AL逆行itsbetween1and0/14 AL長編/it's between 1and0 2012年07月29日 アシュルク逆行長編/it's between 1 and 0 第.14話・ガイ04編「予測以上の劣化」です。 第.14話・ガイ04編 「お前、頭痛が起こった時、昼寝するフリして隠してただろ」 ルークが目覚めてすぐに、俺が問うと、 「…ちぇっ、バレたのか。…かっこわり」 ルークはそう言って、気まずそうに後ろ頭を掻いた。 「お前ね、まさか隠し通せるとでも思ったのか?」 「でも、バレてなかったじゃん」 「今までは、な」 「……結構イケると思ってたんだけどなぁ」 口を尖らせて呟くルークの頭を、くしゃくしゃ撫でる。こうやって撫でると、ルークは最近うざがるが、今日は大人しくされるままになっていた。 「隠される方の身にもなってみろ。余計ツラいだろ」 「……でも、お前も母上も言ってたじゃん。最近、俺の頭痛が減ってきて良かった、って」 「…あー、まぁ、そりゃ言ったけどな」 奥方は心から喜んでいた。体調が良くなるくらい。俺も確かに安心して油断していた。 ……情けない。 「お前にバレちまったのは、もうしょうがねぇけどさ、他のヤツには言うなよ。特に、母上にはさ」 「お前ねぇ、そりゃ無茶な…」 「約束だからな!」 ルークの真剣な眼差しにぶつかって、俺は息を飲んだ。 ……俺は、本当に、ルークに甘い、と我ながら思う。 「…分かった」 「ホントか!?約束しろよ!!」 「あぁ、約束だ。だが、その代わり、お前も約束してくれ」 「何だよ?」 「俺の前では頭痛を我慢しない事」 「っう。……うー…、…うん、分かった、よ」 「約束は守れよ?」 「分かったっつってるだろ!」 ルークは機嫌を損ね、口を尖らせてそっぽ向く。 そんな顔されたら、また頭を撫でたくなっちまうだろが。 「お前、ほんと、可愛いヤツだなぁ」 「はぁ?!可愛い!?なんで!?意味分かんねぇ!!そもそも、可愛いなんて言葉は、女とか子供とかに使うモノだろーがっ!!」 「お前は子供だから良いだろ」 「良くねぇ!子供扱いするなっつーの!!」 そういう事で顔を真っ赤にして怒る所が子供なんだがなぁ。ま、言わないでおくか。 「あっ!ガイ!今、何時だ!?」 「ん?14時前だが?」 「やっべぇ!もうすぐ師匠が来ちまうじゃねーか!」 「まさか剣術の稽古を受けるつもりか?」 「当ったり前だろ!」 ルークは慌ててベッドから出ると、練習用の木刀を手に取る。 部屋を出ようと歩いて行くが、椅子の方へぶつかって行き、それからドアの方へ向かう。 いつもの『真っ直ぐ歩いていたつもり』だろう。頭痛が起こると、方向感覚でも狂うのか、本人は真っ直ぐ歩いているつもりでも、違う方向へ向かってしまい、よく何かにぶつかっていた。 「お前、まだ痛むんだろ?」 「………」 黙りかよ。 「俺の前で頭痛は我慢しないって、約束したよな?」 「…あー、まぁ、ちょとな。軽いヤツ。もう治まってきた」 「今日は調子悪いんだろ。稽古は止めておけって」 「何言ってんだ。そーいう訳にはいかねぇよ。ヴァン師匠は最近また忙しいから1回1回が貴重なんだ。それに、早く強くなりてぇし」 ルークはそう言って部屋を出ていく。 俺も慌てて追いかけて中庭に出た。 「ヴァン師匠っ!」 こちらに向かってくるヴァンを見つけたルークが、嬉しそうに駆け寄っていく。 ヴァンは優しげな笑顔で、ルークの頭を撫でた。 あの表情が演技だと知っている俺は、ヴァンのあの様子を見る度、複雑な気分になる。 あんなにルークに慕われているというのに、ヴァンにとって、ルークは復讐の道具の一つに過ぎない。だが、俺もヴァンと同じ穴の狢。その事実が、最近、辛い。 「ルーク、元気にしていたか?」 「はい、師匠!」 はい師匠、じゃねぇっつーの。 さっきまでフラついてたヤツに、剣術稽古なんつー激しい運動させる訳にはいかないだろ。 「おい(…じゃなかった)、ルーク様、今日の稽古は、」 ルークは俺の方に顔を向けると、口だけ動かす。 『や』『く』『そ』『く』? 約束?…あぁ、そうか。頭痛の事は他のヤツに言わないっていう約束だったな。 ……仕方ない。 「今日は、稽古の見学をさせて頂いても構いませんか?」 「見学?なんで?」 「グランツ謡将は、アルバート流剣術の達人ですからね。俺も剣士のはしくれとして、勉強させて頂きたいんです」 「ふーん…、ま、俺の邪魔しないなら何でも良いけどさ」 ヴァンは苦笑しながら、俺に視線を向けた。 シグムント流剣術を使う俺が、今更アルバート流を見る必要はないだろうと言いたげだ。 「では、始めようか、ルーク」 「はいっ!師匠、お願いしますっ!」 剣術稽古が始まったのをみて、俺はベンチに腰かけた。 さすがにヴァンの動きには、無駄がない。ルークの剣を受けて流すだけの動作だったが、それだけで、ヴァンが只者でない事がよく分かる。 俺の剣術、シグムント流剣術は、アルバート流の欠点を補って生まれた流派。 本来、俺の流派は、アルバート流剣術の使い手を補佐し、守る為にある。 だが、剣士として、どちらの流派が本当に強いのか、試してみたくなる事もあった。 ま、剣士としての技量が一枚も二枚も上手のヴァンに、今の俺では敵う訳もないと、分かってはいるが…。 ルークの剣筋も悪くはないんだがなぁ…。あの華奢な体でアルバート流の技を使うのは、かなり体の負担になっているだろう。 記憶を失う前のルークは、それを理解した上で、上手く体を捌いていた。…が、今は、全くの滅茶苦茶だ。スタミナが続かない所か、下手をすれば、発達途上の筋を痛めかねない。 ヴァンはそれを知ってて配慮はするが、教えてやる事はない。 もしかしたら、記憶を取り戻せば体の捌き方も思い出す…と思っているとか? 記憶を取り戻す事がないとしても、もっとちゃんと学べば、ルークは良い剣士になると思う。…と俺が思うのは、親の贔屓目ってヤツだろうか? いつの間にかルークの息が上がっていた。 「どうした、ルーク?もうお仕舞いか?」 おいおい、お師匠さんよ、それくらいにしといてやれよ。 「まだやれますっ!」 「いいだろう。かかって来なさい」 そろそろ終わりにしてやらないと、ルークが限界だぞ? 俺の視線に気付いたヴァンが、口許に笑みを漏らす。 二人が何度か撃ち合った後、 「まだまだ踏み込みが甘いっ!」 というヴァンの声と共に、ルークは吹き飛ばされた。 「…いってぇー……」 「大丈夫か、ルーク。以前、受身の取り方を教えた筈だが?」 「すみません、師匠…」 ヴァンが手を差し出すと、ルークはその手を取って立ち上がる。 「ルーク、今日はこれくらいにしておこう」 「えぇっ!?師匠、俺、まだやれますっ!!」 「師の目を誤魔化せると思ったか、ルーク?」 「っえ?」 「今日は体調が優れないのだろう。もう休みなさい」 「でも…」 「私は、今週いっぱいバチカルに滞在する予定だ。滞在中は、毎日、稽古をつけに来よう」 「本当ですか!ありがとうございますっ!」 あーあー、あんなに喜んじまって…。 俺はあんなに眩しい笑顔を向けられたら、罪悪感で顔を背けたくなってしまうだろうけど、…さすがはヴァンといった所か。余裕で微笑み返してやがる。 「ただ、公爵様からは許可を頂いているが、まだ奥様にはお話を通していないのだ。公爵様が今夜の夕食に私をお招き下さったので、夜にはお会い出来ると思っていたが…」 「師匠と夕食を一緒に出来るのはすっげぇ嬉しいけど、母上に反対されるのはヤだな…」 あの奥方なら、毎日の剣術稽古と聞いただけで、猛反対しそうだ…。 悪い人ではないんだが、心配性すぎるってのもな…。 「…そうだな。いきなりでは驚かれるかもしれぬ。それに、先にお話を通しておく方が、筋だろう。ガイ・セシル殿、奥様にお会いしたいのだが、案内と取り次ぎをお願いしても構わないかな?」 「もちろんです」 俺は立ち上がると、ルークの方に顔を向ける。 「ルーク様は先にシャワーでも浴びてきては?」 「うん、そうする。師匠、また後で!」 ヴァンに毎日会える事が分かったルークは上機嫌で素直だ。 さっそく屋敷の方へ行ってしまった。 「では、グランツ謡将、ご案内します」 「ガイラルディア様」 そう呼ばれ、俺は目を細める。 その名で呼ばれる時は、同志である事を再認識させられる。 「どうした?何か動きでもあったのか?」 「最近のルークですが、」 「ルーク?」 「頭痛の症状が少なくなってきたと聞きましたが…」 「あぁ、アレか。少なくなった訳じゃない。我慢して隠すのが上手くなっただけさ。もしかしたら、以前より頻度が増したかもしれない」 悪いな、ルーク。もう約束を破っちまった。 「そうですか…」 「それだけか?」 「えぇ。これからは稽古の時に注意するようにしましょう」 …なんだ。ヴァンも一応、ルークの心配はしてるんだな。 「あぁ、そうしてやってくれ。まだ子供だからな。……さぁ、行きましょうか、グランツ謡将」 俺が背を向けて歩き始めた時、 「やはり、ルークは……………」 ヴァンが独り言のように小さく呟いた。 今、何と言った……? 「何か言いましたか、グランツ謡将?」 「いや、何でもない。案内を頼む」 「畏まりました」いつもの笑顔で了承し、ヴァンの前を歩いて先導する。 さっきの言葉、どういう意味だ? 聞こえないフリをして誤魔化したが、 さっきヴァンは、『やはり、ルークは予測以上の劣化…いや、何か欠陥が?』と小さく呟いた。 ずっと前に、奥方は『実験』と口を滑らせた事がある。 『実験』『劣化』『欠陥』……。 どの言葉も『人間』に対して使って良い言葉じゃないだろ…! 俺は怒りを隠す事に必死で、その怒りがどこから来るものなのか、深く考えもしなかった。 ※※※続きます※※※ ※ PR