。

俺はあんなに眩しい笑顔を向けられたら、罪悪感で顔を背けたくなってしまうだろうけど、…さすがはヴァンといった所か。余裕で微笑み返してやがる。

「ただ、公爵様からは許可を頂いているが、まだ奥様にはお話を通していないのだ。公爵様が今夜の夕食に私をお招き下さったので、夜にはお会い出来ると思っていたが…」

「師匠と夕食を一緒に出来るのはすっげぇ嬉しいけど、母上に反対されるのはヤだな…」

あの奥方なら、毎日の剣術稽古と聞いただけで、猛反対しそうだ…。
悪い人ではないんだが、心配性すぎるってのもな…。

「…そうだな。いきなりでは驚かれるかもしれぬ。それに、先にお話を通しておく方が、筋だろう。ガイ・セシル殿、奥様にお会いしたいのだが、案内と取り次ぎをお願いしても構わないかな?」

「もちろんです」

俺は立ち上がると、ルークの方に顔を向ける。

「ルーク様は先にシャワーでも浴びてきては?」

「うん、そうする。師匠、また後で!」

ヴァンに毎日会える事が分かったルークは上機嫌で素直だ。
さっそく屋敷の方へ行ってしまった。

「では、グランツ謡将、ご案内します」

「ガイラルディア様」

そう呼ばれ、俺は目を細める。

その名で呼ばれる時は、同志である事を再認識させられる。

「どうした?何か動きでもあったのか?」

「最近のルークですが、」

「ルーク?」

「頭痛の症状が少なくなってきたと聞きましたが…」

「あぁ、アレか。少なくなった訳じゃない。我慢して隠すのが上手くなっただけさ。もしかしたら、以前より頻度が増したかもしれない」

悪いな、ルーク。もう約束を破っちまった。

「そうですか…」

「それだけか?」

「えぇ。これからは稽古の時に注意するようにしましょう」

…なんだ。ヴァンも一応、ルークの心配はしてるんだな。

「あぁ、そうしてやってくれ。まだ子供だからな。……さぁ、行きましょうか、グランツ謡将」

俺が背を向けて歩き始めた時、

「やはり、ルークは……………」

ヴァンが独り言のように小さく呟いた。


今、何と言った……?


「何か言いましたか、グランツ謡将?」

「いや、何でもない。案内を頼む」

「畏まりました」いつもの笑顔で了承し、ヴァンの前を歩いて先導する。


さっきの言葉、どういう意味だ?

聞こえないフリをして誤魔化したが、
さっきヴァンは、『やはり、ルークは予測以上の劣化…いや、何か欠陥が?』と小さく呟いた。

ずっと前に、奥方は『実験』と口を滑らせた事がある。


『実験』『劣化』『欠陥』……。


どの言葉も『人間』に対して使って良い言葉じゃないだろ…!


俺は怒りを隠す事に必死で、その怒りがどこから来るものなのか、深く考えもしなかった。






※※※続きます※※※



PR